第137話:フランチェスカ皇国
「ロナウディア王国とグランブレイド帝国が、魔族の国と同盟ですか。我々は完全に出し抜かれたようですね」
フランチェスカ皇国の皇都パーチェス。俺たちはイシュトバル王国で会った第2皇子ルーク・フェンテス他、フランチェスカの皇族と会っている。勿論、魔石の取引に関する交渉のためだ。
「魔族の国ガーディアルは、同盟国であるロナウディアとグランブレイドと魔石の取引をする。だから我々の出番はないと、そういうことですか」
ガーディアルと同盟を結んだことと、俺が魔王アラニスの代理になったこと。それを事前に書簡で伝えてあるから、話がスムーズに進む。
それにブリスデン聖王国との交渉で何が起きたのか。アリサが意図的に情報を流したことも、影響しているだろう。何れにしても、ルーク皇子が頭の回る奴で助かるよ。
「フランチェスカ皇国もガーディアルの同盟国になれば、同じ条件で取引をして構わないけど」
「アリウス・
ルーク皇子がフランチェスカの国家元首、ライアン・フェンテス天帝に話を振る。
俺がロナウディア王国宰相の息子だってことも、バレているみたいだな。
「さすがに魔族の国と同盟国になるのは難しいな。敵である筈の魔族と同盟を結べば、フランチェスカの貴族たちが黙っておるまい。だが魔石の取引は、我が皇国に大きな利益をもたらすからな……」
ライアン天帝は穏やかな顔立ちの50代の男で。皇族というよりも学者って感じだ。腹の中で何を考えているのかは解らないけど。
「アリウス殿、そこで相談だが。フランチェスカが魔族の国と相互不可侵条約を結ぶという条件で、魔石の取引に加えて貰えないだろうか。条約を結んだことを表沙汰にすることはできないが。勿論、フランチェスカの天帝の名に於いて、正式に調印させて貰う」
勇者を中心とする同盟が崩壊した今、魔族の領域に侵攻することは現実的じゃない。
つまり相互不可侵条約を結んでも、フランチェスカにほとんどデメリットはないってことだ。それでも魔族の領域に侵攻しないことを確約することにはなる。
「不可侵条約だけだと、同盟国と同じ条件という訳にはいかないけど」
「それは仕方あるまい。取引量の制限を受けるか。同盟国と同量の取引ができるのであれば、ある程度の価格の上乗せは飲もうではないか」
ライアン天帝は現実的な条件を提示して来た。同盟国と同じ条件をゴリ押ししても、無駄なことは解っているから。無難な範囲で譲歩したってことだな。
この条件ならこっちが取引をコントロールできるし。問題ないか。
「話は解った。ライアン天帝が提示した内容を、魔王アラニスに伝えておくよ。条件の詳細を纏めたら、『
「アリウス殿。魔王アラニス殿によろしく伝えてくれ」
この話が纏まれば、フランチェスカ皇国は魔族の領域に侵攻できなくなる。ライアン天帝の調印が証拠になるから、
だけど条約なんて、いつでも破棄できるし。調印が偽物だって言い張ることもできるからな。魔石の取引で繋ぎ止めておくのが正解だろう。
今回もセレナの魔法で、交渉の様子は全部動画に記録している。アリサが流した情報の中に、動画のことは含まれていないけど。フランチェスカは終始無難な受け答えをしていたから、何か感づいているんだろう。
このまま交渉が無難に終わると思ったけど。部屋を出て行こうとしたとき。無精髭の男が、俺たちの前に立ち塞がった。
「SSS級冒険者の肩書なんて、俺は信じねえが。てめえら3人の実力は、本物みてえだな」
こいつはフランチェスカ重装騎兵団長のデュラン。イシュトバル王国の王宮で、魔族の姿の俺に挑んで来た800レベル超えだ。
「デュラン、口を慎めて! おまえは何をするつもりだ!」
ルーク皇子が咎めると。
「ルーク殿下、怒るなよ。俺は喧嘩を売っている訳じゃねえぜ。なあ、てめえら3人のうちの誰でも良いから、彼と仕合をしろよ。 仕合なら問題ねえだろう」
狂犬のような血に飢えた目。こいつも大概だな。
「仕合くらい、俺はしても構わないけど。そっちの都合が悪いんじゃないのか?」
ルーク皇子がデュランを睨んでいる。いくら仕合でも、取引が纏まりそうなタイミングで。揉めごとを起こしたくないのは、フランチェスカの方だろう。
「チッ……解ったぜ。
そう言いながらも、デュランは不穏な空気を醸し出している。
まあ、結局のところ。
※ ※ ※ ※
ブリスデン聖王国で。ジョセフ公爵が
ビクトル聖王が謝罪の証として提示したのは、ジョセフ公爵と暴走した200人以上の騎士全員の処刑。
勿論、俺は蜥蜴の尻尾切りに協力する気はないから。丁重に断って、別の条件を出してくれと伝えた。
結局、落としどころとして。ブリスデン聖王国が、相応の賠償金を支払うことになった。俺は別に金が欲しい訳じゃないけど。無償で許すと舐められるからな。
ブリスデンとの魔石の取引については
フランチェスカ皇国とガーディアルの相互不可侵条約についても、無事に締結された。
魔石の取引条件ついては、価格は相場の1割増。今後1年間は取引量も制限して、1年後に条件を見直すことになっている。
ライアン天帝が提示した条件より厳しくしたけど。それでも
勇者と中心とする同盟に加わった他の国との交渉も続けているけど。主要国のブリスデンとフランチェスカを抑えたことで、とりあえずは魔族の領域への侵攻を止めることができただろう。
まあ、イシュトバル王国に同胞を殺された魔族の氏族が、復讐のために侵攻して来ることは考えられるし。他にも魔族と人間の間で小競り合いや、一国のレベルの争いが起きる可能性はあるけど。その辺りのことは、起きてから考えるしかないな。
今日、俺は学院に来ていて。アレックスたち1年生3人に会うことになっている。
ミリアの件で俺に喧嘩を売った翌日には、正式に謝罪をしたいと申し出があったらしいけど。俺にとっては優先順位が低いし。そのために学院に行くつもりはないから、放置していた。
だけど最近になって。改めて謝罪がしたいと、向こうからジルベルト家に押し掛けて来るようになった。
俺はほとんど家にいないから、アレックスたちに会わなかったけど。このままだと家族や侍女たちに迷惑だから。俺が学院に行く日をミリア経由で伝えて、会うことにしたんだ。
場所は学食のテーブル。俺の左右には当事者のミリアと、喧嘩を売られたときに一緒にいたノエル。そして今日はエリスとソフィアも一緒にいる。
時間は放課後の15時過ぎで。普段ならこの時間だと、学食にいる生徒は少ない筈だけど。今日は俺たちのテーブルを囲むように、結構な数の生徒が集まっていた。
興味本位の視線もあるけど。いつもよりも女子の熱い視線を感じるし。男子の視線は嫉妬と言うよりも――
「ア、アリウス先輩! 俺はブリスデン聖王国のオースティン聖騎士公の次男、アレックス・オースティンだ。まずは名乗りもしないで、一方的に喧嘩を売ったことを謝らせてくれ! 本当に済まなかった!」
そう言えばこいつ、自分から名乗ってもいなかったな。今さら感しかないけど。
「アレックス様、そんな言葉遣いでは全然駄目です! もっと丁寧に謝罪してください!」
「そうですよ、アレックス様。自分の立場を弁えてください!」
ゼスタがニヤニヤしないで、真面目な顔をしているし。ノアもアレックスを思いきり睨んでいるから。まあ、どういう状況なのか。大体察しはつくけど。
「アレックス。おまえがこれ以上ミリアに迷惑を掛けないなら、俺はそれで構わないよ。じゃあ、話は終わりだな」
俺が席を立とうとすると。
「アリウス卿、お待ちください!」
ノアが真剣な顔で止める。前に会ったときは全然悪びれなかったし。もっと太々しい奴だと思っていたけど。
「アリウス卿の話は故国の者……ブリスデンにいる
ノアはアレックスの頭を押さえて、強引に下げさせて。自分も深々と頭を下げる。
ゼスタも一緒に頭を下げているし。なんか完全に俺のことを怖がっているみたいだな。
ブリスデンの王宮で起きたことを、ビクトル聖王が口外させるとは思わないけど。人の口を完全に塞ぐのは難しいし。ノアたちは聖騎士公家の関係者だから、ある程度のことは知っているんだろう。だけどこれじゃ、俺がイジメているみたいだな。
「だからもうその話は良いって言っているだろう。俺はおまえたちのことを、どうこうするつもりはないからな」
だけど俺のことを怖がっているのは、ノアたちだけじゃなくて。周りに集まっている生徒の一部からも、恐怖の視線を感じる。特に男子からな。
こっちの理由も解っている。俺がSSS級冒険者で魔王の代理人だってことが、学院でもバレたからだ。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 16歳
レベル:6,367
HP: 66,952
MP:102,461
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