第144話:アリウスの想い


 シンとエイジの魔力が消えたことを確認して。エリスに掛けていた『絶対防壁アブソリュートシールド』を解除する。


「エリスがフォローしてくれて助かったよ。それにしても、エリスはいつも通りに落ち着いていたな」


「それはアリウスが一緒にいてくれるからよ。貴方は私を絶対に守ってくれるでしょう」


 エリスが悪戯っぽく笑う。


「俺を信頼してくれるのは嬉しいけど。相手はSSS級冒険者序列1位だからな」


 シンからエリスを守り切れる確信・・はある。だけどエリスも、もう少し警戒した方が良いよな。

 まあ、エリスのことだから。シンとエイジの性格を見極めた上の行動だろうけど。


 それからは予定通りに。魔族との交易について、エリスと打ち合せをすることにした。

 『転移魔法テレポート』でロナウディア王国の各地を巡って、交易に使えそうな品を選定する。


 魔族は基本的に質実剛健で。武器や防具は、見た目よりも性能。建物は機能性重視。食べ物や酒は、質より量という感じだ。

 趣向の違いもあるけど。魔族が質実剛健になった主な要因は、魔族に職人というものがほとんどいないからだろう。


 魔族はほとんど全員が戦士で。王や氏族長に仕える専業の戦士以外は、必要なモノは自分たちで確保する。

 食料や素材は狩りと採集で手に入れて。建物や武器を含めて大抵のモノは、魔法で加工して作ってしまう。


 自分たちが使うために作るから、性能とか機能性は重視するけど。装飾とか細かいところには拘らない。


 だけどアラニスたちを見ていると、装飾が嫌いって訳じゃないみたいだし。美味いモノが嫌いな奴はいないだろう。


 だからロナウディア王国から装飾品や衣類、菓子や酒を試しに持って行ったら。魔族たちが興味を持ったんだよ。


 エリスが事前に『伝言メッセージ』で、各地の知り合いの商人に用件を伝えてくれたから。相手も準備万端で、交易に使えそうな品を見せてくれた。


 俺は交易品の質に拘るつもりだ。魔族から交易で得る品は、魔族の領域以外ではめずらしい魔物の素材や貴重な鉱石。だからこっちも同等のモノを用意する必要がある。対等な関係を築かないと、長続きしないからな。


 エリスの知り合いの商人たちは、みんな腕利きで。魔族たちが満足しそうな品を次々と出して来る。


「良い品なのは解ったけど、貴方の他にも宛はあるわ。取引が始まれば纏めた数を買うんだから、値段はこれでどう?」


「エリス殿下には、敵いませんね。その値段で結構ですよ」


 エリスは交渉上手だから、『転移魔法』で半日各地を巡るだけで。魔族との取引に仕えそうな品を、結構な数集めることができた。


「エリス、今日はありがとう。おかげで良いモノが手に入ったよ」


「あら、お礼なんて要らないわよ。私はアリウスの役に立ちたいから、やっているの。それに魔族との交易が上手く行けば、ロナウディアの利益になるわ」


 ロナウディア王国は国家事業として、魔族との交易を行う。

 第1王女のエリスは責任者として。ロナウディア側の交易品については、選定と価格交渉から確保まで。魔族から買う品も価格交渉から売り先の選定。ほとんど全部をエリスが担うことになっている。


「だけど勿論、ロナウディアが利益を独占するつもりはないわよ。私も魔族との争いを終わらせたいから」


 魔族と取引することで、メリットがあることを示して。他の国も魔族との取引で利益を得ることが、魔族との争いを終わらせるための近道だろう。

 そんな俺の考えを、エリスは理解してくれる。


「シンとの交渉を含めて。今日はエリスに頼ってばかりだな」


「アリウス、そんなことないわよ。アリウスはいつも私を守ってくれるし。私がここにいるのも、アリウスのおかげだから」


 包み込むような笑みを浮かべて、エリスが真っ直ぐに俺を見つめる。

 たぶんエリスは、グランブレイドの皇太子との婚約を解消させたことを言っているんだろうけど。


「俺の方こそ、エリスに感謝しているよ。エリスは俺を理解してくれるからな」


 感謝なんて言葉じゃ、言い表せない。俺はエリスが好きだ。どんなことがあっても、俺はエリスを守りたいと思う。


 だけどどういう意味の好きなのか。自分が馬鹿だと思うけど、俺自身が解っていない。俺にとってエリスだけが特別じゃないんだよ。


「今のアリウスが私の気持ちに応えられないことくらい、解っているわよ」


 エリスが悪戯っぽく笑う。たぶん俺の考えなんて見透かしているんだろう。やっぱり、エリスには敵わないな。


※ ※ ※ ※


 その日のうちに。俺は交易のために集めた品を魔都クリステアに持って行った。

 魔王アラニスを通じて、魔族にサンプル品として渡すためだ。


 居並ぶ1,000レベル超の魔族たち。だけど黒髪に黒い瞳の美女、アラニスの存在感は圧倒的だ。


「アリウス。君は面倒なことに巻き込まれたみたいだね」


 アラニスは世界中の魔力を感知するチートな能力を持っているからな。俺とシンが接触したことは、当然知っているだろう。


「ガーディアルと同盟を結べば、こうなることは想定済みだからな。アラニスは黙って見ていてくれよ」


 アラニスが裏切ったらどうするのかと、シンとエイジは言ったけど。アラニスが抜け目のない奴なのは解っているし。そもそも俺がアラニスを利用しているだけだからな。


「魔族のために人間と戦うとか。アリウスは本当に面白いよね。まあ、君なら大抵の奴には勝てると思うけど。もし本当に困ったら、相談してくれないか」


 俺とアラニスは対等な関係じゃない。

 アラニスは魔族全体を守りたい訳じゃないし。俺が何もしなくても、アラニスに勝てる奴なんていないだろう。


「その前に自分にできることを全部やるよ。俺はアラニスが同盟を組んでくれたことを、後悔させるつもりはないからな」


 今は形だけの同盟だけど。俺はアラニスと対等な関係を築きたい。そのためには俺がもっと強くなる必要がある。


「アリウスがそういう・・・・性格だってことは、解っているよ。私は君に期待しているからね」


 アラニスが楽しそうに笑う。こっち側に来れるものなら、来てみろと言うように。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 16歳

レベル:6,682

HP: 70,272

MP:107,535

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