第152話:思惑
「アリウス、今回の迷惑料と言っては何じゃが。美味い酒を奢るから、ちょっと儂に付き合わぬか?」
シンが何を考えているのか解らないけど。
この前みたいに、一方的に話をするような雰囲気じゃないし。情報が聞けるなら、こっちとしても有難いからな。
「シンさん、付き合うのは構わないけど。午後も授業があるからな。早退するって言って来るから、少し待っていてくれないか」
今さら何を言っているのかと、言われそうだけど。勿論、口実で。
俺はガルドの魔力に気づいて、飛び出して来たから。みんなに状況を説明する必要があるんだよ。
『
俺が魔法を展開する前に、ガイドとエイジが暴れ捲るところを見られたからな。学院の警備員がこっちにやって来るけど、通行人に紛れていた諜報部の連中が止める。諜報部は相変わらず、仕事が早いよな。
『アリウス。俺とレイアはこのまま待機しているからな』
父親のダリウスから『
ダリウスとレイアは元SS級冒険者だけど、実力は現役のSSS級冒険者に引けを取らない。2人が王都にいることも、俺が自由に動ける大きな要因だ。
『2人とも、ありがとう。襲撃して来たガルドって奴は、シンが二度と襲わせないと約束したから、今回は見逃すことにしたけど。それで構わないよな?』
『ああ。ロナウディア王国としても、冒険者ギルドとの全面戦争は避けたいからな』
シンの背後にいるのは、世界中の冒険者ギルドを支配する者たちで。全面戦争になれば、SSS級以下の冒険者を何人敵に回すことになるか、解らないからな。
シンたちを残して、みんなのところに行くのはどうかと思うけど。ダリウスたちが監視しているし。まあ、
「アリウス、お帰り。随分と面倒な状況になっているみたいだね」
エリクのサロン兼生徒会室に戻ると。みんなが心配して待っていた。
エリクはもう状況を把握しているみたいだけど。
「みんな、いきなり飛び出して悪かったな。正門のところで、俺を殺しに来たガルドって奴と、SSS級冒険者のエイジさんが戦っていたんだよ。俺が止めに入ったら、SSS級冒険者1位のシンさんまで乱入して来てさ」
先週、エイジとシンが来たことは、みんなにも話してある。
「アリウスを殺しに来たって……ねえ、大丈夫なの? SSS級冒険者のエイジさんとシンさんって人も、この前アリウスに絡んで来たのよね」
ミリアが不安そうな顔をする。
「とりあえず、話はついたから問題ないよ。だけどシンさんが俺に話があるみたいで。これから出掛けて来るから」
「アリウスのことだから、大丈夫だと思うけど。1人で無茶はしないでよね」
エリスは必要なら自分が出て行くって感じだ。先週はシンと対等に渡り合っていたし。交渉事になると、エリスは頼りになる。
「相手の出方が解らないからな。俺も用心するよ」
「アリウス。是非、そうしてくださいね。みんな、貴方のことを心配していますから」
ソフィアが優しく微笑む。そんな顔で言われると何も言えないな。
「ああ、ソフィア。無茶はしないって約束するよ」
「アリウス、学院の方は俺たちに任せてくれて良いぜ」
バーンが白い歯を見せて笑う。
グランブレイド帝国が魔族の国ガーディアルと同盟を結んだことで、バーンも魔族を敵視する奴らの標的になった。
警戒したグランブレイド帝国は、バーンの護衛を増強したけど。バーンは自分を守る人数を必要最小限にして。残りは諜報部や王国軍と連携して、学院の警備に当てている。
バーン自身も強くなっているし。指揮官としての腕も悪くないからな。バーンたちは戦力として、十分機能している。
「そうだな。バーン、後のことは頼むよ」
「ああ。任せろ、親友」
相変わらず暑苦しい奴けど。バーンが頼もしく見えるな。
※ ※ ※ ※
みんなと別れて、学院の正門に戻ると。シンたちは大人しく待っていた。まあ、何かあれば俺の『
「シンさん。エイジさんとガルドも、一緒に行くってことだよな?」
「まあ、そういうことじゃ。アリウスの用は済んだようじゃのう。儂の『
酒を飲みに行くのに、『転移魔法』で移動するのかよ?
「シンさん、俺は他人の『転移魔法』で移動するのが嫌いなんだ。自分で移動するから、行き先を教えてくれ」
何を考えているか解らない奴の『転移魔法』で移動するなんて自殺行為だし。俺を嵌める気がないなら、行き先くらい教えるだろう。
「アリウス。おまえはシン師匠が信用できないとでも言うのか?」
エイジが睨むけど。その通りだからな。
「エイジ、黙っとれ――アリウス、お主ならそう言うと思っておったが」
シンはニヤリと笑う。
「行き先は自由都市連合のラルバの街――ガルドを寄越した非合法組織『奈落』の本部がある場所じゃ」
「おい! クソ爺。何を考えてやがる?」
ガルドの反応からして、ラルバの街に『奈落』の本部があるのは本当みたいだな。
「酒を飲みに行く
アリウスの殺害に失敗したことは、『奈落』の沽券に関わるじゃろうが。殺害依頼をする者など、どうせ外道だからのう。それなりの金を払うか、依頼主を殺して口を封じれば済むだけの話じゃ」
いや、何を無茶苦茶言ってるんだよ? 依頼のことは、俺の知ったことじゃないけど。敵が待ち構えているところに、シンやエイジ、俺を殺そうとしたガルドと一緒に行く筈がないだろう。俺はそこまで己惚れてないからな。
「シンさんが、どこまで本気なのか知らないけど。そんな話に付き合う気はないからな。これ以上下らない話を続けるなら、俺は帰るよ」
俺が呆れた顔をすると。
「何じゃ? ガルドを寄越した奴と、直接話した方が手っ取り早いと思ったんだがのう。アリウスがそう言うなら仕方ない。
俺を試したのか、シンがニヤリと笑う。だけど見え見えの誘いに、乗る筈がないだろう。俺を馬鹿にしてるのか?
「アリウス。お主を試すような真似をして、悪かったのう。若くして力を得た者は、大概己惚れが強いものだが。お主には己惚れがないようじゃな。感心したぞ」
シンはカラカラと笑うと。『
俺たちは全員1,000レベル超えだから、普通に音速を超える速度で移動する。
ロナウディア王国の国境を越えて、1時間ほどで隣国にある小さな街に辿り着いた。
しばらく大通りを歩いて、裏路地に入ると。急に人通りが減って、時折見掛けるのは、路上に屯するガラの悪い連中だ。
「ここで知り合いが、酒場をやっていてのう。美味い酒を出す上に、人目につかない場所だから。
シンが案内したのは、まるで廃屋のような如何にも怪しい店だった。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 16歳
レベル:6,743
HP: 70,921
MP:108,520
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