第133話:アレックスの理由


 学食のテーブルの前で、銀髪君が俺を睨みつける。今にも殴り掛かって来そうな雰囲気だな。


「ここで騒ぐと、周りに迷惑だからな。他の奴がいないところに行くか」


「ああ。上等だぜ」


 こいつはホント、テンプレみたいな台詞を吐くよな。


「アリウス、私も一緒に行くわ」


「ア、アリウス君、私も!」


 ミリアは銀髪君に本気で怒っているし。ノエルも言い返さなかったけど、頭に来ているみたいだな。


 俺たちが銀髪君を連れて移動しようとすると。俺たちの目の前に、2人の生徒が立ち塞がる。

 水色のベリーショートの女子と、金色の長髪の男子。どちらも見たことのない顔だし。たぶん1年生だろう。


「アレックス様。騒ぎを起こさないで欲しいって、私は言いましたよね?」


「ノア、そんなことを言っても今さらだろう。アレックス様、やる以上は勝ってくださいよ」


 ベリーショートの女子は呆れ顔で。金髪男子の方はニヤニヤ笑っている。2人とも止める気はないみたいだな。


 俺たちは中庭へ移動した。全寮制の学院では、中庭で弁当を食べる習慣はない。だからこの時間だと、中庭に生徒はほとんどいなかった。


 俺と銀髪君が対峙する形で。俺の後ろにミリアとノエル。銀髪君の後ろに2人の1年生が立つ。


「なあ、アレックス。おまえは俺が女たらしで、ミリアとノエルを侍らせてるとか文句を言っていたけど。それはおまえの勝手な勘違いだし。もし本当のことだとしても、おまえには関係ないことだよな」


「おい! 俺のことを呼び捨てに……」


 アレックスが文句を言おうとして、途中で黙る。ミリアに睨みつけられたからだ。

 アレックスの方が先に俺を呼び捨てにしたから、文句を言われる筋合いじゃないけど。それにしても、こいつはミリアに対して滅茶苦茶弱腰だな。


「アリウス……先輩、ふざけるなよ。勘違いだなんて良く言うぜ!」


 後から『先輩』と付けたのは、またミリアに睨まれたからだな。


「人の目の前で、昼間からイチャイチャしやがって。あんたみたいな女たらしは、ミリア先輩に相応しくねえんだよ!」


 まあ、そういうことか。俺は恋愛に疎いけど。ここまであからさまだと、さすがに気づくよ。

 ミリアが何か言い返そうとするのを、俺は視線で止める。


「だからおまえの勘違いだって。俺はミリアのことを大切に想っているけど。おまえが考えているような関係じゃない。俺とミリアは友だちだからな」


 俺は本当のことを言っただけなのに。何故かミリアが嬉しそうに顔を赤くする。

 だけどこのタイミングで、ミリアにそんな顔をされると。俺が何を言っても、アレックスは聞く耳を持たないだろう。


「適当なことを言いやがって! アリウス……先輩! どっちがミリア先輩に相応しいか、実力で解らせてやるぜ!」


 いや、力づくで証明するとか。どこの頭の悪い不良だよ。ツッコミどころ満載だな。

 ミリアとノエルは完全に呆れているけど。2人だけじゃなくて。ベリーショートの女子と金髪の男子も、アレックスの肩を持つ気はないみたいだ。


 アレックスはいきなり殴り掛かって来た。

 俺は躱しながら腕を掴んで投げ飛ばすと。そのまま地面に組み伏せる。


 いや、アレックスは気絶させても、懲りそうもないし。俺が殴ったら1発で壊れそうだからな。

 それに躱せば、ミリアとノエルの方に突っ込んで行く勢いだったから。消去法で組み伏せたんだけど。


「て、てめえ、放しやが……ッ!」


 文句を言うから、関節を極めて痛みで黙らせる。まだ続けるなら、容赦なく折るし。それでも暴れるなら、多少壊れようが殴るけど。


「アリウス様、申し訳ありませんが。それくらいで勘弁して貰えませんか」


 ベリーショートの女子が、呆れ顔で口を挟んで来る。呆れているのは俺に対してじゃなくて、アレックスに対してだ。


「いくらアレックス様でも、自分が如何に身の程知らずか解ったと思いますので。全く、アレックス様は人を見る目がないんですよ」


「おい、ノア。本当のことだとしても、そこまで言ったらアレックス様が可哀そうだろう」


 金髪男子がニヤニヤ笑う。こいつら、アレックスをフォローする気が全然ないだろう。

 まあ、アレックスが暴れても止めるのは簡単だから。俺はアレックスを解放する。


 立ち上がったアレックスは、俺が極めた関節を痛そうに押さえながら。2人の1年生を睨む。


「おまえら……好き勝手なことを言いやがって」


「アレックス様が悪いんですよ。私が騒ぎを起こさないでってお願いしたのに。よりにもよって、あの・・アリウス・ジルベルトに喧嘩を売るんですから。それに私に文句を言う前に、やることがありますよね?」


 ノアに促されて。アレックスはバツの悪い顔をする。


「アリウス……先輩。あんたの方が実力が上なのは認めるが。あんたがミリア先輩に相応しいだなんて、俺は認めないからな」


 いや、全然反省してないな。


「アレックス、貴方はまだそんなことを言っているの!」


 我慢できなくなったのか。ミリアがアレックスの前に進み出る。ミリアの迫力にアレックスは気圧されて、思わず後退った。


「ミ、ミリア先輩……」


「誰が私に相応しいとか、貴方が決めることじゃないわよね! それにアリウスが侍らせているとかじゃなくて。私はアリウスのことが好きだから、傍にいたいのよ。アリウスに文句を言うなら、私が許さないから!」


 アレックスが涙目になる。いや、こいつは迷惑な奴だけど。ちょっと可哀そうになって来たな。


 ミリアは『恋学コイガク』の主人公の、純白の髪と紫紺の瞳の美少女で。

 そんな見た目だけじゃなくて、明け透けな性格の良い奴だから。好きになるのは解らなくはない。

 それにミリアに対する態度から、アレックスがそこまで悪い奴とは思わないからな。


「ミリア先輩、俺は……」


 アレックスが何か言おうとするけど。


「アレックス様、そこまでにしましょう。いくらアレックス様でも、完全に完膚なきまでにフラれたことは解りますよね?」


 ノアの傷口に塩を塗るような発言に、アレックスが固まる。


「お、おい、ノア! 俺は別にミリア先輩のことが……」


 だけどノアの容赦ない攻撃は続く。


「いや、今さら何を言ってるんですか。アレックス様がミリア先輩に惚れているのは、誰が見てもバレバレですよ。言訳はみっともないので止めてください。

 まあ、これだけ言われても諦めないなら、根性だけ・・は認めますが。とりあえず今日のところは、これ以上恥を晒すのは止めて退散しましょう」


 完全に止めを刺されて、アレックスは項垂れる。アレックスの目が死んでいるんだけど。


「アリウス・ジルベルト卿。アレックス様が正式に名乗りもせずに、数々の無礼を働きまして。大変失礼しました」


 さっきまでニヤニヤ笑っていた金髪男子が、突然真顔で頭を下げる。


「申し遅れましたが。私はブリスデン聖王国オースティン聖騎士公家に仕えるゼスタ・クラウスと申します」


「同じくノア・イリエッタです。アリウス卿。以後、お見知りおきを」


 ノアも別人のように真面目な態度になる。


「後日、アレックス様ともども正式に謝罪させて頂きますので。今日のところは、どうかご容赦ください」


 なんか勝手に話を纏めようとしているけど。


「まさか全部アレックスのせいとか、それで終わらせるつもりじゃないよな? おまえたちは最初から全部見ていた訳だし。おまえたちなら、アレックスを止めるくらい簡単だよな」


 ゼスタとノアのレベルなら、アレックスが暴走する前に止められた筈だし。こいつらの態度なら、上下関係を理由に手が出せないとは思わない。


「そうですね。その辺りも含めて、後日改めて説明させて頂きますので」


 ゼスタが悪びれずに言う。

 まあ、ここで問い詰めると。呆然自失のアレックスを、さらに追い詰める結果になりそうだからな。


 俺が黙っていると。それを合意と受け取ったゼスタとノアが、アレックスを連れて立ち去って行った。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 16歳

レベル:6,061

HP:63,829

MP:97,528

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