第142話:話し合い


 エイジが向かったのは、王都の郊外。

 王都の門を出てから2kmほど歩くと。周りに人はいない。


「ここなら、俺たちが話し合い・・・・をしても問題ないだろう。だがアリウス、どういうつもりだ?」


 エイジが睨んでいる理由は、俺の隣にエリスがいるからだ。


「この後、エリスと約束があるんだよ。エイジさんが話があるって言うから、待って貰っているんだ」


「SSS級冒険者のエイジ・マグナス殿ですね。ご挨拶が遅れました。私はロナウディア王国第1王女のエリス・スタリオン。アリウスと親しくさせて貰っています」


 エイジという名前と態度から、エリスはエイジの正体を見抜いたみたいだな。これからエイジが何をしようとしているのかも当然解った上で、何食わぬ顔で挨拶する。


「ロナウディアの王女様は、少しは腕に自信があるようだが。SSS級冒険者同士のことに口を挟むな。怪我では済まないぞ」


「あら、エイジ殿はアリウスと話し合い・・・・をするんですよね? だったら私がいても問題ないでしょう。それにどんなことがあっても、アリウスが私を守ってくれますから」


 エリスは悪戯っぽい笑みを浮かべて俺を見る。まあ、守れる自信がなかったら、一緒に連れて来ないけど。


「エイジさんなら、エリスを巻き込むような下手は打たないだろう?」


「それはおまえたちの返答次第だな。ロナウディアは魔族の国ガーディアルと同盟を結んだんだ。魔王の手先となって悪事を働くなら、俺は女子供だろうと容赦しない」


 エイジは全身から殺気を放つ。どうやら本気みたいだな。


「アリウス。おまえが魔王の代理人になった目的は何だ? ロナウディア王国とグランブレイド帝国という2つの大国まで巻き込んで、おまえは何をしようとしている?」


「俺は勇者を担いで魔族の領域に侵攻しようとした奴らを止めるために、魔王の代理人になった。魔王は世界を滅ぼす存在とか言うけど、魔王は何もしていないし。奴らが侵攻する本当の目的は、魔族の領域にある資源の利権を得るためだからな」


「勇者を担ぐ奴らの目的が、おまえの言う通りだとしても。魔王が世界を滅ぼす存在であることも、魔族が人類の敵であることも歴史が証明している。これまでにどれだけの人間が魔族に殺されたか。おまえは解っているのか?」


「過去の話をしたら、人間も沢山の魔族を殺しているし。今回勇者たちは一方的に魔族の領域に侵攻して、魔族を殺したんだ。魔族に家族や仲間を殺された奴が、復讐するのを止めるつもりはないけど。魔族だから悪だと決めつけるのは話が違うだろう。

 魔王が世界を滅ぼす存在だってことも、300年前に魔王と戦った奴らが言っていただけで。根拠なんて何もないよな」


 魔族は悪で魔王が世界を滅ぼす存在だということは常識だけど。元を質せば魔族と争っていた奴らが言い始めたことだからな。


「だが魔王の力は人類の脅威であり、魔族の領域に面した国が魔族に脅かされているのは事実だ。ロナウディア王国だって18年前の『ロナウディアの危機』のときに、魔族から侵攻を受けているだろう」


「向こうから侵攻して来たら勿論戦うけど。人間の国同士だって戦争は起きるし。過去に争った相手の力が脅威だからって、戦いを仕掛けて良い理由にはならないよな。

 まあ、戦争なんて大抵は勢力争いや利権が目的で起きるモノだし。戦争を仕掛ける側が自分を正当化するために、相手を悪だと決めつけるのは常套手段だけど」


 まあ、こんなことを言ったところで、エイジに響かないみたいだな。

 戦争を仕掛けるような奴は、確信犯で正義を騙るけど。


「アリウス、おまえが言いたいことは良く解った。おまえは魔王との橋渡し役になって、戦いを仕掛けた勇者たちを止めたということだな。

 だが魔王が人類の脅威であることは変わりない。おまえたち・・は魔王が牙を剥いたときに、沢山の人が殺されてから言訳をするつもりか?」


 エイジはベルトに差していた剣を、ゆっくりと引き抜く。赤い宝石が柄に埋め込まれた長剣が、紅蓮の炎を帯びる。SSS級冒険者エイジ・マグナスの代名詞と言える愛剣『裁きソードオブの剣ジャスティス』だ。


「アリウス、おまえは魔王に踊らされているのだ。魔王という強大な力を野放しにすれば、何れは必ず人類の災厄になる。魔王の代理人などと、魔王の脅威から目を背けるような真似をするのは止めろ」


 魔王の力が脅威だから、人々を守るために魔王と戦う。『正義の体現』をモットーとするエイジは、自分の正義を疑っていないんだろう。


「なんだよ、エイジさん。力づくで俺を止めるつもりか? だけど魔王が脅威だと思うなら、魔王を止める方が先じゃないのか」


 喋りながら、エリスの周りに『絶対防壁アブソリュートシールド』を展開すると。『絶対防壁』ごと少し離れた場所に移動させる。まあ、一応念のため・・・・だ。


「勿論、俺もそうしたいが……今の俺では魔王を倒せなかった・・・・・・


 エイジが歯ぎしりする。アラニスが魔王に復帰・・した直後。エイジがアラニスに挑んだことは聞いている。アッサリ敗けたそうだけど。

 だけどアラニスはエイジを殺さなかった。只の気まぐれだとアラニスは言ったけど。本当のところは良く解らない。


「アリウス。おまえもSSS級冒険者なら人類を守るために、魔王の代理人など辞めて俺と共に戦え! おまえの師匠のグレイさんとセレナさんもそれを望んでいる筈だ!」


「いや、俺には魔王と戦う理由がないからな。エイジさんが言うように、魔王が本当に牙を剥いたら。そのときは戦うけどさ」


「そうか……ならば、仕方ない!」


 エイジは炎を纏う剣を水平に構えると、一気に加速する。


 エイジは音速を超える速度で、続けざまに剣を放つ。しかも正確で、膨大な魔力を込めた攻撃だ。

 だけど6番目の最難関トップクラスダンジョン『修羅の世界』に出現する魔物モンスターの方が強いからな。俺は最小限の動きで全部避ける。


「アリウス……俺を舐めているか? おまえも剣を抜け!」


「いや、俺にはエイジさんと戦う理由もないからな。できれば穏便に済ませたいんだけど」


 口では女子供も容赦しないと言ったけど。とりあえず、エリスを狙う気はないみたいだし。

 勝手な思い込みで傍迷惑な話だけど。エイジは自分の正義を信じて、人類のために魔王と戦おうとしているんだからな。まあ、このままじゃ、埒が明かないけど。


「エイジさん。もう一度魔王に会って、話してみる気はないか?」


「ふざけるのも大概にしろ! 俺を魔王に売るつもりか? 魔王が何と言おうと、信じられる筈がないだろう!」


 予想通りの反応だけど。言うことは言っておかないと。


「エイジ、それくらいにしたらどうじゃ? お主の実力では、どう足掻いてもアリウスには勝てんぞ」


 突然乱入して来たのは、白髪で白い髭の老人。

 年齢は70歳を余裕で超えているけど。鋼のように鍛え上げた身体は、現役バリバリって感じで。穏やかに笑っているけど、鋭い眼光は隠していない。


「シン師匠……どうして、貴方が?」


「儂は弟子を取った憶えはないが……理由はお主と同じじゃ。魔王の代理人を名乗る小僧を、見極めようと思ってな」


 まあ、こいつの存在にも気づいていたけど。どう動くか解らなかったからな。


 SSS級冒険者序列第1位、シン・リヒテンベルガー。

 最初に7番目の最難関ダンジョンに到達した冒険者の1人だ。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 16歳

レベル:6,682

HP: 70,272

MP:107,535

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