第148話:再来


 『東方教会』のテロリストの話が終わって。エリクのサロン兼生徒会室で、みんなと昼飯を食べながら喋る。

 バーンと俺が良く食べることはエリクも解っているから。俺たち2人の料理だけ特盛で、5人分くらいの量がある。


「アリウスもそうだけど。バーン・・・も本当に良く食べるわね」


 ミリアとバーンは学院のダンジョンに挑むときに、一緒にパーティーを組んでいるから。ミリアも公の場以外では、バーンを呼び捨てにしている。


「男は体力が基本だからな。俺に言わせれば、エリクとジークはもっと食べるべきだぜ」


「僕は君やアリウスと違って、後方で指揮を取るタイプだからね。そこまで体力が必要じゃないよ」


 バーンとエリクも義理の兄弟になって。互いに敬称を使わなくなった。

 そうなるとジークだけ敬称を付けるのは違和感があるから、バーンはジークも呼び捨てにしている。ジークの方は今でも『バーン殿下』って呼んでいるけど。


「そう言えば来週、ダンジョン実習があるけど。1年前の初めてのダンジョン実習のときは、アリウスが大活躍だったわね」


 学院に入学してから、初めてのダンジョン実習のとき。俺たちは反国王派の貴族が雇った掃除人スイーパーの襲撃を受けた。

 

「まあ、俺が掃除人を無力化したのは事実だけど。エリクの策略に乗せられたようなモノだからな」


 あのタイミングで襲撃されたのは、エリクが反国王派の尻尾を掴むために誘いを掛けたからだし。諜報部の連中が潜んでいたから、俺が動かなくてもどうにかできただろう。


「僕の策略だったことは認めるよ。あのときは反国王派の貴族たちを、早い段階で誘い出したかったのと。アリウスの実力を実際に見て、確かめたかったからね」


「別にエリクを責める気はないよ。エリクは襲撃者の戦力を把握した上で。みんなが怪我をしないように、万全の準備で動いたんだろう」


「アリウスが全部お見通しなのは解っていたけどね。それでもアリウスなら動いてくれると思ったんだよ」


 エリクは俺を利用しようとした訳じゃなくて。俺を見極めようとしたんだ。

 ダンジョン実習での襲撃の後の、ヨルダン公爵との戦いだって。エリクなら自分の戦力だけで勝てただろう。


「エリクはアリウスに自分と一緒に歩んで欲しいと思ったんでしょう? エリクが他人に頼ろうとするなんて、めずらしいけど。相手がアリウスなら納得するわよ」


 エリスが揶揄からかうように笑う。エリクは笑みで応じて。


「僕はアリウスと対等な関係を築きたかったんだよ。アリウスと僕の考え方は違うけど、思うところ・・・・・は同じだからね。

 今こうしてアリウスと一緒に、魔族を敵視する者たちと戦ってるのも。僕自身が望んだことだからね」


 俺はエリクのように政治的な考えで動いている訳じゃない。だけど許せないと思うことは、俺もエリクも同じだからな。


「俺もアリウスと親友になったことを誇りに思うぜ。俺はエリクみたいに頭が回る訳じゃないが。俺なりのやり方で、アリウスの隣に立つに相応しい男になって見せるぜ!」


 バーンは相変わらず暑苦しい奴だけど。俺とミリアと一緒に学院のダンジョンに行って、自分の実力を知ったことと。バーンの兄のドミニク皇太子が俺と決闘して廃嫡されたことに、思うところがあったんだろう。

 今のバーンはグランブレイド帝国の皇子として、自分にできることをやろうとしている。


「バーン、背中が痒くなるようなことを言うのは止めろよ。俺だって自分にできることと、自分がやりたいことをしているだけだからな」


「そういうところが、アリウスらしいですけど。謙遜することはないと思いますよ。私たちはみんなアリウスの隣りに立ちたいと思っていますから」


 ソフィアが優しい笑みを浮かべると。


「そうよ、アリウス。当然でしょ」


「アリウス君。私もそう思っているから……今の私じゃ、全然ダメだけど。もっともっと頑張るから!」


 ミリアとノエルも真剣な顔で言う。だからそういうことを言うのは、恥ずかしいから止めてくれよ。なんでこんな話になったんだ?


「アリウス。俺も兄貴やアリウスみたいに、ロナウディア王国のために役に立てるようになりたいと思っている」


「ジーク殿下なら、きっとなれますわ。私がジーク殿下を支えますので」


 ジークとサーシャだけが『恋学コイガク』の世界なのも相変わらずだけど。ジークもジークなりに、成長しようと頑張っているみたいだな。


「ボクだって……みんなの役に立てるように頑張るよ」


 マルスはみんなに合わせて、そんなことを言うけど。完全に蚊帳の外だな。

 こいつも『恋学』の攻略対象の1人で、基本スペックが高いんだから。真剣に頑張れば、もっと上を目指せるだろう。


「みんなは生徒会だから、ダンジョン実習では運営側の仕事もやるんだろう?」


 良い加減に恥ずかしいから。ちょっと強引に話題を変えると。


「そうね。もしものときのサポート役は、先生たちがやるけど。パーティーの組み分けを調整したり、生徒を引率するのは、私たち生徒会と『ダンジョン実習実行委員会』の仕事ね」


 ミリアは俺の意図・・・・に気づきながら。『解っているわよ』という感じで、ツッコまなかった。


 俺は学院に来なくなったから、参加していないけど。ダンジョン実習は1年生の夏休みが終わってから、1ヶ月に1回ほどのペースで行われている。

 ダンジョン実習は体育祭や文化祭に近いイベントで、学院は生徒に自主性を求めるから。パーティーの編成は生徒自身の希望を、生徒会が調整する形で行なわれる。


 教師が引率するのも、俺が参加した最初のダンジョン実習だけで。2回目以降は、教師は有事のサポート役に徹して。引率役も生徒の中から選抜した『ダンジョン実習実行委員会』のメンバーが務める。


「さすがに今さら、アリウスに参加して欲しいとは言わないけど。私とバーンも最下層に挑めるようになったから。ラスボスを倒すところを、アリウスに見て貰いたいって気持ちはあるわよ」


 学院のダンジョンは低難易度ロークラスダンジョンだから、最下層に出現する魔物モンスターは50レベル前後だ。

 エリクとエリスなら余裕で。今のミリアとバーンも確かに最下層でも問題ないレベルだけど。他のみんなはちょっと厳しいな。


「ダンジョン実習に参加するかは別にして。ミリア、今度久しぶりに一緒にダンジョンに行くか?」


「本当? アリウス、物凄く嬉しいわよ!」


「だったら当然、俺も参加するぜ」


「ア、アリウス君。私もお願いね!」


 そんな風に、みんなと喋っていると。


「ところで、アリウス。正門で待っているのことは、このまま放置しておいて構わないのかな?」


 まあ、エリク気づいていることは解っていたけど。


「向こうがまた・・人を使って見張らせて。勝手に来たんだから、待たせて構わないだろう」


 効果範囲が半径5km以上ある俺の『索敵サーチ』は、1時間以上前からSSS級冒険者エイジ・マグナスの存在を捉えていた。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 16歳

レベル:6,743

HP: 70,921

MP:108,520

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