第141話:正義の来訪者


 昼飯を食べながら、アレックスと話をする。


 アレックスの話だと。俺に喧嘩を売った後、ノアとゼスタに言われて正式な謝罪をしようとしたけど。俺が全然捕まらなくて、時間ばかりが過ぎていた頃。

 ノアが『伝言メッセージ』で、ブリスデン聖王国に定期報告をしたときに。ジョセフ公爵が俺たちを殺そうとして、返り討ちにあったことを聞いたらしい。


 ちなみにこの辺の話は公にしない方が、ブリスデン聖王国との交渉材料に使えるからな。『防音サウンドプルーフ』を発動して、周りには聞こえないようにしている。


「アリウス先輩に喧嘩を売るなんて、とんでもないことをしてくれたなと。ロザリア姉さんに叱られたんだけど。ロザリア姉さんに叱られたからじゃなくて、俺は自分が馬鹿なことをしたと思って。アリウス先輩とミリア先輩に謝りたかったんだ」


 ノアとゼスタはSSS級冒険者のアリウスを怒らせたことで、ブリスデンとの関係を悪化させたと真っ青になったらしいけど。アレックスは自分がやったことを純粋に反省して、俺たちに謝りたかったらしい。


「何しろ剣聖と呼ばれるロザリア姉さんが、アリウス先輩には絶対に敵わないと言っていたからな。そんな凄いアリウス先輩に喧嘩を売るなんて。俺は自分が身の程知らずの馬鹿だって気づいたんだよ」


 自分で俺の力を見極めたんじゃなくて、ロザリアに言われて気づいたのはどうかと思うけど。まあ、素直に反省しているみたいだからな。


「俺がアリウス先輩のことを女たらしで、ミリア先輩に相応しくないとか言ったこと。全部撤回させて貰うぜ。

 英雄色を好むって言うし、アリウス先輩のような凄い人を周りが放っておく筈がないからな。女子が集まって来るのも当然だろうし。ミリア先輩のことだって、圧倒的な実力者のアリウス先輩が一番相応しいと素直に認めるぜ!」


 アレックスに悪気はないのは解るけど。


「なあ、アレックス。俺とミリアは友だって言っているだろう。それにノエル、ソフィア、エリスのことだって。俺は大切に想っているけど、おまえが考えているような関係じゃないからな」


「そうよ、アレックス。私としてはアリウスとその……そういう関係になりたいって思っているけど。アリウスが大切に想ってくれて、アリウスの傍にいられるなら。今はそれで十分なのよ」


「いや、それって完全にハーレ……


 アレックスの言葉が途切れたのは、ノアが強制的に口を塞いだからだ。

 一瞬で口を塞ぐと同時に、テーブルに組み伏せている。


「皆さん、アレックス様が空気を読まずに申し訳ありません。アレックス様は頭が残念と言いますか……ハッキリ言って、馬鹿なんです」


「そうですよ、アレックス様。良い加減に自分の頭の悪さを自覚してくださいよ」


 ノアとゼスタの調子が元に戻ったのは、俺が普通に喋れと言ったからか。


「そう思うなら、アレックスのことは貴方たちがキチンと面倒を見るべきね。貴方たちは教育係として一緒にいるんでしょう?」


 エリスが呆れた顔で言う。


「はい、エリス殿下。私たちがアレックス様をキッチリ教育します。アリウス卿にも、これ以上ご迷惑を掛けたくありませんので」


 ノアがチラチラと俺の方を見る。ミリアとノエルがジト目になっているんだけど。


「ノアさん。貴方がアリウスに近づくことは自由ですし、どうするかはアリウスが決めることですが。アリウスを利用しようとするなら、私たちが絶対に許しませんよ」


 ソフィアは笑顔だけど、目が笑っていない。


「ええ、ソフィア様。肝に銘じておきますよ」


 そんなソフィアにもノアは全然怯まないで。挑発するように応えた。


※ ※ ※ ※


 アレックスたちと昼飯を食べた後。俺はエリスと2人で、学院の正門に向かった。

 今日の午後は魔族の国ガーディアルとの交易の件で、エリスと打ち合わせをすることになっている。


「ねえ、あの人……」


「うん。ちょっとカッコイイかも……」


 そろそろ午後の授業が始まる時間なのに。正門の周りには人だかりができていて、集まった女子たちが黄色い声を上げる。


 人だかりの中心にいるのは藍色の髪で。20代半ばの陰のある感じのイケメン。

 身長は180cmくらいで俺よりも低いけど。鋼のように鍛え上げられた身体は服上からでも解る。

 だけど見た目だけじゃなくて。上手く隠しているけど膨大な魔力の持ち主だ。


「エリス、ちょっと待っていてくれ。俺に用がある奴がいるみたいだからさ」


 俺の『索敵サーチ』の効果範囲は半径5km以上あるからな。こいつ・・・の存在には気づいていた。

 だけど放置していたのは、一応知っている奴だし。怪しい動きを見せなかったからだ。


「エイジさん。俺がたまたま学院にいるとき来たのは、偶然じゃないよな」


 俺が声を掛けると、エイジは苦笑する。


「アリウス……いや、『魔王の代理人』アリウス・ジルベルトと呼ぶべきか。久しぶりだな。おまえがSSS級冒険者になったときに、グレイさんとセレナさんに紹介されて会って以来か」


 SSS級冒険者エイジ・マグナス。まあ、わざわざ『魔王の代理人』と言い直したくらいだから。こいつの目的は想像がつくけど。

 それにしても、周りの女子たちのこととか。こいつは全然気にしていないな。


「勿論、俺が来たのは偶然じゃない。おまえがロナウディア王国の宰相の息子で、この学院の生徒だってことは直ぐに調べがついたが。

 宰相の家にも寄り付かないし、ほとんど学院にも通っていないようだからな。おまえが学院に現われたら『伝言』で知らせるように人を使ったんだ」


 一応、俺はジルベルト家には週に1度くらいのペースで帰っているけど。転移魔法テレポートで直接自分の部屋に移動しているからな。俺が帰宅していることを知っているのは、家族とジルベルト家の侍女くらいだ。


「それで。エイジさんは『魔王の代理人』の俺に何の用があるんだよ?」


 俺の方も今さらだし。周りの視線を無視して喋る。


「アリウス。おまえがほとんど不戦勝みたいな形で、SSS級冒険者になったことには色々と言いたいことがあるが。俺が尊敬するケヴィンさんが決めたことだから、文句を言うつもりはなかったんだが……」


 何だよ、そんな古い話を持ち出すのか。俺がSSS級冒険者になったのは12歳のときで、もう4年以上も前の話だ。

 俺がSSS級になるために挑戦したのは、当時SSS級冒険者だったケヴィン・ファウラって人で。ケヴィンは戦いを始めた直後に、アッサリと負けを認めて。ほとんど不戦勝みたいな形になったのは事実だけど。


「そう言えばケヴィンさんは、あのまま冒険者を引退したんだよな」


 俺の言葉が気に障ったのか。エイジの表情が厳しくなる。いや、訳が解らなんだけど。


「ケヴィンさんの話はもう良い。だが冒険者の鑑であるべき筈のSSS級冒険者が、世界を滅ぼす存在の魔王の代理人になるなど。さすがに看過できないからな。アリウス、俺はおまえの真意を問い質しに来た」


 エイジは今も魔力を隠しているけど。一瞬で魔力をMAXに上げられるように身構えている。いつでも戦闘を始められるように、全く隙が無い。

 まあ、そっちがその気なら。俺もそれなり・・・・の対応をするけど。


「俺の真意って言ってもな。説明するのは構わないけど、『魔王の代理人』の俺の言葉を、エイジさんが信じてくれるか解らないからな」


 たった今、エイジは魔王のことを世界を滅ぼす存在だと断言したからな。

 まあ、エイジは悪い奴じゃないけど。そういう奴・・・・・なんだよ。


 SSS級冒険者エイジ・マグナスのモットーは『正義の体現』だ。正義を執行するためなら、一切容赦はしない。


「信じる信じないは俺が決める。だがおまえにも弁明の機会くらいは与えてやろう。だがここで俺たちが話し合い・・・・をすれば、他の奴を巻き込むことになるからな。アリウス、場所を変えるから付いて来い」


 有無を言わせない感じで、エイジは言った。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 16歳

レベル:6,682

HP: 70,272

MP:107,535

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