第145話:神話の領域

 7番目の最難関トップクラスダンジョン『神話の領域』。

 俺は攻略中のグレイとセレナに合流して、3人で攻略を始めた。


 7番目の最難関ダンジョンだから。1階層から6番目の最難関ダンジョン『修羅の世界』の最下層より、強い魔物モンスターが出現する。

 だけど『神話の領域』がこれまでの最難関ダンジョンと違うのは、各階層にフロアボスがいて。しかも最初から出現することだ。


 1階層に出現する魔物は獣神。獣の姿をした神だ。まあ、本物の神じゃなくて、あくまでも魔物だけど。

 そしてフロアボスは獣神王。100m超の銀色の巨大な狼だ。


 1,000体以上の神話級の魔物と、本物の神のごとき強さのフロアボス。そいつらが同時に攻撃して来る。

 

「まあ、俺とセレナの2人で3階層まで攻略済みだからな。アリウスが加わったら、暫くは余裕だろう」


「そうね。アリウスなら直ぐに慣れるわよ」


 グレイとセレナは背中合わせで、高速で動き回る。転移魔法を併用しながら、魔法と剣で確実に魔物を仕留めていく。

 2人は長年一緒に戦っているから。まるで1つの生き物のように、完璧に連携する。


 獣神王はHPが高過ぎて、直ぐには倒せないし。こっちが真面に攻撃を食らえば致命傷だけど。

 グレイとセレナは魔物の群れを盾にしながら、上手く立ち回る。


 こんな戦い方を見せられたら、俺も負けられない。グレイとセレナほど完璧じゃないけど。俺だって2人との連携には慣れているんだ。

 俺は2人の動きに合わせながら、獣神たちを次々に仕留めていく。


 俺たちは1,000体以上の獣神を一掃して。最後に残った獣神王。

 まあ、ここまで来れば。所詮、相手は1体だからな。


「アリウス。『修羅の世界』をソロで攻略した力を見せてみろよ」


「そうね。アリウス、期待しているわよ」


 グレイとセレナが、戦闘狂の獰猛な笑みを浮かべる。


「俺は全力で戦うだけだよ」


 俺も獰猛な笑みを浮かべる。強い魔物と戦うのは楽しいからな。


 俺たちは獣神王を翻弄するように動き捲って。HPを削り切った。

 

※ ※ ※ ※


「よう、アリウス。久しぶりだな……て言うか。おまえ、こんなところに顔を出して、大丈夫なのかよ?」


 7番目の最難関ダンジョン『神話の領域』から戻った日の夜。

 俺は久しぶりに、カーネルの街の冒険者ギルドに顔を出した。

 グレイとセレナも誘ったけど。2人は他に用事があるそうだ。


 ゲイルは俺が魔王の代理人になって。魔族を敵視する奴らの標的にされることを、心配しているんだろう。


「ゲイル。おまえたちに迷惑を掛けるつもりはないよ。何か起きたら、俺が全部対処するからさ」


「いや、迷惑とか。そんなことは思ってねえけどよ。まあ、アリウスなら自分でどうにでもするか」


「アリウス君。当然、今日はアリウス君の奢りだよね?」


 マルシアが口を挟む。何が当然なのか解らないけど。


「マルシア! あんたは毎回、アリウスに集るような真似をして!」


「ジェシカ、メシを奢るくらい構わないよ。ちょっと臨時収入が入ったし」


 フランチェスカ皇国と、魔石の取引をすることになったけど。実際に魔石を提供するのは俺だから、金は俺に入る。

 それに取引価格を、冒険者ギルドの買取価格よりも高く設定したからな。


 最難関トップクラスダンジョン産の魔石は貴重だから。その値段で買っても、フランチェスカ皇国に利益が出る。


「さすがはアリウス君、太っ腹だね。だったら今夜は徹底的に飲み食いするよ! ねえ、マスター。1番高いお酒をボトルで! 料理も高い順から、ジャンジャン持って来て!」


「もう、マルシアは……少し遠慮しなさいよ!」


「ジェシカ、何を言っているの? アリウス君がせっかく奢ってくれるんだから、遠慮する方が悪いよ」


 まあ、マルシアはそういう・・・・奴だし。遠慮なんかされたら、気持ちが悪いけどな。


「ジェシカも好きなものを頼んでくれよ。今日はジェシカに礼をしに来たんだからさ」


 ジェシカには勇者アベルとの一件で、ずっと付き合って貰ったけど。何の礼もしていないからな。


「アリウス、お礼だなんて……私はアリウスが一緒に連れて行ってくれただけで、嬉しいから。それに勇者の件やその後のことでも、私は何の役にも立っていないわ」


「いや、そんなことないって。みんなが一緒にいてくれたことが、俺は嬉しいし。ジェシカは冒険者ギルドで、俺は魔王の手先じゃないって庇ってくれたんだろう?」


 魔王の代理人になったことで、俺が魔王の手先になったとか。ロナウディア王国とグランブレイド帝国を売り渡したとか。言う奴は沢山いる。


 冒険者の中にも、陰で俺のことを悪く言う奴がいるけど。ジェシカは、そういう奴に文句を言ってくれる――って、ゲイルが教えてくれたんだけどな。

 

「だってアリウスがやったことは、間違いじゃないし。勝手なことを言う奴らが、私は許せないから」


「そうですよ、アリウスさん。アリウスさんを悪く言うような奴は、俺がボコボコにしますから」


「アラン、止めてくれよ。気持ちは嬉しいけど。俺は何て言われても構わないからな」


 アランは本当に相手を、ボコボコにしそうだし。俺は陰で言うような奴は相手にしない。正面から喧嘩を売られたら、当然買うけど。


「まあ、アリウスさん。飲んでくれ。今日はカーネルの街に、久しぶりに来たんだからよ」


 ツインテール女子のヘルガが、俺のグラスに酒を注いで。自分のグラスにも並々と注いで、一気に飲み干す。


「ヘルガ、そんな飲み方をしたら酒が勿体ねえだろう!」


 嗜めるゲイルを、ヘルガは鼻で笑う。


「ゲイル、細けえことを言うなよ。だからあんたは女にモテねえんだ。少しはアリウスさんを見習えよな」


 ゲイルのパーティーの連中がニヤリと笑う。


「ヘルガ、おまえなあ。言ってることは間違ってねえが。20代後半で独身のゲイルが可哀想だろう」


「ああ。そう言えば、ゲイルはまだ20代だったな。オッサン臭いから、忘れてたぜ!」


「おまえらなあ……」


 年齢差もレベルの差も結構あるのに。ヘルガもすっかり、ゲイルのパーティーの一員だな。


「お! 今話題のアリウスさんじゃん!」


 たった今冒険者ギルドに戻って来たショートボブ女子、ルージュが話し掛けてくる。


「『魔王の代理人』とか、さすがはアリウスさんだな。私もまた強くなったからさ。今度こそ、リベンジさせてくれよ」


「おい、ルージュ……アリウスさん、お久しぶりです。この馬鹿は私が黙らせますので」


 ルージュの後から入って来たのは、ロングウェーブ女子のレイ。

 他のパーティーメンバーの女子3人もやって来て、好き勝手なこと言うけど。


「おまえら、話がややこしくなるから黙れ! ほら、みんな腹が減っているだろう。向こうのテーブルでメシにするぞ」


 レイは相変わらず、苦労しているみたいだな。その分、成長したみたいだけど。

 まあ、こんな感じで。久しぶりに会った奴らと飲み食いしていたんだけど。


「よう、うるせえと思ったら。今話題の『魔王の代理人』様じゃねえか!」


 知らない顔の冒険者の発言に、空気が変わる。俺が知らないってことは、最近カーネルの街に来た冒険者か。


「何だよ、散々世間を騒がせてる癖に。こんなところで酒を飲んで、良いご身分じゃねえか!」


「なあ、『魔王の代理人』だから儲かっているんだろう? 俺たちにも奢ってくれよ!」


 仲間らしい冒険者たちが、下卑た笑みを浮かべながら集まって来る。全員B級冒険者クラスだな。


 別に酒くらい奢っても良いけど。こいつら、気分が悪いな。


「なあ、おまえら――」


 俺は売られた喧嘩を買うつもりだったけど。


「あんたたち、死にたいみたいね?」


 ジェシカが極寒の視線を向けて。


「てめえら、誰に物を言ってるんだよ?」


 アランがボキボキと指の骨を鳴らしながら、立ち上がる。


「まあ、馬鹿は死なねえと解らねえからな」


 血の気が多いヘルガはニヤニヤ笑いながら、前に進み出る。まあ、こいつの場合は、争いごとが好きなだけだろう。


「おい、おまえら。頭に来るのは解るが、さすがに殺すなよ」


 ゲイルは呆れた顔をするけど。止める気はないみたいだな。

 周りの冒険者たちも、奴らに殺意に満ちた視線を向ける。


「ちょっ……ちょっと、待ってくれ!」


「そうだぜ! 軽い冗談だろう!」


 俺が知らない冒険者たちは、尻尾を巻いて逃げて行く。


「なあ、みんな。俺のために怒ってくれるのは嬉しいけど。俺の喧嘩を奪うなよ」


 手持ち無沙汰になった俺は、苦笑するしかなかった。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 16歳

レベル:6,743 (+61)

HP: 70,921(+649)

MP:108,520(+985)

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