第138話:修羅


 6番目の最難関トップクラスダンジョン『修羅の世界』。

 

 空間を埋め尽くす1,000体以上の『修羅』の群れ。戦うためにだけに生まれた『修羅』と呼ばれる半神級の魔物モンスターは、人のような姿をしていて。大きさも人間と大差ないけど。これまで俺が戦ったどの魔物よりも強い。


 単純にパワーにスピードに正確さ。防御力に耐久力という全てが、これまで戦った魔物たちを、軽く上回っている。


 短距離転移と高速移動を繰り返して、『修羅』たちの攻撃を躱しながら。1体ずつ確実に仕留めて行く。

 まともに攻撃を喰らえば、今の俺でもHPをゴッソリ削られる。一瞬でも気を抜けば、即死に繋がる魂を削るような戦い。それが堪らなく楽しいんだよ。


 この2ヶ月以上。魔石の取引の交渉と、たまに学院やカーネルの街の冒険ギルドに行くとき以外は、『修羅の世界』の攻略を続けてきた。

 そしてついに最下層の『修羅』たちを全滅させて。ダンジョンの広大な空間に『修羅の世界』のラスボスが出現する。


 『修羅の世界』のラスボス『覇王』も、金色の髪を背中まで伸ばした普通の人間に見えるけど。絶対的で圧倒的な魔力を纏っている。こいつに比べたら、ここまで戦った『修羅』たちも赤ん坊のレベルだ。


 次の瞬間。『覇王』の拳が目の前に迫る。瞬間移動じゃない。単純に『覇王』のスピードが物凄く速いんだよ。

 ギリギリで躱したけど。衝撃波で魔力防護壁を思いきり削られて、摩擦熱で空気が焦げる臭いがする。こんなモノを真面に喰らったら、一発でアウトだな。

 だけどどんな攻撃も、当たらなければ意味がないんだよ。


 意識を集中して『覇王』の攻撃を躱しながら、HPを削っていく。躱すたびに魔力防護壁を削られるから、こっちもMPの消費が激しい。

 コンマ1秒間に無数の攻撃を互いに繰り出す戦い。時間が引き延ばされた感覚。どれだけ時間が経ったかは解らないけど。


 最後は俺の2本の剣が胸に深々と突き刺さって。『覇王』がエフェクトともに消滅する、そして魔石と、ドロップアイテムの鈍色の長剣だけが残った。


「素手で戦ってたのに、剣がドロップするんだな。まあ、これで次はいよいよ7番目の最難関ダンジョンだな」


 この世界に7つしかない最難関ダンジョン。だけどそう言われているだけで、さらに凶悪なダンジョンがあることを俺は知っている。

 攻略した最難関ダンジョンの中に、その証拠があったからだ。


 それでも最難関ダンジョンが7つしかないと言われてるのは、7つ目までしか辿り着いた奴がいないから。

 つまり7つ目の最難関ダンジョンを攻略した奴は、これまで誰もいないってことだ。


 とりあえず『伝言メッセージ』で、グレイとセレナに『修羅の世界』をソロで攻略したことを報告する。

 グレイとセレナは7番目の最難関ダンジョンを攻略中だから。2人に合流して、まずは・・・3人で攻略するか。


※ ※ ※ ※


 学院でも、俺がSSS級冒険者アリウスだとバレた。まあ、バレるのは時間の問題だったけど。

 魔石の交渉の席で、俺はロナウディア王国宰相の息子だってことを隠さなかったし。


 魔族の国ガーディアルとロナウディアが同盟を結んだと、世界中の国に送った書簡。そこにSSS級冒険者アリウスを、魔王アラニスの代理人に任命したと書かれていて。

 冒険者アリウスがアリウス・ジルベルトだと疑いを抱いた国から、問い合わせがあっても。ロナウディア王国は一切否定しなかったからな。まあ、そうするように俺が頼んだんだけど。


 わざわざ自分で宣伝するつもりはないけど。もう俺は自分の正体を隠すつもりはないんだよ。自分がやったことの責任は、自分で取るつもりだからな。


 ということで。7番目の最難関ダンジョンの攻略は、グレイとセレナに相談してから始めることにしたから。時間ができて、俺は学院に来ている。


 生徒たちの視線を今までよりも強く感じるけど。まあ、仕方ないよな。

 一部の男子たちが青い顔をしているのは。これまで嫉妬の視線を向けていた連中が、俺の正体に気づいて怯えているんだろう。


 女子たちは数が増えて、圧が強くなった気がするけど。これまで通りに熱い視線を向けて来る。まあ、興味はないけど。


「あの……アリウス先輩はSSS級冒険者で、魔王の代理人なんですよね?」


 そんな中。いきなり1年生の女子が声を掛けて来た。同じ1年生の女子たちが、後ろで黄色い声を上げている。


「ああ、そうだけど。だから何だよ?」


 素っ気ない態度。冷たい奴と思われるかも知れないけど。知らない奴に声を掛けられたら、こんなモノだろう。俺は別にモテたい訳じゃないし。


「「「アリウス先輩……素敵です!」」」 


 1年生女子の声と、後ろで見ていた女子たちの声がシンクロする。

 いや、この反応は何なんだよ。


「ねえ、そこの1年生たち。アリウスが困っているから、止めなさいよ」


「そ、そうだよ……ア、アリウス君を困らせちゃダメだから!」


 ちょうど通り掛かったミリアとノエルが割って入る。まあ、俺は無視するつもりだったし。困ってはいないけど。


「ミリア、ノエル。ありがとうな」


 気持ちは嬉しいから、とりあえず礼を言っておく。


「お、お礼なんて要らないわよ。ほら、早く教室に行くわよ」


「そ、そうだよ。ア、アリウス君のために何かできることが嬉しいんだから。」


 2人が照れていると。


「ねえ……白い髪と紫の瞳って、美少女って有名な生徒会のミリア先輩よね?」


「ホント、凄い美少女じゃない! だったら隣りにいるのは、ノエル先輩? 地味だけど隠れ美少女って噂だけど……本当みたいね!」


 1年生女子たちの視線が、今度はミリアとノエルに集まる。2人は生徒会の役員だし。それなりに有名なんだろう。

 美少女って話も、ミリアは『恋学コイガク』の主人公だし。ノエルが隠れ美少女なのも本当だからな。


「あのねえ、貴方たち。噂で人を判断するのは良くないわよ。ほら、授業が始まるわよ。さっさと行きなさい」


「そ、そうだよ。わ、私が美少女だなんて噂……嘘だから」


 ミリアが毅然とした態度で応える。ノエルは相変わらずだけど。ノエルなりに一生懸命コミュニケーションを取ろうとしている。

 1年生たちも意外と素直に従って、自分たちの教室へ向かって行った。


「じゃあ、私たちも行くわよ。ねえ、アリウス。貴方は滅多に学院に来ないんだから、来たときくらいは授業に出なさいよ」


「いや、今さら俺が授業を受けたって、意味がないだろう」


「そんなことないわよ。まあ、これは私の我がままだけど。2年生になって、せっかくアリウスと同じクラスになったのに。一度も一緒に授業を受けたとがないから、私はアリウスと一緒に授業を受けてみたいのよ」


 素直なミリアの言葉に。


「解ったよ。だけど午前中だけだからな」


「ありがとう、アリウス!」


 ミリアが嬉しそうに言う。授業に出るだけで礼を言われるなんて。それこそ礼を言われることじゃないけど。


「ミリア、良いなあ……わ、私もアリウス君と同じクラスになりたかったよ」


 ノエルが羨ましそうに言うけど。俺が授業に出るなんて、今回限りになる可能性が高いからな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 16歳

レベル:6,682

HP: 70,272

MP:107,535

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