第168話:求めるモノ


「やっぱり、こうなるか」


 俺は思わず呟く。『東方教会』の大聖堂から出た直後から、俺を尾行している奴がいる。

 一般人を装っているけど。尾行があからさま過ぎるんだよ。


 時間と共に、尾行している奴がどんどん増えていく。最初の1人以外は季節外れの厚手のコートを着ていて。武器を隠しているのがミエミエなんだよ。


 『東方教会』のテロリストと言っても、こいつらが相手にするのは普通の貴族や商人だからな。レベルが高い奴と戦ったことがないんだろう。


 俺は誘いを掛けるように、裏通りに向かう。これまで俺が戦って来た奴らなら、誘いを掛けていることくらい気づく筈だけど。

 『東方教会』のテロリストたちは、まるで警戒していない。尾行していることすら、もう隠すつもりがないのか。さらに数が増えて、集団で追って来る。


「なあ、一応言っておくけど。今度は俺も反撃するからな」


 袋小路に誘い込んで振り向くと。相手の数は27人。全員武器を抜いている。


「魔王の手先が……我らが神の制裁を加えてやる!」


 とりあえず、こいつらは人を殺すことに慣れているみたいだな。殺すことに躊躇ちゅうちょがない。

 まあ、だったら俺も遠慮する必要はないよな。


※ ※ ※ ※


 『認識阻害』と『透明化』を発動して、俺は大聖堂に戻った。教皇ルードの居場所は『索敵サーチ』で解っているから直行する。


 教皇ルードは豪華な私室で、酒を飲んでいた。ホント、こいつらは警戒心が足りないよな。


「なあ、教皇ルード。面倒なことをさせるなよ」


「だ、誰だ! ……アリウス・ジルベルトか? どこにいる? 隠れていないで、出て来い!」


 姿が見えない俺を、教皇ルードは慌てて探す。

 俺が『認識阻害』と『透明化』を解除しない理由は、恐怖心を煽るのと証拠を残さないためだ。


 姿が見えない相手に襲われるのは、普通の奴なら怖いだろう。

 しかも一度襲われたら、これからもいつ襲われるかと怯えることになる。


 証拠の方は、俺がやったのがミエミエなことは解っているけど。誰も俺の姿を見ていないからな。俺だと断定することはできないだろう。


「とりあえず、こいつらは返すよ」


 俺は収納庫ストレージから27人の死体を取り出す。ルードの私室が血まみれの死体の山で埋め尽くされる。


 人間も死んだらモノだからな。収納庫に入れても問題ない。

 全員殺したし。念のために周囲に『認識阻害』を展開してから殺したからな。こっち・・・の目撃者も残っていない。


「こ、これは……」


 死体の山を見て、教皇ルードが真っ青になる。ようやく事態を理解したようだけど。


「今回は大人しく帰るつもりだったのに。アリサが忠告したよな?  まあ、解らない奴には、解らせてやるよ」


 痛い目を見ないと解らない奴は多い。

 だけど教皇ルードを殺しても、たぶんこの問題は解決しないだろう。代わりの奴が教皇になるだけの話だからな。


 だからこいつには、徹底的に恐怖を植えつけてやる。


 俺は『認識阻害』を発動したまま、魔力を放つ。

 凝縮した魔力の光が一気に広がって、大聖堂を飲み込んだ。


 光が収まると。何もない・・・・空間に教皇ルードと、大聖堂にいた『東方教会』の神官たちが浮いている。


「き、貴様は……な、何をしたのだ?」


「何って、大聖堂を消滅させたんだよ。言っておくけど、今回は・・・誰も殺してないからな」


 誰1人殺さずに大聖堂だけを消滅させる。『索敵』で大聖堂にいる奴の位置は全部把握していたし。今の俺なら、これくらいの魔力操作は難しくない。


「教皇ルード。次はこんな面倒なことをしないで、皆殺しにするからな」


 非武装中立を謳う小国アリスト公国の公都の中心部に。この日、巨大なクレーターができた。


※ ※ ※ ※


 人に関わることで、見えて来るモノがある。自分がどんな人間なのかってことだ。


 例えば『東方教会』のテロリストたち。奴らは普段敬虔な信者だけど。自分たちが正義だと信じているから、敵を殺すことに何の躊躇ちゅうちょもない。

 頭のおかしい連中だと思うけど。本人たちは正義の戦いをしているつもりだからな。


 だけど俺がやって来たことだって。端から見たら、頭がおかしいだろう。

 俺はギリギリの戦いを延々と続けて、強くなることを追い求めて来たけど。

 一瞬でも気を抜けば死ぬような状況に、自分を置き続けるのって。冷静に考えれば、俺ってサイコ野郎だよな。


 いや、初めから自覚はあったけど。戦闘狂って、そういうモノだろう。

 普通の人間は自分が死ぬことを天秤に掛けてまで、強くなろうとは思わないからな。


 真面目な話。10番目の最難関ダンジョンを攻略するまで、俺はいつ死んでもおかしくなかった。それだけギリギリの戦いを続けて来たんだよ。


 勿論、死ぬつもりなんて一切なくて。勝つことだけを考えていたけど。

 自分を追い詰めないと、強くなれないし。魂を削るような戦いは堪らなく楽しいからな。


 俺はみんなが大切で。どんなことがあっても、みんなを守りたいけど。みんなを守るために強くなった訳じゃないからな。

 どこまで行っても俺は戦闘狂で、強くなりたいだけだった・・・


 強くなること以外に、やりたいことを見つけた今でも。本質的なところは、何も変わっていない。

 こんな俺に共感できるのはグレイとセレナくらいで。あとは……まあ、魔王アラニスだな。


 アラニスは俺みたいな無茶はしないけど。戦いに関して達観している。

 圧倒的な力を持つアラニスは、もし自分より強い奴がいるなら。そいつに殺されても構わないと思っているからな。


「アリウス、君は本当に大馬鹿野郎だね。私と同じステージに、こんなに早くたどり着くなんて」


 俺が10番目の最難関ダンジョンを攻略したことを伝えると。アラニスは本気で楽しそうに笑った。300年以上生きているとは思ないほど、無邪気な顔で。


 だけどこんな俺のことを、みんなは好きだと言ってくれた。

 だから俺もその想いに応えたいと思う。


 ギリギリの戦いと強くなること以外に、俺は何を求めるのか。それが解れば答えは出るだろう。


 俺がこの世界にもっと積極的に関わろうとしたのは、そうしたい・・・・・と思ったからだ。

 だからこの世界に関わることで、俺が求めるモノが見つかる筈だ。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 18歳

レベル:13,653

HP:144,752

MP:220,774

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