第157話:開戦
シンたちが魔王アラニスと戦う当日。
参戦するメンバーたちが、ロナウディア王国王都の郊外に集まった。
人気のない郊外を指定したのは、このメンバーだと目立ち過ぎるってのもあるけど。1番の理由は、ガルドたち『奈落』の連中を王都に入れたくなかったからだ。
「アリウス、久しぶりね。あんたも結構良い男になったじゃない」
肩まで伸ばしたドレッドヘアーに褐色の肌。鍛え上げられた筋肉質な20代半ばの女子は、SSS級冒険者序列第7位ジュリア・エストリアだ。
「ジュリアさん、
「あら、そんなことはないわよ。アリウスはもう立派なSSS級冒険者だわ。あんたの無駄な肉がない鍛え上げられた筋肉。腹筋もバッキバキじゃない!」
ジュリアはそう言いながら、当然のようにボディタッチしてくる。
いや、別に変な意味じゃなくて。ジュリアは筋肉至上主義だからな。
「ジュリア、軽口を言っている暇はないだろう。魔王と戦う準備はできているんだろうな? それにアリウスは魔王側の人間だ。馴れ合うな」
エイジが不機嫌に言うけど。
「エイジ君は固いなあ。気を張り詰めたからって、魔王に勝てる訳じゃないだろう?」
ジュリアは豪快に笑い飛ばす。男勝りで、さっぱりした性格のジュリアが言うと、全然嫌みに感じないんだよな。
「エイジ、てめえはガタガタ言ってんじゃねえぞ。弱い奴はどうせ戦力にならねえんだから、大人しくしてろ」
「何だと……」
睨み合うエイジとガルド。
「ガルド、よさぬか。エイジもいちいち挑発に乗るでない。おまえたちの敵は魔王じゃろう」
シンが呆れた顔で割って入る。今日のシンは力が漲っている感じだ。
魔王と戦う前に2週間欲しいと言ったのはシンだけど。キッチリ調整して来たってところか。
魔王討伐のために集まったメンバーはシンにガルドにジュリアにエイジ。
あとは俺から距離を置いて、鋭い眼光を向けて来るオールバックの片目の男は、SSS級冒険者序列2位のオルテガ・グランツだ。
SSS級冒険者4人に『奈落』の怪物ガルド。これだけでも結構なメンバーだけど。俺が一番気になるのは、シンが連れて来たもう1人の爺さん。バイロン・ガストレイだ。
7番目の
漆黒のグロテスクアーマーを纏って、武器は両手持ちのフランベルジュ。
そんな不気味な外見は、正直どうでも良いんだけど。『鑑定』しても、こいつのスキルが見えないんだよな。
バイロンのレベルとステータスは見えているし。レベルが圧倒的に高い訳じゃない。
何か特殊なスキルを持っているんだろうけど。このパターンは初めてだな。
「おい、アリウス。俺たちをいつまで待たせる気だ? 準備ならとうにできているぜ」
ガルドは犬歯を剥き出しにして笑う。研ぎ澄ました殺気を隠そうともしない。確かに準備はできているようだな。
「戦う場所や時間が決まっている訳じゃないからな。準備ができたら、適当に出発するよ」
俺がメンバー全員を『
場所や時間をあらかじめ決めておくと、下手なことを考える奴がいるからな。
相手がアラニスだからできることだけど。
グレイとセレナだけには、予め場所だけは伝えてある。何が起きるか解らないから、2人にはサポートを頼んでいるけど。姿を見せると、余計な警戒をされるからな。
「場所も時間も決まってねえだと? おい、アリウス。どういうことだ? 適当なことを言ってるんじゃねえぞ!」
「いや、『転移魔法』で移動したらアラニスが気づくからな。向こうからやって来るから問題ないよ」
アラニスには世界中の魔力を感知できるチート能力があるからな。俺たちが魔族領域に転移したら、行動を起こして貰うことになっている。
「ならば、皆準備はできておるようじゃから。早速向かうとするかのう」
シンの言葉に異存がある奴はいなかった。
「じゃあ、『転移魔法』を発動するからな」
「アリウス、てめえ。敵のど真ん中に転移したら承知しねえからな」
「そんなことするかよ。まあ、本当に敵に囲まれたら、ガルドが承知するもしないもないけどな」
俺の言葉に緊張が走る。いや、別に脅している訳じゃないけど。相手は魔王アラニスだからな。最大限の警戒をした方が良い。
俺は『転移魔法』を発動した。
※ ※ ※ ※
『転移魔法』で向かった先は、魔都クリステアから10kmほど離れた荒野。
俺は魔族の領域の結構な数の場所を、転移先として登録しているから。アラニスも俺がどこに現れるか、予測できなかっただろう。
転移した直後。全員が武器を抜いて身構える。敵地に足を踏み入れたんだから、当然の反応だろう。
俺は魔王側の人間と見られているから、シンたちの作戦は一切知らされていない。まあ知ったところで、アラニスにバラすつもりはないけど。
「ようこそ、魔族の国ガーディアルへ。もっとも私は、君たちを歓迎するつもりはないけどね」
艶やかな黒髪に漆黒の瞳。滑らかな白い肌を包むのも、黒い
魔王アラニスは唐突に姿を現した。俺たちから、わずか10mほどの距離に。
シンたちは反射的に飛び退いて、アラニスから距離を取る。
この距離なら魔法は余裕で射程内だし。アラニスなら物理攻撃も間合いの中だろう。
「そんなに慌てることはないだろう。君たちが望むなら、今直ぐ始めても構わないけど。準備の時間が欲しいなら、私は待つよ。支援魔法を掛けるなり、溜め技を使うなり、好きしてくれ」
アラニスの方は余裕だ。まあ、本気で仕掛けるつもりなら。シンたちが認識する前に、仕留めることもできたからな。
効果範囲半径5km以上の俺の『
俺たちと距離を取りながら、取り囲むように展開する。
「アリウス、囲まれているじゃねえか。てめえ……結局俺たちを嵌めやがったな」
アラニスの側近たちは1kmほどの距離まで近づいて来たから、ガルドも気づいたようだな。
「ああ、私の部下が気になるようだね。だけど彼らは只のギャラリーだ。魔王の名に懸けて、手出しをさせないと誓っても良いけど。
何でもないことのように、アラニスが無詠唱で発動したのは。半径1kmの巨大な『
アラニスの側近たちは『絶対防壁』の外だから、これで手出しすることは不可能だ。アラニスのことだから、当然『
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 16歳
レベル:6,898
HP: 72,582
MP:111,031
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