第132話:後輩


 エリクと2人で、エリクのサロンまで移動すると。入口の扉に『生徒会室』という看板が付いていた。


 そう言えば、去年の秋の生徒会選挙で。エリクは生徒会長になったんだよな。

 ロナウディア王国第1王子で、爽やかイケメン。しかもエリクは誰にでも優しい良い奴だからな。生徒会長に選ばれるのは当然だろう。


 ちなみに他の生徒会役員は、生徒会長が指名することになっていて。副会長はソフィアで会計はミリア。書記はノエルだ。

 本来の生徒会室は別にあるけど。エリクが自分のサロンの方が寛げるって、ゴリ押しして認めさせたらしい。


 部屋に入ると。エリクの侍女兼護衛のベラとイーシャが、お茶とお菓子を用意して。2人が退室するのを待ってから、エリクが話し始める。


「早速だけど。アリウスが仕掛けた魔石の取引の件で、同盟国各国の動きが激しくなっているね。特にブリスデン聖王国とフランチェスカ皇国は、他の国が取引に関わらないように、あからさまに圧力を掛けているみたいだね」


 俺はエリクに同盟国に関する情報収集を依頼している。

 俺が魔族の姿に化けて持ち掛けた魔石の取引。魔族との関係を含めて良い条件を提示した国とだけ、取引することになっている。

 俺の目的は魔族の領域への侵攻を止めさせることと。勇者を中心とする同盟を分断することだ。


「それでも魔石の取引に関わることで得られる利益は膨大だから。他の国も水面下で準備を進めているみたいだよ。

 勇者アベルが力を失ったこともあって、魔族の領域への侵攻の話は完全に立ち消えだね。各国はイシュトバル王国から兵を引き上げて。兵を動かした費用をイシュトバル王国に請求するつもりみたいだよ」


 イシュトバル王国は決して大国じゃないし。各国から費用を請求されたら堪らないだろう。

 だけどアベルが勝手に先行したことが原因で、魔族の領域への侵攻が滞ることになった訳だし。勇者の力を失ったことで、同盟国との力関係も逆転したから。イシュトバル王国は国が疲弊しても、費用を払うしかないだろう。


「まあ、これくらいの情報なら。アリウスは勇者パーティーのアリサ・クスノキから聞いていると思うけど。彼女の諜報能力は侮れないからね」


 俺はアリサに勇者を裏切らせて、情報を流して貰っている。同盟国の会議にタイミング良く乗り込むことができたのは、アリサのおかげだ。

 エリクも認めているように、アリサの情報収集能力は高いから。エリクが説明してくれた同盟国の状況についても、俺はすでにアリサから聞いていた。

 

「ここからの話は、どこまでアリサから聞いているか解らないけど。彼女は情報を収集するだけじゃなくて。同盟国を分断するために、色々と裏工作をしているみたいだね。

 ブリスデンとフランチェスカ以外の国が手を組むように手引きしたり。逆にその情報をブリスデンとフランチェスカに流したり。各国が疑心暗鬼になっている原因は、彼女が作っているんじゃないかな」


「アリサから細かいことは聞いていないけど。俺の方から同盟国を分断するように動いてくれって依頼したんだよ。暗殺とか人が死ぬようなことはするなって、条件を付けた上でね」


 魔石の取引という餌を撒いて待っているより、こっちから動いた方が確実だからな。

 それにしても同盟国がイシュトバル王国で会議を開いてから、まだ10日ほどしか経っていないのに。アリサの動きが早過ぎる。まあ、アリサのことだから。会談の前から今の状況を予測して、動いていたんだろう。


「アリウスは僕とアリサの両方から情報を集めながら、僕にアリサを監視させるつもりなんだね。彼女はバレなければ・・・・・・何をしても構わないと考える性格みたいだから」


「俺としてはエリクにアリサを監視させる・・・んじゃなくて。監視して貰う・・つもりだけど。まあ、狙いはそんなところだよ」


 アリサに細かいことまで全部報告するように言っても。どうせ自分に都合の良いことしか報告しないだろう。結局のところ、アリサは自分の利害のために動いている。

 エリクも利害を考えて動くけど。仲間を裏切るようなことは絶対にしないからな。


「アリウスもしたたかになったね。君が強いだけじゃないことは解っているけど。僕みたいに策略を巡らせるタイプじゃないと思っていたよ」


「俺は必要だと思うことをしているだけで。自分から仕掛けようとは思わないよ。そういう・・・・のはエリクに任せるから」


 勇者は世界を救うために魔王を倒す。その構図のせいで、これまでは勇者と同盟国と、あからさまに対立することは難しかったけど。

 アベルが勇者の力と求心力を失って。同盟国も世界を救うという大義名分で魔族の領域に侵攻するよりも、魔石の取引という目の前の利益を選ぼうとしている。


 こんな状況をエリクが見逃す筈がない。まあ、俺の方も考えがあるけど。


「エリク、俺から1つ相談があるんだけど――」


 俺がこれからしようとしていることを、エリクに説明すると。

 エリクはいつもの爽やかな笑みじゃなくて。本気で面白がっているように笑う。


「なるほどね。アリウスらしいやり方だと思うし。僕も是非協力させて貰うよ」


「エリクならそう言うと思ったよ」


 それから暫く。俺とエリクは今後のことについて話し合った。


「話は決まったけど。色々と根回しをするのに時間が掛かるね。アリウスも直ぐに動くつもりはないんだよね?」


「ああ。今はアリサが動いているし。俺が仕掛けるのは、もう少しタイミングを計ってからだな」


「じゃあ、僕はアリサの監視を続けながら準備を進めるよ。何か動きがあれば、アリウスに『伝言メッセージ』で伝えるからね」


 エリクが笑みを浮かべる。今度はいつもの爽やかな笑みを。


 とりあえず、今日のところはこれで話は終わりだ。

 そろそろ昼飯の時間だし。俺はエリクと別れて学食に向かう。


※ ※ ※ ※


 廊下を歩いていると、また女子の熱い視線と男子の嫉妬の視線を感じる。ホント、この学院の生徒たちは相変わらずだよな。


「アリウス、こっちよ!」


 学食にはミリアとノエルが先に来ていて。席を確保して、俺を待っていた。

 ちなみにエリスとソフィアは、今日はそれぞれ用事があって。学院に来ていないことは本人から『伝言』で聞いている。


 ミリアとノエルの間の席に座って。2人が用意してくれた弁当を食べる。


「ミリアの弁当はいつも美味いよな。ノエルも料理が上手くなったんじゃないか」


 お世辞じゃなくて本当に美味い。肉中心で量が多いのも、2人が俺のことを良く解っているからだな。


「そう言って貰えると、作った甲斐があるわよ。ほら、沢山作ってきたら。どんどん食べてね」


「わ、私もアリウス君に褒めて貰えて嬉しいよ。ミリアに料理を教えて貰って、頑張って作ったんだからね」


「ミリア、ノエル。2人とも、ありがとうな」


 食べている間も、他の生徒たちの視線を感じるけど。久しぶりに学院に来るようになったから、少し気になるだけで。

 直接絡んで来ないなら、無視すれば良いと思っていたんだけど。


「なあ。あんたがアリウス・ジルベルトだな」


 知らない生徒が俺を睨む。まあ、こいつが近づいて来たことには、気づいていたけど。

 銀色の髪に青い瞳。長身のイケメン――って、色々とアリウスに被っているよな。


 まあ、初めて見る顔だし。少し幼い感じがするから、たぶん新入生だろう。

 だけど誰かに似ているような気がするんだよな。


「そうだけど。俺に何か用があるのか?」


 いきなり呼び捨てで絡んで来たけど。相手は年下だからな。とりあえず、話くらいは聞いてやろうと思ったんだけど。


「あんたは噂通りに、いけ好かねえ女たらしみたいだな。学院の中で女を侍らせやがって!」


 ナニ、この昔の漫画みたいなテンプレ発言。俺が怒るよりも呆れていると。


「アレックス、貴方ね。いきなり、何を言ってるのよ!」


 ミリアがテーブルを叩いて、立ち上がると。銀髪君を睨みつける。名前を知っているから、ミリアの知り合いなんだろう。


「ミリア先輩! 俺が用があるのはアリウスで……」


「アリウスも貴方の先輩よ。呼び捨てにして良い筈がないわよね!」


「いや、たかが1年早く生まれただけで……」


「それにアリウスがいけ好かないとか、女たらしとか。貴方に好き勝手に言われる筋合いじゃないわよ!」


 ミリアが捲し立てる。本気で怒っているな。

 銀髪君の方は、最初の勢いはどこに行ったのか。ミリアに完全に言い負かされている。


「なあ、ミリア。俺のために怒ってくれるのは嬉しいけど。こいつが用があるのは俺みたいだから、俺が相手をするよ」


「てめえ……」


 俺の発言に、銀髪君が再びいきり立つ。ああ、馬鹿決定だな。

 こいつの目的はイマイチ良く解らないけど。俺は舐められるのは好きじゃないし。また絡んできたら面倒だから。


 とりあえず、解らせてやるか。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 16歳

レベル:6,061

HP:63,829

MP:97,528

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