第169話:ゲイルのパーティー


『東方教会』の本部があるアリスト公国から戻って数日後。

 俺はカーネルの街の冒険者ギルドに向かった。ゲイルたちと一緒に酒を飲もうって話になったからだ。


 ジェシカたちが攻略している高難易度ハイクラスダンジョン『竜の王宮』は、カーネルの街から離れている。だから今ジェシカたちは別の街を拠点にしている。

 だけど俺がカーネルの街に行くときは、声を掛けてと言われているから。『伝言メッセージ』を送ったら、ジェシカたちも後から合流することになった。


「アリウス。まあ、とりあえず飲もうぜ」


 ゲイルのパーティーの連中とテーブルを囲む。ゲイルたちは酒のつまみとして軽く食べている程度だけど。俺の前には、肉中心で山盛りの大皿が何枚も並んでいる。やっぱり俺は高級な料理より、こういうメシが好きなんだよ。


 俺が『魔王の代理人』になった後。ここに来たときに、新顔の冒険者に絡まれたけど。ジェシカやゲイルたちが文句を言ったからだろう。もう俺に絡んで来る奴はいない。


「アリウスは相変わらず良く食うよな。それで、最近の調子はどうなんだよ?」


「まあ、それなりにやっているよ。俺はもっと色々な奴と関わることにしたから。ダンジョンだけじゃなくて、他のところに行くことが増えたな」


 『東方教会』のことを隠すつもりはないけど。わざわざ自分から言うような話じゃないからな。

アリスト公国の公都から大聖堂が突然消えたことは、噂になっているけど。俺の仕業だと気づいている奴は、そこまで多くないだろう。


「アリウスが関わるって言うと、過激なことを想像するけどよ。人と関わるのは悪い話じゃないぜ。アリウス、良い傾向じゃねえか」


 ゲイルは面倒見が良い奴だからな。俺のことを心配してくれているんだろう。


「ゲイルのたちの方は、どうなんだよ? カーネルの街にいるってことは、今も『ギュネイの大迷宮』を攻略しているんだよな」


「俺たちは相変わらずだな。アリウスやジェシカたちみたいに、ダンジョンをガンガン攻略する気はねえからな」


「まあ、俺らは酒が飲めて、美味いメシが食えれば十分だからな」


「金に困っている訳じゃねえしよ」


 ゲイルのパーティーのメンバーたちが同意するけど。


「へッ! あんたたちはそんなんだから、ジェシカの姉御たちに先を越されるんだよ」


 ツインテール女子のヘルガは、挑発するように笑うと。グラスに並々と注いだ琥珀色の蒸留酒を飲み干す。

 ヘルガもこの2年弱の間に強くなって。今じゃA級冒険者だ。


「何だよ、ヘルガ。今日はやけに絡むな。おまえも、もう一人前なんだし。ダンジョンをガンガン攻略したいなら、そういうパーティーを紹介してやろうか?」


 ゲイルは顔が広いからな。伝ならあるだろう。


「なあ、ゲイル。そういう話じゃねえんだよ」


 ヘルガは罰が悪い顔をして、頭をガシガシと掻く。


「あんたたちに面倒を見て貰っている私が言う話じゃねえけど。人のことよりも自分たちのことを考えろよ。あんたたちが本気になれば、S級冒険者くらいなれる筈だぜ」


 出会った頃のヘルガは、自信過剰で直ぐに人に突っ掛かるガキだった。そんなヘルガがA級冒険者になれたのは、ゲイルたちが世話を焼いたからだ。

 まあ、ヘルガが素直に敗けを認めたから。ゲイルたちも手を貸したんだろうけど。


 ヘルガもゲイルたちに感謝していて。ゲイルたちの実力も解っているから、自分のために足踏みしているように見えて、歯痒いんだろう。


「なあ、ヘルガ。おまえが殊勝なことを言うなんて、変なものでも食ったのか?」

「おい、ゲイル。茶化すなよ!」


 怒った顔のヘルガに、ゲイルは苦笑する。


「だけど俺たちは好きでやっているからな。おまえが気にする必要はないぜ」


「そうだぜ、ヘルガ。おまえがパーティーに入ってから、毎日ダンジョンに行くようになったけどよ。俺らだけの頃は、週の半分くらいだったからな」


「そうそう。そもそも俺たちは上を目指すなんて、考えていないぜ。まあ、毎日ダンジョンに行くようになって、稼ぎが増えたからな。誰も文句はねえよ」


 ゲイルのパーティーは、みんな良い奴だからな。ヘルガを育てるために時間を割いて来たことを、恩着せがましく言うことはない。

 まあ、俺にはヘルガの気持ちも解るけどな。


「ヘルガ、おまえがそう思うなら。おまえがもっと強くなって、ゲイルたちを引っ張ってやれよ。パーティーメンバーのおまえがやることに、ゲイルたちだって文句はないだろう」


 同じA級冒険者でもヘルガは100レベル台前半で、ゲイルたちは余裕で200レベル台。ヘルガは今でも鍛えて貰う立場だけど。

 ゲイルたちはヘルガを普通に仲間だと思っているからな。パーティーを組んでいるヘルガがSS級冒険者を目指せば、ゲイルたちも必然的にSS級を目指すことになる。


「私がゲイルたちを引っ張れば良いってことか……なるほどね。確かにそうだな。じゃあ、そういうことで。みんな、覚悟しておけよ」


 ヘルガは吹っ切れたようにニヤリと笑うと。俺のグラスに琥珀色の酒を並々と注ぐ。


「さすがはアリウスさんだぜ。30歳にもなって、まだ独身のゲイルとは言うことが違うな。こいつは私の奢りだ。まあ、飲んでくれよ」


「おい、ヘルガ。俺が独身なのは関係ねえだろう。俺はモテないんじゃなくて、好きで結婚してないんだからな」


「ゲイル、良く言うぜ! ゲイルがモテるところなんか、見たことねえからな」


 ヘルガは上機嫌になって、鼻歌を歌う。


「アリウス、ヘルガに余計なことを言いやがって。上なんて目指したら、これからもサボれねえだろう」


 ゲイルは気のない感じで言うけど。上を目指すことを否定しないんだな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 18歳

レベル:13,671(+18)

HP:144,944(+192)

MP:221,068(+294)

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