第140話:昼休み


 昼休みになって。みんなで学食に昼飯を食べに行く。

 ミリアにノエル。今日はソフィアとエリスも一緒だ。


 4人がそれぞれ作ってくれた弁当が俺の前に並ぶ。

 うん。みんなが作ってくれた弁当はどれも美味いな。


「アリウス、ごめん。私が授業に出てなんて言ったせいで、嫌な思いをさせたわね」


 歴史学の教師クラウドに俺が糾弾されたことで。ミリアが申し訳なさそうな顔をするけど。


「別にミリアのせいじゃないだろう。それに俺は他人に何て言われても、気にしないからな」


 むしろ敵意を俺に向けることも、魔王の代理人を名乗った目的の1つだからな。俺が始めたことで、ロナウディアの王族のエリクやエリスが批判されるよりはマシだ。


「そうですよ、ミリア。私が言うのもなんですが。貴方が気にすることはないですよ」


 ソフィアが優しい笑みを浮かべて、ミリアを慰める。


「私としては、アリウスが全部1人で背負うつもりなのが気になるけど。ねえ、アリウス。私じゃ、貴方の隣に立つには力不足かしら?」


 エリスが悪戯っぽく笑う。どこまで本気で言っているのか、解らないけど。エリスが俺のことを心配してくれているのは解る。


「エリスが力不足な筈がないだろう。色々と手伝って貰っているし。交易に関しては、俺は完全に素人だからな。エリスがいてくれて助かるよ」


 魔族との良好な関係を築くために。ロナウディア王国と魔族の国ガーディアルが交易を始める計画がある。交易品の選定や調達については、商売を手広く手掛けるエリスの力を借りるつもりだ。


 ガーディアルと同盟を結んだことだし。そのうちエリスを魔王アラニスのところに連れて行くつもりだけど。今の俺では、アラニスからエリスを守れる確証が持てない。

 アラニスを信用していない訳じゃないけど、油断したら足元を掬われる。アラニスはそういう奴だからな。


 周りの生徒たちが囁き合いながら、俺たちを見ている。興味本位や好意的な視線も感じるけど。それだけじゃなくて、恐怖心や悪意がある感情も伝わって来る。

 まあ、全然興味がないし。反応するつもりはないけど。


「ミリア先輩、アリウス先輩……」


 そんな中。やって来たのは銀髪で長身の1年生。

 長い金髪の男子と、水色ベリーショートの女子も一緒にいる。


「アレックス、貴方は本当に懲りないわね」


 ミリアが嫌そうな顔をするけど。


「ミリア先輩、違うんだ! 俺はできたら、その……アリウス先輩と一緒に昼飯を食べたいと思って……」


 アレックスはブリスデン聖王国聖の騎士公の息子だから、何か企んでるかと思ったけど。どうもそんな感でもないみたいだな。


「ア、アリウス君とご飯を食べたいだなんて……い、今さらだよね!」


 人見知りなノエルが頑張って、俺の代わりに文句を言うてけど。


「いや、ノエル。一緒にメシを食べるくらい、構わないよ。席は空いているから、好きに座れば良いだろう」


「「「「え……」」」」


 ミリアとノエル。アレックスたちも驚いている。他の生徒たちは遠巻きに見ているから、俺たちの周りだけ席が空いているけど。俺が簡単に承諾するとは、思っていなかったみたいだな。


「アリウス先輩……本当に良いのか?」


「いや、そんなに大した話じゃないだろう。だけどみんなが作ってくれた弁当は、全部俺が食べる。おまえには絶対にやらないからな」


 アレックスが弁当を狙っている訳じゃないことは解っているけど。ミリアの弁当を見て、ちょっと羨ましそうな顔をしていたからな。


「あ……ああ、それは構わない。ありがとう、アリウス先輩」


 金色長髪のゼスタと、水色ベリーショートのノアが3人分の定食のプレートを持って来て。アレックスと一緒にテーブルに着く。


「アリウス先輩、ミリア先輩。この前のことは本当に申し訳ない……」


 アレックスは言葉遣いについて、ノアに散々言われたのに。全然直っていないよな。隣りにいるノアが思いきり睨んでいるけど。


「アレックス、その話はもう済んだ筈だよな」


 呆れた顔をする俺に、ノアが即座に反応する。


「アレックス様! アリウス卿に失礼がないようにって、あれほど言いましたよね? アリウス卿、アレックス様が本当に申し訳ありません!」


「そうですよ。アレックス様、もっとしっかりやってください!」


 ノアとゼスタが深々と頭を下げる。アレックスにも頭を下げさせるけど。


「いや、そういう意味じゃなくて。俺は謝る必要はないって言ってるんだよ。それに言葉遣いなんて、俺は気にしないからな」


 俺の言葉をノアは深読みしたらしく。訝しそうな顔をする。


「ねえ、貴方たち。アリウスは本当に全然気にしてないわよ。アリウスは細かいことに文句を言うような、小さい男じゃないから」


 何故かエリスが自慢げに言う。


「そうですよ。アリウスは後輩をイジメるような人じゃないですから」


 ソフィアも誇らしそうな笑みを浮かべる。


「エリス殿下、ソフィア様……」


 だけどノアはまだ戸惑っているみたいだな。


「なあ、アレックス。おまえは只俺たちと一緒にメシを食べに来ただけだよな? だったら余計な気を遣うなよ」


 アレックスが俺に喧嘩を売ったのは事実だけど、もう済んだことだし。


「アリウス卿……寛大なお言葉、ありがとうございます」


「いや、だからそういう・・・・態度を止めろって言っているんだよ。ノア、おまえがブリスデンにいる奴から何を聞いたのか、だいたい想像がつくけど。ブリスデン人は全員敵とか、俺は思っていないからな。おまえも普通に喋れって」


 ブリスデン聖王国でジョセフ公爵が俺たちを殺そうとしたけど。こいつらが直接・・関係している訳じゃない。ブリスデンの奴だから敵とか。それじゃ、魔族を敵視している奴らと同じだろう。


「ですがアリウス卿、アレックス様は……」


「アレックスはジョセフ公爵に仕える聖騎士ロザリアの従弟なんだろう。それくらい知っているけど。従弟ってだけで本人じゃないんだから、アレックスは関係ないだろう」


 ロザリアはイシュトバル王国の王都で、魔族の姿の俺に剣を抜いて。ブリスデンの聖都でもジョセフ公爵に従って、俺たちを殺そうとした。

 まあ、情報収集は基本だからな。こいつらの素性くらい調べてある。


「アリウス卿……」


 アレックスが感動したような顔をして。ノアもキラキラした目で俺を見るけど。いや、そんなに大したことは言っていないだろう。


「アリウス、貴方ねえ……」


「ア、アリウス君がまた……」


 ミリアとノエルがジト目をして。エリスとソフィアも困った顔をしている。

 みんなが言いたいことは何となく解るけど。俺は自分の考えを言っただけだからな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 16歳

レベル:6,682

HP: 70,272

MP:107,535

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