第164話:竜の王宮


 今日、俺はジェシカたちとダンジョンに来ている。

 たまには一緒にダンジョンに行こうって、ジェシカに誘われたからだ。


「今、私たちはこの階層を攻略中なの。みんな、ここからは気合いを入れるわよ!」


 ここまでジェシカたちS級冒険者バーティー『白銀の翼』は、全く危なげなく戦っていた。俺の出番が全然ないくらいに。

 だけど攻略中の階層ってことは、いよいよ本気のジェシカたちが見れるってことだな。


「とりあえず、俺は手出しなくて良いんだよな?」


「ええ。もし危なくなったら、撤退するから。アリウスは手を出さないでね」


「アリウス君に、今のあたしたちの実力を見せてあげるよ。まあ、昼寝でもしながら見ててよね」


 マルシアがニヤニヤ笑う。ふざけているように見えるけど、目は真剣だ。


「じゃあ、扉を開けるよ」


 マルシアの言葉に、ジェシカたちが頷く。


 中は体育館くらいの広い部屋で、天井も10mくらいある。

 部屋の奥には、体長8m級の竜の群れが待ち構えていた。


 ここは高難易度ハイクラスダンジョン『竜の王宮』。高難関ダンジョンの中では、最も攻略難易度が高いダンジョンだ。

 目の前の竜も太古エンシェンの竜ドラゴンまではいかないけど。500レベルを余裕で超えている。それが6体だ。


 2年前の『白銀の翼』なら、とても勝てる相手じゃないけど。


「『流星雨メテオフォール』!」


 魔術士のマイクが第10界層魔法で、出会い頭の先制攻撃を仕掛ける。

 同時に治癒士ヒーラーのサラが支援魔法バフを連発する。


「『完全要塞フルフォートレス』!」


 タンクのジェイクがスキルを発動すると、ジェシカたちの前に巨大な魔力の壁ができる。これで準備は整ったな。


 マイクの『流星雨』で竜のHPを削ったけど。相手も500レベル超だから、仕留めるほどのダメージじゃない。

 6体の竜が反撃を開始する。まずはドラゴンブレスの一斉放射。魔力の壁を、6本の灼熱の炎が焼く。


 だけどジェシカたちも反撃は予想していたからな。サラの支援魔法で強化された魔力の壁は、なんとかドラゴンブレスに耐える。


「アラン、行くわよ!」


「ああ。ジェシカ、右は任せろ!」


 竜たちが接近したタイミングに合わせて。ジェシカとアランが魔力の壁の左右から飛び出して行く。フルプレートで重装備のアランも動きは悪くない。


「これくらいの魔物モンスターを軽く倒せないと。いつまで経ってもアリウスに追いつけないじゃない!」


 蒼いハーフプレートに、愛用のバスタードソード。ジェシカが加速する。竜たちを翻弄するように動きながら、HPを削って行く。


「全くだな! アリウスさん、見ててくれよ――『殲滅エクスターミネイトスラッシュ』!」


 アランがスキルを発動すると、大剣が金色の魔力を帯びる。渾身の一撃が最初の1体のHPを削り切る。


「『電光プラズマティックレイ』!」


 竜たちの攻撃がジェシカとアランに集中しないように。マイクがタイミングを測って魔法で攻撃すると。ジェイクも魔力の壁を押し上げて、竜たちを牽制する。


「よし、次に行くわよ!」


 ジェシカも1体を倒して、2体目の相手をする。アランも乱戦になると溜め技のスキルを連発しないで、通常攻撃に切替えた。溜め技は隙ができるから良い判断だ。


 このタイミングで、1体の竜が魔力の壁を迂回するように動いた。後方にはDEFの低い魔術士のマイクと治癒士のサラがいるから、抜けられるとマズいな。

 だけど迂回しようとした竜は、突然首が落ちてエフェクトともに消える。


「回り込むにしても、もっと用心しないとね。あたしが控えているんだから」


透明化インビジブル』と『認識阻害アンチパーセプション』を発動したマルシアの不意打ちだ。

 マルシアはニヤニヤしてるけど。ふざけているように見えて、マルシアは冒険者として優秀なんだよな。


 数を半分に減らした竜たちを、ジェシカたちは10分ほどで殲滅した。


「おまえたちも本当に強くなったよな」


 ジェシカたちは全く無傷という訳じゃないけど。サラの支援魔法でダメージを軽減していたし。HPが減れば直ぐに回復させていたからな。この階層でも安全マージンは十分取れている。


「アリウス君、もっと褒めて良いんだよ。あたしたちも『ギュネイの大迷宮』を攻略しただけのことはあるでしょう?」


 ジェシカたちはカーネルの街の近くにある高難易度ダンジョン『ギュネイの大迷宮』を、半年ほど前に攻略した。

 『ギュネイの大迷宮』も高難易度ダンジョンの中でも、攻略難易度が高いダンジョンで。最下層には500レベル前後の魔物が出現するし。ラスボスは600レベル台だ。


「マルシア、あまり調子に乗るなよ。だけどおまえたちが強くなったことは素直に認めるよ。2年半で『ギュネイの大迷宮』を攻略か。良く頑張ったな」


 最難関トップクラスダンジョンをソロで攻略している俺が言うと、嫌みに聞こえるかも知れないけど。『ギュネイの大迷宮』クラスのダンジョンを2年半で攻略したのは早い方だからな。

 『ギュネイの大迷宮』の攻略を始めた頃のジェシカたちは300レベルそこそこだったけど。今は500レベル台半ばになった。そろそろSS級も見えて来たな。


「アリウスにそう言って貰えると、凄く嬉しいわ!」


「ああ。アリウスさんが認めてくれたんだからな!」


 ジェシカとアランは本当に嬉しそうだ。


「そうだよね。ジェシカは最愛のアリウス君・・・・・・・・に褒めて貰えたんだから。嬉しいに決まっているよね」


 マルシアがニマニマ笑う。


「マ、マルシア! あんたはもう……」


 マルシアに揶揄からかわれて、ジェシカは怒るけど。


「だけど……認めるわよ。私はアリウスが大好きで、尊敬しているから。誰よりもアリウスが褒めてくれたことが嬉しいのよ」


 ジェシカは顔を真っ赤にしながら、堂々と宣言する。

 ジェシカがここまで言うとは思っていなかったのか。マルシアを含めて『白銀の翼』の全員が驚いているけど。

 

 俺は『絶対防壁アブソリュートシールド』を周囲に展開して、全員の安全を確保する。俺もジェシカの想いに、正直に応えないとな。


「ジェシカ、俺もジェシカが大切で。どんなことがあっても、ジェシカのことを守りたいと思う。だけど俺にとって、ジェシカだけが特別な訳じゃないんだよ」


 ジェシカとは俺が10歳のときに、カーネルの冒険者ギルドで出会って。いきなり喧嘩を売らたときは、変な奴だって思ったけど。

 ジェシカは自分の気持ちに正直で、良い奴なんだよ。色々文句は言うけど、結局は相手のことを放っておけない。


「だけど誰か1人に決めないといないことは、俺も解っているから。ジェシカ、もう少し時間をくれないか」


 俺の台詞に。さらにマルシアたちが驚いているけど。


「アリウス……」


 ジェシカは真っ直ぐに俺を見つめる。


「うん。私だって、アリウスが真剣に考えてくれていることは解っているから」


 ジェシカはそう言って、嬉しそうに微笑んだ。


※ ※ ※ ※


 そこからは俺のターンで。ジェシカたちの今後の参考のために、『竜の王宮』を最下層まで攻略した。

 いつもの速度だとジェシカたちには見えない・・・・から。見える程度までスビードを落として、竜たちを殲滅して行く。


 最下層の太古の竜を一掃すると。『竜の王宮』のラスボスは体長25m級の巨大な赤竜。赤竜王レッドドラゴンロードだ。まあ、普通に瞬殺したけど。


「ジェシカたちの今の戦い方で鍛錬を積んで行けば、『竜の王宮』は攻略できると思うよ。だけどおまえたちも、いずれは最難関ダンジョンを攻略するつもりなら。戦い方を根本から変えた方が良い」


 最難関ダンジョンは1,000体以上の魔物が同時に出現するから。スキルに頼る戦い方だと間に合わないし。パーティー全員が自分の身を守れないと話にならない。

 今のジェシカたちでは力不足だけど。『ギュネイの大迷宮』を攻略したジェシカたちには可能性を感じる。


「おまえたちが本気で最難関ダンジョンに挑むなら、俺が徹底的に鍛えてやるよ。だから焦る必要はないから、まずは『竜の王宮』だな」


「アリウス……」


「アリウスさん……」


 ジェシカとアランは真剣な顔で俺を見て。マルシアはニヤリと自信ありげに笑う。

 他の3人は微妙な反応だけど。まあ、俺も無理強いする気はないからな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 18歳

レベル:13,635(+22)

HP:144,560(+235)

MP:220,481(+357)

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