第143話:序列1位の実力


 世界に10人しかいないSSS級冒険者には序列がある。

 ちなみにグレイが4位でセレナが5位。シュタインヘルトが6位で、俺は8位だ。


 だけど俺は序列なんて興味ないんだよ。そもそも俺は他の奴に勝ちたいとか思わないし。序列が強さで決まるってのも、微妙な話だからな。


 まずはSSS級冒険者になるには。最難関トップクラスダンジョンを攻略するとか、冒険者ギルドが決めた挑戦資格を満たしたSS級冒険者が、現役のSSS級冒険者に勝つ必要がある。


 だけどこのとき序列何位のSSS級冒険者に挑むかは、挑戦者の自由で。勝てば挑戦した相手の序列を奪うことができる。つまり新人ルーキーがいきなり序列第1位になることも可能だってことだ。敗けたSSS級冒険者はSS級に降格する。


 そしてSSS級冒険者の序列が入れ替わるのは、序列を賭けた戦いで下位のSSS級冒険者が、上位のSSS級冒険者を倒した場合。例えば10位の奴が3位の奴を倒したら、10位の奴が3位に、3位の奴が10位になる。だけど上位の奴にメリットがないから、序列を賭けた戦いなんて滅多に起きない。


 もう1つは、SSS級冒険者が引退するか死亡した場合。そいつよりも下の序列の奴らが繰り上がって。空いた下位の序列は、その時点で挑戦資格があるSS級冒険者たちが戦って、勝った奴が埋める。


 つまりSSS級冒険者の序列は、序列を奪った奴が奪われた奴よりも強いことは証明できるけど。単純に順位が上の奴が下の奴よりも強いかというと、微妙なところなんだよ。最初にSSS級冒険者になったときの序列が、上の奴が引退したら繰り上がるだけで。あとはほとんど固定だからな。


 だけど序列第1位と2位だけは別格だと言われている。特にこの白い髪と髭の爺さん、序列1位のシン・リヒテンベルガーは、下位の奴の挑戦を全部受けながら50年以上も勝ち続けて、序列1位に君臨しているらしいからな。


「アリウス・ジルベルト、話は聞かせて貰ったが。お主は魔王の代理人を辞めるつもりはないということじゃな?」


 鋭い眼光で俺を見据える。確かにこいつは……相当強いな。エイジよりも上手く魔力を隠しているけど。存在感と威圧感がハンパじゃない。


「ああ。俺は魔王が悪い奴とは思わないし。魔族と人間の戦いを終わらせるために、魔王の代理人を続ける必要があるからな」


「魔族と人間の争いを終わらせるだと? 誇大妄想も良いところじゃな。お主が何をしたところで、2つの種族の争いが終わらんよ。

 魔族は人間よりも強い。だから人間は魔族を脅威だと考える。この構図が変わることはない。それに2つの種族が手を携えるには、これまでに余りにも血を流し過ぎた」


 300年前の勇者と魔王の戦いの後も。魔族と人間の国の争いは度々起きている。2つの種族の争いの歴史の中で、大量の血が流れたのは事実だ。


「俺は魔族に家族や仲間を殺された奴が、復讐するのを止めるつもりはないし。逆も同じだ。まあ、状況次第で復讐される側の味方をするかも知れないけど。

 だけど相手が魔族だからという理由だけで、争うのは間違っていると思うからさ。俺は争いを無くすために、やれることをやるだけだよ」


「小僧が……自分なら何でもできると、思い上がっておるようじゃな。お主は自分の勝手な理想のために、ロナウディア王国とグランブレイド帝国を巻き込んだのか? 

 魔族の国ガーディアルと同盟を結んだことで、2つの大国は世界中を敵に回した。お主は魔族との争いを終わらせるどころか、人間の国同士の争いの火種を撒いただけじゃ」


「お言葉ですが、シン殿。ロナウディア王国は自らの意志で、ガーディアルと同盟を結びました」


 エリスが口を挟む。海のように深い青の瞳が、真っ直ぐにシンを見る。


「SSS級冒険者序列第1位シン・リヒテンベルガー殿、お会いできて光栄です。私はロナウディア王国第1王女エリス・スタリオン。

 シン殿はアリウスがロナウディアを巻き込んだと言いましたが、それは間違いです。ガーディアルとの同盟のメリットもデメリットも承知の上で。それでも利があると考えて、ロナウディアは同盟を結んだのです。グランブレイドも同じ考えでしょう」


「利があるから魔族と手を結ぶか。それでは資源の利権が目的で、魔族の領域に侵攻した勇者を担いだ者たちと大差なかろう。魔族とグランブレイドと手を結んで、ロナウディアは世界に覇を成すつもりか?」


「あら、それは違いますわ。私たちは他の国と争うつもりはありませんし。アリウスと同じように、魔族との争いを終わらせたいと思っています。

 ガーディアルとの同盟はその手段の1つで。魔族の国とも人間の国と同じように円滑な関係を築いて。争うよりもメリットがあることを示すつもりです」


 魔族との戦いを終わらせるという理想だけじゃ、誰も動かないからな。魔族との関係を築くメリットを、明確に示す必要がある。


 俺が持ち掛けた魔石の取引もそうだけど。あれは急場しのぎで俺が介入しただけで。

 魔族の領域には、めずらしい魔物の素材や資源とか。人間にとって価値がある物があるし。人間の国にも魔族が欲しがるものが沢山あることは解っている・・・・・。だから交易という平和的な手段で、メリットを得ることができる。


「仮にロナウディアに争う気がなくとも、相手がどう思うかは別じゃ。魔族の国と同盟を結んだことは、戦争を仕掛けるのに十分な理由になるじゃろう。それにロナウディア王国の中にも、魔族と手を結んだ王家に仇なす者たちが、沢山出て来るじゃろうな」


「ええ。勿論、それも承知の上です。ロナウディアとグランブレイドは。あらゆる手段を用いて内外の敵に対抗します。可能な限り平和的に。それでも剣を向けて来る者には、力を行使しますが。私たちはそれを望んでいる訳ではありません」


 SSS級冒険者序列1位のシンが相手でも、エリスは一歩も引かない。


「だがエイジが言ったように、魔王が猫の皮を脱いで牙を剥いたとき。ロナウディアはどうするつもりじゃ?」


「私たちは魔王が裏切るような状況を作る・・・・・ような下手を打つつもりはありませんが。万が一のときは、ロナウディアは全勢力を以て魔王と戦います」


「ああ。そのときは俺が全力で魔王を止める」


 今の俺の力じゃ、悪いけどグレイとセレナの力も借りることになるだろう。それでも魔王アラニスを止めるだけなら、不可能だとは思わない。


「ほう……アリウス、お主は魔王を止める自信があるようじゃな。小僧が……己惚れるのも大概にしておけ!」


 このとき。SSS級序列1位のシンが、魔力を隠すのを止めた。


 爆発するような膨大な魔力が視覚化される。魔力が大地を貫いて、上空まで噴き上がる。

 魔力量だけじゃなくて。濃縮された高密度の魔力が、空気を押し潰しながら焼き焦がす。


 魔力だけで人を殺すことができる圧倒的な力を感じる。だけど俺が収納庫ストレージから剣を出さないのは、シンが武器を抜かないからだ。


「シ、シン師匠……」


 エイジが固唾を飲んで見つめる。だけどエリスは笑みを浮かべたままだ。俺が絶対に守ると、信頼してくれるのは嬉しいけど。


 シンが拳を振るうと、膨大な魔力が俺に襲い掛かる。

 視覚化された濃密な魔力が、巨人の拳を具現化する。

 だけど巨人の拳が当たることはなく。俺の眼前でピタリと止まった。


「アリウス、お主の度胸と覚悟は認めてやろう。この儂の魔力を見ても、剣を抜かんとはな。だが、それが正解じゃ。儂に剣を向ければ、冒険者ギルドそのものを敵に回すことになるからな」


 シンはニヤリと笑うと。具現化した魔力を消し去って、再び魔力を隠した。


「とりあえず、魔王の代理人の件は保留じゃな。だがアリウス、今の言葉を忘れるでないぞ。魔王が牙を剥いたときは、お主が屍になるまで盾になるのじゃ。儂がお主の屍を踏み越えて、魔王を倒してやるわ」


「シン師匠……よろしいのですか?」


「エイジ。だから儂は弟子を取った憶えはないと言っておるじゃろう。

 アリウスに魔王の代理人を、無理矢理にでも辞めさせるか。此奴の首を取って、ロナウディアとグランブレイドに同盟の解消を迫るつもりじゃったが。

 アリウスにもロナウディアにも覚悟があることが解ったからな。此奴らがどこまで我を通せるか、しばらくは見物じゃな」


 エイジはまだ納得してないみたいだけど。シンには逆らえないみたいだな。

 俺の首を取るとか、物騒な言葉を残して。シンとエイジは立ち去って行った。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 16歳

レベル:6,682

HP: 70,272

MP:107,535

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