第150話:正義とは…… ※三人称視点※
※三人称視点※
右腕を切り落とされたエイジの肩から、鮮血が噴き出す。
犬歯を抜き出しにして笑う野獣のような男。男の名はガルド。
SSS級冒険者序列第1位シン・リヒテンベルガーの元パーティーメンバーが、創設した非合法組織『奈落』の化物だ。
犯罪者として冒険者ギルドを追われた『奈落』の創設者は、世界を憎んでいた。
だから大量に集めた孤児を殺し合わせて。生き残った強者を選別するという人の道に外れた行為を平然と行った。
ガルドは1万人の孤児から選別された強者で。選別された後も、死んだらまた新たに選別すれば良いと。常に過酷な環境に置かれることで、ガルドという化物が誕生したのだ。
「SSS級冒険者も大したことねえな。ほら、落とし物だぜ!」
ガルドは『
だがそれが誘いだと悟ったエイジは、後ろに飛び退いて距離を空ける。
無詠唱で『
「さすがに、こんな見え見えの誘いには乗らねえか」
ガルドは獰猛な笑みを浮かべると。エイジとの距離を一瞬で詰める。
(……速い!)
ガルドの動きは、SSS級冒険者のエイジでも捉えるのが難しいほどだ。
だがエイジが同じ轍を踏むことはなく。ガルドと距離を空けながら、高速の斬撃を続けざまに放つ。
「まあ、
ガルドは斬撃を躱しもせずに、エイジを超える速度で迫ると。禍々しい巨大な戦斧を一閃。只戦斧を振るっただけだが、空気の摩擦熱で焦げた臭いがする。
エイジは全力で飛び退くが、完全に躱すことはできず。掠めた刃がエイジの胸の肉を抉る。
「チッ……」
エイジは斬撃で牽制しながら、ガルドと距離を取ろうとするが。速度も機動性もガルドが上で、引き離すことはできない。
「何だよ、この程度かよ? 俺はまだ全然本気じゃねえぜ!」
突然、ガルドの姿が掻き消えた。
直後。エイジの『
背骨を断ち切る一撃。エイジは激痛と戦いながら『完全治癒』を発動する。
「今の一撃で死ななかったことは、一応褒めてやるぜ。だがてめえの実力じゃ、俺の相手にならねえな」
エイジは言い返したかったが、ガルドとの実力の差は歴然だ。しかし、それでもエイジは諦めるつもりはない。
周りには学院の生徒と関係者がいる。こんな野獣のような男を放置すれば、どうなるかは目に見えている。
『正義の体現者』として、エイジが引く訳にはいかなかった。
「ああ、
ガルドはいつの間に拾ったのか。『裁きの剣』を再び投げて寄越す。エイジが確実に受け取れるように、正確に手元に投げた。
「貴様……どういうつもりだ?」
訝しげに眼を細めるエイジ。ガルドはニヤリと笑う。
「このまま、なぶり殺しても詰まらねえからな。てめえも何か奥の手くらいねえのか? 手出しせずに待ってやるから、見せてみろよ」
完全に舐められていることは、解っているが。エイジは冷静だった。
エイジにとって大切なモノは、自分のプライドではなく。正義の貫くことだからだ。
「良いだろう……」
エイジは『裁きの剣』に渾身の魔力を込める――
。
エイジの戦闘スタイルはスピード型で、SSS級冒険者の中ではパワーがない方だ。だが普段の相手なら、パワー不足を感じることはない。
しかし相手が格上になると話は別だ。現にガルドはエイジの斬撃を受けても、ほとんど傷つかなかった。
エイジはパワーを補うために、師と仰ぐシンに倣って魔力を凝縮させる。
タメ技は隙が大き過ぎて、本来なら格上相手に使い物にならないが。相手が待つと言うのならと。エイジは渾身の魔力を込める。
この一撃で全ての魔力を全て使い切っても構わないと。エイジが『裁きの剣』に込めた膨大な魔力は、巨大な火柱と化して。まるでシンのように大地と空を貫いた。
「これが俺の全力だ!」
エイジは限界まで加速して、ガルドとの距離を一瞬で詰めると。巨大な火柱と化した『裁きの剣』を叩き込む。
「良いねえ。そうじゃなくちゃな!」
エイジが飛び込むタイミングに合わせて、ガルドは戦斧を振るう。
2人の刃が衝突した瞬間。ガルドの戦斧が、放電現象を起こしたようにスパークした。エイジが込めた魔力を、軽く上回るガルドの膨大な魔力。
スパークした膨大な魔力は、巨大な火柱を打ち消して。そのままエイジの身体を焼き焦がした。
「……!!!」
まるで落雷に打たれたように、エイジは内臓まで焼かれて。呻き声を上げることすらできない。
それでもエイジが膝を突かなかったのは、意地というよりも。死んでも悪には屈しないという『正義の体現者』としての覚悟からだ。
「まあ、てめえは良く頑張ったぜ。だけど相手が悪かったな」
瀕死のエイジに、ガルドはもう興味がないと鼻で笑って。無造作に戦斧を振り下ろす――だがエイジには当たらなかった。
「エイジさん。勝手に手を出して悪いけど、俺もムカついているんだよ」
突然出現した銀髪と青い瞳で、まだ幼さが残るほど若い男。アリウスが剣で受け止めたからだ。
アリウスは即座に『完全治癒』を発動して、エイジの命を繋ぎ止める。
「その髪と眼の色――てめえがアリウス・ジルベルトだな」
自分が振り下ろした戦斧を、当然のように受け止めたアリウス。ガルドは面白がるように笑う。
「ああ、そうだ。おまえが用があるのは、エイジさんじゃなくて俺だよな」
このとき。アリウスは本気で怒っていた。
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