第135話:魔王の代理人


 ロナウディア王国東部の辺境地帯。

 俺はソフィアの仕事ぶりを見に来たついでに、魔物狩りをしている。


 建設中の街の近くに強い魔物モンスターはいなかったけど。飛行魔法フライで高速移動しながら、『索敵サーチ』で辺境地帯一帯の魔物を探して回る。


 最初に見つけたのはグリフォンの群れ。

 まあ、変異種じゃないし。せいぜい中難易度ミドルクラスダンジョンレベルの魔物だ。

 それでも、それなりに強い魔物だし。群れで襲われたら厄介だからな。


 俺は一気に加速して。音速の数倍の速度で、5体のグリフォンを文字通りに瞬殺する。


 その後はワイバーンに、マンティコアに、キメラに、ヒドラ。それなりに強い魔物だけを狙い撃ちにした。


 しばらく魔物狩りをしていると。森の奥で見つけたのは、全長8mほどのフォレストドラゴン。


 緑色の鱗と蝙蝠のような翼。まあ、それなりに大きいけど。普通・・のドラゴンだからな。

 フォレストドラゴンが反応する前に、首を刎ねる。


 それからも暫く魔物狩りを続けたけど。大した魔物はいなかった。

 まあ、危険な魔物がいないのは良いことだし。それなりの魔物なら100体以上倒したから。当面の間は開拓地が危険に晒されることはないだろう。


 そろそろ夕飯の時間なので、街に戻ると。ソフィアが夕飯を作って、待っていてくれた。


 メニューは肉の串焼きにシチュー。あとはサラダにパン。パンは自分で焼いた訳じゃないって言っていたけど。


「あの……アリウス、味はどうですか?」


「ソフィア、美味いよ」


 見た目はちょっと微妙だけど。味は普通に美味いし。せっかくソフィアが作ってくれたんだからな。


「良かった……お世辞でも、アリウスに美味しいって貰えると嬉しいですよ」


「俺がお世辞を言わないことは、ソフィアも知っているだろう」


「……そうですね」


 ソフィアが顔を赤くして、嬉しそうに笑う。

 ソフィアの護衛たちが生暖かい目で目ていて、ちょっとウザいけど。


 ソフィアは本当に良い奴だからな。ソフィアが嬉しそうだと、俺も嬉しいよ。

 だけどそんなことを言って、また誤解させたら悪いから。本人には言わないけど。


※ ※ ※ ※


 それから2週間ほど経って。俺たちは行動を開始した。

 魔族の国ガーディアルの協力者として、訪れたのはブリスデン聖王国の王宮。


 部屋にいるのはブリスデンの聖王ビクトルに、王弟ジョセフ・バトラー公爵。

 あとはイシュトバル王国で、ジョセフ公爵と一緒にいたロザリアって聖騎士と。他にも10人の聖騎士が後ろに控えている。


 まあ、部屋の中にいるのは、護衛のほんの一部で。200人以上の騎士が、この部屋を取り囲でいることは解っている。

 俺の『索敵サーチ』の効果範囲は、半径5km以上だからな。この王宮の戦力は全て把握している。


「俺は魔王アラニスの代理人、SSS級冒険者のアリウスだ」


 今日の俺は、普通に冒険者アリウスとして来ている。魔族の力を見せつけるターンは、前回で終わったからだ。

 わざわざSSS級と言ったのは牽制のためで。グレイとセレナも隠すことなしに、SSS級冒険者だと乗ると。


「ロナウディア王国第1王女、エリス・スタリオンよ」


「グランブレイド帝国第3皇子、バーン・レニングだ」


 エリスとバーンが続く。ソフィア、ミリア、ノエル、ジェシカの4人も一緒にいるけど。ある目的のために、2人に名乗って貰った。


「冒険者が魔王の代理人だと? それにロナウディアとグレンブレイドの者が何故ここにいる?」


 ジョセフ公爵の予想通りの反応。


「俺たちが先に手を打っただけの話だ。あんたたちが魔族の領域に侵攻しようとしている間に、俺たちは魔王と手を組んだんだよ。

 ロナウディア王国とグランブレイド帝国は、魔族の国ガーディアルと同盟を結んだから。エリス王女は同盟国のロナウディア国王を代表して。バーン皇子はグレンブレイド帝国を代表して。交渉の席に同席して貰ったんだ」


 勿論、魔王アラニスとロナウディア王国の国王アルベルト。グランブレイド帝国のヴォルフ皇帝には、話を通してある。

 ロナウディアとグランブレイドに関しては、エリクに動いて貰ったけど。


 俺は証拠として3人の国家元首が調印した書簡を見せる。書簡には3国が同盟を結んだことと、俺をアラニスの代理人と認めると書かれている。

 同じ内容の書簡が、今頃は世界中の国に届いているだろう。


 魔族が敵というという常識のせいで。以前なら魔族の国と同盟を結べば、世界中を敵に回すことになった。

 だけどアベルが勇者の力と求心力を失って。勇者を中心とする同盟も崩壊したから。明らかに潮目が変わった。


 魔王と同盟を組んで、魔族と人間の戦いを終わらせるには、今が絶好のタイミングだろう。

 何しろ勇者を担いで、魔王を倒すと言っていた奴らが。魔王と魔石の取引をしようとしているんだからな。


「魔族の国と同盟だと……ふざけたことを! 魔族は人間を滅ぼす存在だ! そんなことが許されると思っているのか!」


 激昂するジョセフ公爵。これも想定の範囲だ。


「じゃあ、ブリスデン聖王国は魔石の取引に関わらないということで。話は終わりだな」


 魔石の取引をしたい国は、他にいくらでもあるからな。

 俺が席を立とうとすると、ジョセフ公爵が慌てて止める。


「ま、待て! 私が非難したのは、ロナウディアとグランブレイドであって。魔族の国を非難した訳ではない!」


「いや、今あんたは魔族は敵だって言ったよな。それにロナウディアとグランブレイドはガーディアルの同盟国だ。俺は魔王の代理人として、同盟国を非難する奴を見過ごす訳にいかないよ」


「貴様……冒険者風情が! 先ほどからブリスデン聖王の王弟である私に、過ぎた口を! そもそも貴様は本当に魔王の代理人なのか?」


 ロナウディアのアルベルト国王と、グランブレイドのヴォルフ皇帝の調印は、国交のある国なら。過去の書簡と比べることで、判別できるけど。

 魔王アラニスの調印なんて、誰も見たことがないから。疑われたらそれまでだ。


「俺が魔王の代理人だって証拠ならあるよ」


 俺は収納庫ストレージから大量の魔石を取り出して、床にバラ蒔く。

 全部3番目の最難関トップクラスダンジョン『冥王の闘技場』以降に手に入れた魔石で。数はイシュトバルの王国の王宮で見せた魔石の10倍以上だ。


 これだけの品質の魔石を大量に手に入れるのは、SSS級冒険者でも難しい。

 だからこの大量の魔石こそが、魔石の取引を持ち掛けた魔族の代理人だという証明になる。


 まあ、ビクトルとジョセフは、魔石を見てゴクリと唾を飲み込んでいるし。こいつらは魔石さえあれば、証拠なんてどうでも良んだろう。


「あんたたちも解っていると思うけど。ガーディアルは魔石の取引について、同盟国のロナウディアとグランブレイドを優先するからな」


 ロナウディアとグランブレイドに、本当に魔石を売る訳じゃない。こう言っておけば、魔石を流さなくても。同盟国に流したと、言い訳できるからな。


「それでは話が違うだろう!」


 ジョセフ公爵が文句を言うけど。


「いや、魔族との関係を含めて、良い条件を出した国と取引するって話だからな。あんたたちも魔石を優先的に回して欲しいなら、ガーディアルと同盟を結べば良い」


 まあ、無理だろうけど。


 魔族の国ガーディアルと同盟を結べば。魔族は敵だという常識に囚われた奴らを、敵に回すことになる。

 そんな奴はどこにでもいるから。国の内側と外側の両方に敵を作ることになるだろう。


 それでもロナウディア王国とグランブレイド帝国が同盟を結んだのは。エリクとエリクの妻であるグランブレイド帝国のカサンドラ・ルブナス大公のおかげだ。


 エリクとカサンドラは魔族の国との同盟に、それだけの価値があると理解しているから。内外の敵を倒す覚悟と自信を持って、2つの国の国家元首を説得した。


 だけどブリスデンの連中は、利益のために動いているだけで。魔族が敵だという常識を打ち破る覚悟はない。

 その証拠にこいつらは魔族との魔石の取引について、身内の一握りの人間以外には隠しているからな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 16歳

レベル:6,225

HP: 65,558

MP:100,170

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