第147話:東方教会 ※冒頭三人称視点※

※三人称視点※


「シンの爺さんがそこまで言うなら……俺がアリウスの実力を確かめてやる!」


 アリウスがシンに近いレベルだと聞いて。オルテガはいきり立つ。


「待て、オルテガ。お主が確かめに行くまでもないわ。『奈落』の化物が請けた仕事こそが、アリウスを始末することだからのう」


「爺さん……どういうことだ?」


 訳が解らないという顔をするオルテガに。シンは獰猛な笑みを浮かべる。


「『東方教会』の偽善者どもが動いたのじゃ。儂は奴らのやり方は好かんが。おかけでアリウスの小僧の実力を測ることができる」


 『東方教会』はブリスデン聖王国に並ぶ教会の二大勢力の1つだ。

 『東方教会』の本部がある小国アリスト公国は、表向きは非武装中立の平和主義を謳っているが――


 『東方教会』の主導者たちは、自分たちの正義・・・・・・・のために、対立する者たちを手段を選ばずに殲滅するテロリスト集団だ。


「『東方教会』はロナウディア王国に対して、魔王の代理人アリウスの引き渡しを要求した。これはオルテガ、お主も知っておるじゃろう?」


 だがロナウディア王国は『東方教会』の要求を拒絶した。

 怒り狂った『東方教会』の主導者たちは、ロナウディア王国にテロリストを差し向けたが。ロナウディアの方が上手で、テロリストたちの動きを完全に封じてしまう。


「業を煮やした『東方教会』は、信者たちから巻き上げた巨額の資産を費やして、『奈落』にアリウスの始末を依頼したのじゃ」


 シンは面白がるように笑う。


「のう、オルテガ。『奈落』の化物はお主よりも強いぞ。儂の言葉を疑うのは構わんが。アリウスと化物の戦いの結果が出てからでも、お主がアリウスに勝負を挑むのは遅くなかろう?」


 シンは『奈落』の化物がアリウスを殺すことを望んでいる訳ではない。

 むしろアリウスが自分に迫るほどの実力者なら、『奈落』の化物くらい倒して見せろと思っていた。


※ ※ ※ ※


 俺は1週間ぶりに学院に行った。


 先週、久しぶりに授業に出たら。魔王の代理人になったことを、教師に糾弾されて。俺が授業に出ても、祿なことがないことが解ったけど。


 これで授業に出なかったら、言われたまま引き下がることになるからな。

 面倒なことになるのを承知の上で、俺は授業に出ることにした。


 だけど結果を先に言えば、面倒なことは起きなかった。


 教室の雰囲気は相変わらずで。俺を怖がる奴や、顔色を伺う奴。興味津々な感じの奴はいるけど。あからさまな敵意を向けて来る教師や生徒はいない。


「なあ、エリク。おまえが何かしたんだろう?」


 午前中の授業が終わって。エリクに話し掛けると。


「授業中に魔族は敵だとか、自己主張されても迷惑だからね。学院の教師と生徒全員の素性を調べて。問題になりそうな者には騒ぎを起こさないか、学院を去るかを選択して貰ったんだよ」


 エリクを敵に回せば、学院に居場所はないってことだな。

 ちょっとやり過ぎな気もするけど。魔王の代理人の俺を糾弾すれば、魔族の国ガーディアルと同盟を結んだロナウディア王国を、否定することになるからな。


 今日の昼飯はエリクのサロンに、みんなで集まって食べることになっている。

 ああ、今はサロンじゃなくて、生徒会室だったな。


 集まったメンバーはバーンとジーク、サーシャを含めた全員だ。今日はみんな学院に来ているんだな。

 何故かマルスまでいるけど。理由は解っている・・・・・・・・


「『東方教会』のテロリスト対策では、エリクに随分世話になったな。本当に助かったよ。ありがとう」


 教室で言わなかったのは『東方教会』のことは教室で話すような内容じゃないからだ。


 『東方教会』は俺の引き渡しを要求して、ロナウディアが断ると。テロリストを使って仕掛けて来た。


 俺は大抵の時間、最難関トップクラスダンジョンにいるから。狙われるのは必然的に、俺以外の人間になる。


 だけどテロリストたちは、ロナウディア王国に侵入した時点で、王国諜報部にマークされて。暗殺未遂どころが、仕掛ける前に潰されている・・


 現在進行形なのは、『東方教会』がまだ諦めていないからだ。


「テロリスト対策は、僕がどうこうと言うよりも。ダリウス宰相と諜報部のおかげだよ」


「それは解っているけど。エリクがいるから、俺が安心してダンジョンに行けるのは事実だよ」


 エリクは諜報部以外に、テロリスト対策で王国軍を動かしているし。独自の人脈と情報網を使って、テロリストたちのリアルな似顔絵付きの手配書を作った。

 これが被害が出る前にテロリストを封じることができた大きな要因だろう。


 それに本当に不味い状況になったら、エリクが『伝言メッセージ』で教えてくれる手筈になっている。

 エリクなら手遅れになる前に、確実に知らせてくれるだろう。


 最難関ダンジョンに、転位ポイントはないから。『伝言』を貰ったらダンジョンの入口まで、各階層を強行突破することになるけど。


 攻略済みの階層だから、突破するだけならそれほど時間は掛からないし。

 ダンジョンを出れば『転位魔法テレポート』で王都に直行するから。大抵の場合は間に合うだろう。


「グランブレイド帝国でも、ロナウディア王国ほどじゃないが。『東方教会』のテロリストたちが動いているぜ。まあ、うちの親父とカサンドラの姉貴が、全部潰しているがな」


 グランブレイド帝国もガーディアルと同盟を結んだから、『東方教会』の標的にされている。


「僕としてはカサンドラの相手をする『東方教会』のテロリストたちが、可哀想に思うけどね」


 バーンの姉でエリクの妻のルブナス大公カサンドラ。彼女が敵に対して冷徹で無慈悲なことは有名な話で。

 『東方教会』のテロリストたちは、グランブレイド帝国に入国するなり。次々と行方不明・・・・になっている。


「あの……今日ボクは何で呼ばれたのかな?」


 マルスが不安そうな顔で言う。

 マルスの父親が枢機卿を務める『西方教会』は、ロナウディア王国とグランブレイド帝国を含む周辺諸国に広がる教会勢力だ。


 『東方教会』やブリスデン聖王国のように、直接武力と結びついている訳じゃなく。各国の権力者とバランスを取りながら、政治的に活動している。


「『西方教会』枢機卿が父親のマルス卿なら、『東方教会』にも詳しいと思ってね。マルス卿には教会の内側から『東方教会』の情報を集めてして貰いたいんだよ」


 エリクがいつもの爽やかな笑みを浮かべる。

 こんなことを言っているけど。エリクはすでに枢機卿と直接交渉して。協力することを承諾させている。


 じゃあ、何でマルスを絡ませるかと言えば。ハッキリ言えば人質としてだ。

 マルスの父親の枢機卿が裏切って『東方教会』につけば。マルスの命も危うくなると。


 エリクのことだから、マルスを本当に危険に晒すような真似はしないだろう。まあ、政治的な駆け引きってやつだな。


「エ、エリク殿下。勿論、ボクも協力させて貰うよ」


 マルスは冷や汗を浮かべる。マルスもエリクの意図くらいは、解っているんだろうな。


 ゲームの『恋学コイガク』だと、マルスはエリクのライバル的ポジションだ。たけど今のマルスは、エリクの相手にすらなっていない。


 ゲームの話なんて、今さらな気もするけど。今の状況は乙女ゲーの世界から、完全に掛け離れているよな。


 1番の原因は俺だけど。ソフィアが悪役令嬢にならなくて。ゲームの主人公のミリアが、俺以外の攻略対象たちの恋愛イベントを起こさなかった。

 だからゲームに存在しないルートを突き進んでいるのか?


 いや、この世界はゲームじゃなくて、リアルだからな。ルートなんて関係ないだろう。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 16歳

レベル:6,743

HP: 70,921

MP:108,520

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