第134話:ソフィアの仕事
「アリウス。なんか変なことに巻き込んで、悪かったわね。でも……私のことを大切だって言ってくれて、嬉しかったわ」
ミリアが赤い顔で言う。
アレックスたちが立ち去った後。まだ昼飯の途中だったから。俺たちは学食に戻って、ミリアとノエルが作ってくれた弁当を食べている。
「ミリアのことを大切に想っているってことは、前から言っているだろう。だけど勘違いさせたら悪いけど。俺はみんなのことが大切で、ミリアだけが特別って訳じゃ……」
「そんなことは解っているわよ。だけどアリウスが私のことを、大切に想ってくれているのは本当よね? 今はそれだけで十分だわ」
「ね、ねえ、アリウス君。私のことは……」
「ノエルのことだって、大切に想っているよ。当たり前だろう」
「エ、ヘヘヘ……アリウス君、嬉しいよ!」
学食でそんなやり取りをしていると。また女子たちの熱い視線と男子の嫉妬の視線を感じるけど。
久しぶりだから少しだけ気になっただけで。他の奴が何を言うとか、何て思うとか。俺には関係ないからな。
弁当を食べ終えると。『結局、午後の授業もサボるのね』とミリアに文句を言われたけど。
午後は別の予定があるから。俺は学院を後にした。
※ ※ ※ ※
俺が向かった先は、ロナウディア王国東部の辺境地帯。
ロナウディアにも未開拓な場所は多くて。王国の人口が増えているから、開拓事業は将来のために欠かせない。
この世界には魔法があるから。土木工事や森の伐採、建物の建設にも魔法が使われている。だから工事のスピードは、俺が転生する前の世界と大差ない。
「アリウス、来てくれたんですね」
建設途中の街で。嬉しそうに俺を迎えてくれたのは、ソフィアだ。
エリクはソフィアとの婚約を解消したときに。ソフィアの家であるビクトリノ公爵家に王国の公共工事の一部を任せることで、今後も支援することを約束した。
ソフィアが公共工事に携わることが、ビクトリノ公爵家を支援する条件で。
ソフィアが直接工事の指揮を執っている訳じゃないけど。『
今は丁度視察のために現場に来ているタイミンクだと、ソフィアに『伝言』で聞いたから。ソフィアの仕事ぶりを見せて貰うために、俺はここに来たんだよ。
「ええと……仕事をしているところを見られるのは、ちょっと恥ずかしいですね」
今のソフィアは動きやすい革製の上着とズボンという格好で。ベルトに剣を差している。
ここは辺境地帯だからな。
「ソフィアがズボンを穿くなんて、剣術の授業やダンジョン実習のときくらいだろう。だけどソフィアは何を着ても似合うよな」
「またそんなことを言って。でもアリウスに褒められるのは嬉しいですよ」
ソフィアの顔がちょっと赤い。ちなみにソフィアの護衛たちは、少し離れた場所で待機している。
俺が来たから気を使っているつもりなのか。生暖かい心を感じるんだけど。
ソフィアの護衛たちはB級冒険者クラスの腕前だし。ソフィア自身もこの1年で結構強くなった。王国軍の兵士も常駐しているから。並みの魔物に後れを取ることはないだろう。
だけどここまで来たついでだからな。後で周辺の魔物を狩っておくか。
ソフィアの案内で、開拓工事の現場を見て回る。川沿いに建設途中の新しい街と、農地のために開拓された広い土地。
この新しい街は当面の間、王家の直轄領として運営されるけど。管理者としてブレンダ子爵という貴族が赴任している。
ブレンダ子爵はソフィアの叔父で。工事の直接的な指揮もブレンダ子爵が取っている。
だったらソフィアは飾りモノかというと、決してそんなことはなくて。予算管理や魔法を工事に使う知識とか。ソフィは良く勉強しているんだよな。
自分に足りない知識は、伝手を使って専門家を探してくるとか。叔父のブレンダ子爵も認める実力を発揮している。
「まさかソフィアにこのような才能があるとは。兄上のビクトリノ公爵も知らなかったのだろうね。さすがは天才と呼ばれるエリク殿下だ。ソフィアの才能を見抜いていたようだな」
ブレンダ子爵は30代半ばの気さくな人で。大貴族にありがちの不遜な態度とは無縁だ。だがらこそエリクは、新しい街の管理者にブレンダ子爵を選んだんだろうな。
ちなみにエリクは王太子になって。アルベルト国王から国王としての実務の多くを、すでに任されている。エリクも着実に階段を上っているよな。
「ソフィアとエリク殿下の件は残念だが……なるほど。ソフィアには他に想い人がいたようだね。アリウス殿、ソフィアのことをよろしくお願いするよ。相手が将来の王国宰相なら、兄上も文句を言わないだろう」
「ブ、ブレンダ叔父様、勘違いしないでください! 私とアリウスは、その……友だちです。そんなことを言うと、アリウスに迷惑ですから……」
ソフィアは真っ赤になるけど。直ぐに真剣な顔になって。
「今の私はアリウスの隣に立つには力不足ですし。私よりも相応しい方がいますから。ですが私も諦めるつもりはありません。私は私のやり方で、アリウスの隣に立てる人間になるつもりです……いいえ、絶対になってみせます!」
ソフィアが力強く宣言したことに、ブレンダ子爵が驚いている。
ソフィアが『相応しい方』と言ったのは、エリスのことか? まあ、今の時点だとエリスの方が一枚上手だろうな。だけどソフィアだって頑張っている。
「ブレンダ子爵。俺は恋愛のことは良く解らないですけど。俺にとってソフィアは大切な友だちなんです。だからソフィアのことは全力で応援しますよ。まあ、俺は宰相の地位を継ぐつもりはないので。そういう意味では期待しないでください」
「ちょっと待ってくれ……アリウス殿はジルベルト侯爵家の嫡男だろう?」
「ええ、そうですけど。俺には弟と妹がいますので」
ブレンダ子爵が戸惑っているけど。結局のところ、俺は貴族の地位を継ぐよりも、冒険者を続けたいのもあるし。今の俺には他にやることがあるからな。
俺がやりたいことの先に、ロナウディア王国宰相の地位はないんだよ。
「ブレンダ叔父様。アリウスには王国宰相になることよりも、やりたいことがあるんですよ。アリウスは貴族の地位に興味がありませんし。私はアリウスが貴族でなくなっても、そんなことは関係なしにアリウスの傍にいたいと思っています」
ソフィアは俺のことを理解してくれているよな。王国宰相の地位を継がないことは、家族には申し訳ないと思うけど。俺がやりたいことを話したら、父親のダリウスと母親のレイナも理解してくれた。
ブレンダ子爵と別れて。俺とソフィアは建設中の街を歩く。
工事をしている人たちが、笑顔でソフィアに挨拶して。ソフィアもそれに応える。ソフィアもホント、頑張っているよな。
「ソフィア。俺はこれから同盟国に仕掛けるつもりで、結構面倒なことになると思うけど。俺のやることにソフィアも協力してくれないか」
俺はこれからやることを、みんなに見て貰うつもりだし。できれば協力して貰いたいと思っている。
「私が役に立つか解りませんけど。協力するに決まっているじゃないですか。私はアリウスの役に立ちたいんです」
ソフィアは満面の笑みを浮かべる。まあ、俺もソフィアに協力してくれと言われたら。同じような顔をするだろう。大切な仲間の役に立ててることは嬉しいからな。
「ソフィア、ありがとう」
「ええ、どういたしまして。ところで……アリウス、今日は夕食を食べて行きませんか? その……私が頑張って作りますので」
公爵令嬢のソフィアは、料理をしたことがないって言っていたけど。俺のために作ってくれるのか。
「ああ。ソフィアの料理、楽しみにしているよ」
「あ、あまり……期待しないでくださいね」
夕飯まではまだ時間があるし。俺はソフィアと別れて、街の周囲にいる魔物を狩ることにした。
まあ、並みの魔物ならそこまで警戒することはないし。俺が狙うのは
天然の魔物はダンジョンと違って、倒すと魔石じゃなくて死体が残るから。この機会に魔物の素材を回収しておくか。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 16歳
レベル:6,061
HP:63,829
MP:97,528
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