7章 箱庭の世界
第161話:世界について
魔王アラニスは、この世界の神たちについて教えてくれた。
「魔王は『RPGの神』に力を与えられた存在だからね。私は転生して直ぐに『RPGの神』の声を聞いたけど。この世界について詳しいことを知ったのは、300年前ほど前に先代勇者を倒した後だよ」
アラニスが魔王のスキルを一切使わずに、実力で勇者を瞬殺したら。『RPGの神』は『魔王が勇者を倒しては、RPGの王道に反する』と、アラニスに取引を持ち掛けたそうだ。
勇者と魔王が相討ちしたことにして、アラニスが表舞台から消えるなら。この世界の秘密を教えてやろうと。
「私は世界の秘密なんてモノに、興味があった訳ではないけど。勇者を倒した後、他にやることもなかったからね。
私が『RPGの神』の取引を受け入れたから、勇者が魔王を倒したという歴史が捏造された訳だよ」
『RPGの神』が語った世界の秘密とは――この世界は様々な神が集まって創った『箱庭』であり。それぞれの神の力が融合したり、対立することで、どんな世界が生まれるか。神たちは外から眺めているそうだ。
「だけど『RPGの神』曰く『神たちは結局のところ、この世界を自分の色に染めたいと思っている』から。ルールに基づいて主導権争いをしているらしい。
神たちが決めたルールについて、詳しいことまで知らないけど。神たちはこの世界に、直接手を下すことはできない。誰かに力を与えることで、世界に干渉するんだよ」
神たちが与えられる力にも制限があるそうだ。初めから強力な力を与えることはできず。与えられた者が成長することで、より強力な力に覚醒する。
まあ、勇者アベルの力も途中で覚醒したし。どんな力でも与えられるなら、RPGの王道を求める『RPGの神』は、アベルにアラニスを倒す力を与えただろう。
俺は勇者と魔王以外に神に力を与えられた存在なんて知らない。だけど俺が知らないだけで、他にもいるってことか。
俺が知っている中で、神に力を与えられた可能性がある奴は。あえて言えば、『
まあ、ミリアからそんな話は聞いたことがないけど。
「『ダンジョンの神』の声が聞こえたのは、俺に力を与えようとしたからなのか? そんな話、一切聞いていないけど」
「私にも神たちが何を考えているかなんて、解らないよ。それに『RPGの神』以外の神が、どんな力を与えるのかも知らないからね」
まあ、結局のところ。神たちがこの世界に干渉していることが解っても。何を考えているかも、どんな力を与えるのかも解らないからな。
それでも何も知らないよりはマシだろう。アラニスと話した後、俺は神たちの話をみんなに伝えておいた。
みんなは一応信じてくれたけど。大半の奴は、いきなり神の話なんかしても、訳が解らないだろう。話す相手は選ぶ必要があるな。
まあ、俺としては神たちの話よりも。その後にアラニスが言ったことの方に興味がある。
「向こうが持ち掛けた取引だからね。勿論、条件は吊り上げたよ。相手は『RPGの神』だからね。当然知っていると思ったんだ」
アラニスが要求したモノは、
「最近は私の側近たちも同行させているからね。アリウスも興味があるなら、今度一緒に行かないか?」
アラニスは姿を消してから300年余りを、
アラニスは気楽に誘ったけど。とても気楽に行けるような場所じゃない。
※ ※ ※ ※
4月第2週の週末。俺はロナウディア王国の王宮に来ている。
学院を卒業したエリクは、ロナウディア王国の王太子になった。
今日はそれを祝うパーティーで。王国中の貴族たちと、近隣諸国の王族や貴族が集まっている。
「みんな、僕のために集まってくれてありがとう。今日は堅苦しいことは抜きにして、楽しんでくれるかな」
エリクの挨拶でパーティーは始まった。次期ロナウディア国王が決定的になったエリクの元に、貴族たちが我先にと祝いの言葉を言いに行く。
エリクが独身なら、貴族たちは娘を一緒に連れて行くところだけど。エリクは既婚者だからな。あぶれた貴族の女子たちはというと。
「あの、アリウス様……是非、私と踊って頂けませんか!」
「あら、抜け駆けは許しませんわ。アリウス様、私と踊ってくださいませ!」
今、俺の周りには、貴族の女子たちの壁ができている。いったい何人いるのかってくらいの人数だ。
「なあ、親友。今日は覚悟しておけよ。『魔王の代理人』アリウスは、今じゃ超優良物件だからな。全員と踊るまで帰して貰えないぜ」
隣にいるバーンがニヤリと笑う。バーンは学院を卒業して、グランブレイド帝国に戻ったけど。今日はエリクを祝うために帝国からやって来た。
この2年弱の間に、魔族との取引はすっかり定着して。魔族と取引することで、確実に利益が出ることが解ったから。魔族の国ガーディアルの同盟国であるロナウディアとグランブレイド以外にも、魔族と取引する国は増えて来た。
取引が増えたことで、それなりにトラブルは発生したけど。これまで魔族との間で、大きな問題は起きていない。
だから魔族に対する見方は、確実に変わって来ているし。勇者とSSS級冒険者序列1位のシンを倒した魔王アラニスは、もはや
魔族に対する見方が変わったことと、アラニスの威光で『魔王の代理人』の俺の株が上がったことは解っている。
俺はそんなことが目的で『魔王の代理人』になった訳じゃないけど。魔族と人間の争いを終わらせるためには、『魔王の代理人』の俺が注目されるのは悪いことじゃない。
「みんな、そんな風に一斉に押し掛けたら。アリウスが困っているわよ」
「そうですよ。アリウスをダンスに誘いたいのでしたら、節度を守ってください」
2人の声に、貴族の女子たちが綺麗に左右に別れて道ができる。
1人は豪奢な金髪と、海のように深い青の瞳の凛々しい感じの美少女で。もう1人はミルクベージュの髪と碧眼の可憐な美少女。
エリスとソフィアはタイプが違うけど。2人は誰もが振り向く完璧な美少女だよな。
「みんな、悪いな。俺にとってエリスとソフィアは、最優先なんだよ」
貴族女子たちの間にできた道を通って、2人の元に行くと。
「最優先だなんて。アリウス、嬉しいことを言ってくれるわね」
「私たち以外にも、最優先な人がいることは解っていますけど」
エリスとソフィアは悪戯っぽく笑って。左右から俺の腕を取る。
「エリス
「ええ。仕方ないわよね……」
貴族女子たちは、憧れと諦めが混じった視線を向ける。
1年前に学院を卒業したエリスは王家から分家して、エリス・マリアーノ公爵になった。
『公爵になっても、アリウスのことを諦めた訳じゃないわよ』
ああ、エリス。解っているって。エリクが王位を継ぐ前に分家したのは、弟のエリクとは権力争いをしないという意志表示だろう。
商才のあるエリスは魔族との取引でも、力になってくれている。魔族との取引が順調なのは、半分以上はエリスのおかげだ。
『私も自分の道は自分で選ぶことにしました。だから私は自分の意志で、ずっとアリウスの傍にいます』
エリクに任されたロナウディア王国の辺境開拓で。ソフィアはエリクの期待以上の成果を上げて、ビクトリノ公爵家を継ぐことになった。これでソフィアがビクトリノ公爵家のために、政略結婚することはない。
ソフィアも頑張っているからな。俺も2人の気持ちに正面から向き合うつもりだ。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 18歳
レベル:13,608(+83)
HP:144,270(+882)
MP:220,042(+1,343)
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