第171話:両親
シンとエイジが死んだことになって。SSS級冒険者の序列が繰り上がって、序列第2位だったオルテガ・グランツが1位になったんだけど。
オルテガはロナウディア王国の王都まで、俺を訪ねて来た。
「俺がSSS級冒険者1位だと……笑わせるだろう? 真の実力者が誰か、俺だって解っている。シンの爺さんが認めたのは俺じゃなくて……アリウス、おまえだ!」
「オルテガさん。俺は序列なんて興味ないんだけど」
「グレイとセレナの弟子のおまえなら、そう言うと思ったが……ならば、頼む! アリウス、俺と手合わせしてくれないか。自分が飾り物の序列1位だとハッキリさせておきたいんだ」
俺にはオルテガと戦う理由なんてないけど。オルテガは真剣だったからな。一度だけの約束で、オルテガと戦った。結果は――まあ、レベルが違うからな。
「これほどか……これほどモノが違うのかよ。ハハハ……SSS級冒険者の序列なんて、本当に何の意味もないな!」
オルテガは憑き物が落ちたように、スッキリした顔になって。
「なあ、アリウス。冒険者ギルドに人の姿をした魔物たちが巣食っていることを、おまえは知っているか? そいつらが俺たちに魔王討伐を命じたんだ」
「ああ、知っているけど」
冒険者ギルドを支配する奴ら。そいつらは国という枠組みを越えた冒険者ギルドを支配することで、国を超える財力と権力を持っている。
冒険者ギルドは冒険者から魔物の素材やマジックアイテムを買い取って、市場に流す。世界規模で言えば、莫大な利益が生まれるし。貴重な素材を提供することで、王侯貴族や教会組織のトップなどの権力者との繋がりも強い。
冒険者は依頼を請けるだけで、基本自由だけど。冒険者ギルドの指示に逆える冒険者なんて、そうはいないからな。奴らにとって冒険者は戦力だ。
財力も権力も戦力も手に入れた奴らは、人間が支配する国々における最大の勢力だろう。
「俺は代々SSS級冒険者を輩出しているグランツ家の人間だが。グランツ家は冒険者ギルドに巣食う魔物たちと、昔から関係が深くてな。奴らのことは、それなりに良く解っているつもりだ。
だから俺は真の実力者を差し置いて、飾り物の序列1位になる以上。俺にしかできないことをやる。奴らの支配から完全に逃れることはできないが、俺が冒険者ギルドを
シンが身体を張って、魔王アラニスと戦わなければ。冒険者ギルドの
勿論、各地の冒険者ギルドのギルドマスターや職員は普通に善良な人間で。冒険者ギルドを支配する奴らだって、普段から介入している訳じゃないけど。何かあったときに強制力を効かせることが問題なんだよ。
「だけどオルテガさん。冒険者ギルドを支配する奴らと関係が深いのに、奴らに逆らうことなんてできるのか?」
「そこは上手くやるさ。俺はシンの爺さんには一度も勝てなかったが。別のやり方でSSS級冒険者序列1位の価値を証明して見せるぜ」
オルテガが覚悟を決めていることが解ったから。俺はしばらくの間、冒険者ギルドのことはオルテガに任せることにしたんだよ。
※ ※ ※ ※
「アリウスと私たち3人で食事なんて。なんか懐かしい気分ね」
今、俺は実家のジルベルト家で。父親のダリウスと母親のレイアと、夕食のテーブルを囲んでいる。
俺は5歳で冒険者になって。グレイとセレナと世界中のダンジョンを巡っていたから。その間は家族と一緒に食事をすることなんてなかった。
学院に入ってからも寮暮らしで。学院に滅多に行かなくなってから、実家に戻って来たけど。先月までは弟のシリウスと妹のアリシアがいたからな。
「だけどもう少し頻繁に一緒に食事ができないものかしら」
「母さん、悪いとは思っているけど。俺も忙しいんだよ。やりたいことが見つかったからな」
俺はこの世界に積極的に関わることにしたから。色々なところに出向くことが増えて、家にいないことが多い。
「あら。アリウスが忙しいのは、やりたいことのせいだけじゃないわよね」
レイアがニマニマ笑う。
「
俺はみんなと週に一度は会っている。ジェシカは『竜の王宮』を攻略中だし。エリスとソフィアは自分の所領にいることも多い。だけど『
でもレイアが何でそれを知っているんだよ? 王国宰相夫人のレイアは諜報部にも社交界にも通じているし。元SS級冒険者ということもあって、レイアの情報収集能力は侮れないけど……まさかな?
「アリウス、私は息子の私生活を探るような真似はしないわ。彼女たちと『
俺の疑問を見透かしたようにレイアが応える。ああ、そういうことか。レイアはコミュ力が高いから、みんなと親しくなったんだな。
「なあ、アリウス。俺も息子の恋愛事情に口を挟むつもりはないが。彼女たちのことは、どうするつもりなんだ?」
ダリウスが真っ直ぐに俺を見る。
「アリウスが真剣に悩んでいることは解っているが。男の責任というモノがあるからな。おまえだって、このままって訳にはいかないことは、解っているだろう?」
「ああ。勿論、俺も誰か一人を選ぶ必要があることは解っているよ。みんなには待って貰っているからな。俺が決めないと」
「アリウス。こんなことを言うと、不謹慎と思うかもしれない気けど。必ずしも一人である必要はないわよ。それも含めて、アリウスと彼女たちが決めることだけど」
レイアが言っているのは、貴族なら複数の相手と結婚することができるって話だろう。
いきなり結婚の話とか。俺の感覚的には、どうかと思うけど。俺はまだ誰とも付き合っていないからな。だけど、まあ。その話は置いておいて。
「それは解っているけど。みんなを選ぶのは、誰も選ばないことと同じだよな」
「そこは気持ちの問題だけど……ごめんね、アリウス。私にも本当のところは解らないわ。私とダリウスはお互いに他の相手なんて考えていなかったから」
レイアの言葉に、ダリウスが愛おしそうな顔で頷く。いや、息子の前でイチャつくなよ。
「もし誰か1人だけに出会っていたら、俺も悩むことなんてなかったよ。だけど俺はみんなと出会って、みんなの違うところが好きになった。
だから比べたくないけど、みんなの気持ちを裏切りたくないからな。時間が掛かるかもしれないけど、俺が決めるよ」
「だったら徹底的に悩むしかないな。だがな、アリウス。おまえが答えを出すまで、みんなが待ってくれるとは限らないぞ」
「ああ。それも解っているからな」
俺はみんなのことが大切で、どんなことがあっても守りたい。だけどみんなを縛りたい訳じゃない――なんて、そんなことを考えていた頃もあったな。
学院の1年生の夏にみんなと距離を取って。
「だけど俺はみんなの気持ちを裏切らないために、嘘はつきたくないんだよ」
みんなが待てないとしても。これは俺の譲れない線だからな。
「アリウスの気持ちは解ったが。後悔だけはしないようにしろよ」
「そうね。私は18歳でダリウスと結婚して。アリウスが生まれたのは19歳のときよ。それでも世の中的には、決して早過ぎた訳じゃないわ」
ダリウスの方が1歳年上だけど。俺も今年の夏で19歳だからな。
正直に言えば。自分が結婚するなんて、俺は想像できない。前世の俺は、本気で人を好きになったことすらなかったし。前世の感覚だと、10代で結婚なんてあり得ないからな。
だけど俺が転生したこの世界の常識が、俺の感覚と違うことは理解しているし。俺が何を思おうと、みんながどう思うかは別だ。
「ああ、解っているよ。みんなをいつまでも、待たせる訳にはいかないからな」
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 18歳
レベル:13,756(+85)
HP:145,848(+904)
MP:222,444(+1,376)
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