6章 SSS級冒険者

第131話:これからのこと


 とりあえず、やることが終わったので。俺たち・・はイシュトバル王国の王宮を後にした。

 

「結局のところ。同盟国の人たちは、利益のことしか考えていないのね」


 転移魔法テレポートでロナウディア王国の王都に戻ると。ミリアが溜息を吐く。


 今回もみんなは同行して。セレナの『絶対防壁アブソリュートシールド』の中で『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』を発動して隠れていた。


 勇者の件に関わった以上。みんなにも最後まで付き合って貰うつもりだ。

 俺が何をするのか。全部見て貰おうと思う。


 俺の思惑通りに話が進むか、解らなかったから。グレイにはいつでも動けるように、魔族の姿で待機して貰っていた。

 アベルや同盟国の奴らが、徹底抗戦に出る可能性もあった。

 結果的には誰も殺さなかったけど。あくまでも結果論だからな。


「国の上にいる人って、あんな奴ばかりなの……あっ! 私はみんなのことを悪く言うつもりはないわよ!」


 申し訳なさそうに言うミリアに、ソフィアが優しく微笑む。


「ミリア。そんなことはわざわざ言わなくても、解っていますよ」


「まあ、国の指導者が利益を第一に考えるのは事実だからな。ミリアが言ったことは間違いじゃないぜ」


「バーン殿下の言い方だと、少し語弊があるわね。真面な指導者なら自分の利益じゃなくて、国の利益を優先するわ。それが権力を持った者の義務だから」


 バーンとエリスもミリアが言ったことを全然気にしていない。

 自分がやっていることに自信があるんだろう。


「だけどアリウス。本当に同盟国と魔石の取引きをするの? お金のこともそうだけど。あんな品質が高い魔石を同盟国に渡したら、戦力増強に繋がるわよね」


「ジェシカ、その通りなんだけど。その辺は上手くやるつもりだよ」


 魔石を持っているのは、こっちだからな。価格や流通量をコントロールすれば、ある程度制限を掛けられるし。

 勇者を中心とする同盟を分断することが目的だから。奴らが疑心暗鬼になるのを利用して、実際には魔石を流さないのもありだ。


「ア、アリウス君には考えがあるんだよね。アリウス君は優しいから。誰も死なせないで、戦いを終わらせようとしているんでしょう?」


 ノエルが信頼に満ちた目で俺を見る。おい、そこまでハードルを上げるなよ。


「俺はできるだけ犠牲は少なくしようと思っているけど。誰も死なせないとまでは考えていないよ。戦いを始めた奴らは、責任を取る必要があるし。迎合した奴らも自業自得だからな」


「とりあえず、交渉は上手く行ったみたいだが。本番はこれからだな」


「そうね。本当に戦いを終わらせるなら、これからどう立ち回るかが重要ね」


 グレイとセレナの言葉に頷く。

 勇者を中心とした同盟を分断して、魔族の領域への侵攻を諦めさせる。

 やることは沢山あるけど。まあ、そこまで急ぐ必要はない。


 魔石の取引きをする国はこっちで選ぶと伝えたからな。

 今は同盟国の奴らをじらして、疑心暗鬼にさせるのが正解だろう。

 奴らの動向はアリサが探っているし。俺自身の情報網もフルに使うつもりだ。


「なあ、エリス」


「ええ。同盟国の動きを探るように、エリクに頼めば良いんでしょう。あの子の情報網なら、アリウスの役に立つ情報が掴めると思うわよ」


 以心伝心と言うか。エリスは俺の考えていることが解っているみたいだな。


 諜報活動に関しては、アリサやエリクの方が俺より何枚も上手だし。頼れるところは頼って構わないだろう。


 ということで、しばらく時間ができたからな。ダンジョンを攻略するか。


※ ※ ※ ※


 6番目の最難関ダンジョン『修羅の世界』。

 戦うためにだけに生まれたような『修羅』と呼ばれる半神級の魔物モンスターたちが巣食う場所だ。


 これまでの最難関ダンジョンと違うのは、同じ階層でも複数の種類の『修羅』が出現すること。

 まあ、種類が違っても。全部5番目の最難関ダンジョン『精霊界の門』の最下層の魔物より強いんだけどな。


 グレイとセレナが『修羅の世界』を攻略済みだったから。同盟国が動くのを待っていた1ヶ月の間に、3人で1週間掛けて攻略自体は終わっている。


 そこからは俺はソロで攻略を始めて。グレイとセレナの2人は、7番目の最難関ダンジョンの攻略を始めている。


 いや、時間があるなら。ダンジョンを攻略するに決まっているだろう。


 結局のところ。俺はどこまで行っても戦闘狂だ。延々と戦い続けて、強くなることが目的なのは変わらない。


 だけど開き直ったと言うか。自分がそういう奴だと明確に意識したことで。強くなることで得た力を何に使うか。俺は何をしたいのかって、考えるようになった。


 俺は勇者アベルが始めた戦いを終わらせようとしているけど。今の自分にできること、やりたいことしているだけだ。


 この世界に俺はアリウスとして転生したけど。転生した理由が解っている訳じゃないし。そもそもこの世界とはとか、ダンジョンとは何かとか。解っていないことばかりだ。


 まあ、そんなことを言ったら。転生する前の世界のことだって、俺は理解していた訳じゃないし。

 世界がどうとか、そんなことを考えるよりも。俺は今できることを、やりたいことをやろうと思う。


 俺はアリウスとして転生した世界で。どこまで強くなれるか知りたいし。どこまでも強くなりたい。

 そしてその力を自分がやりたいことと。みんなのために使いたいんだよ。


 まあ、そんな訳で。今もダンジョンを攻略することが、俺の生活の中心だけど。

俺だって四六時中ダンジョンを攻略している訳じゃない。


※ ※ ※ ※


 ダンジョン攻略の合間に。俺は再び学院に顔を出すようになった。

 授業は相変わらずほとんどサボっているけど。学院に来れば、みんなに会えるからな。

 みんなそれぞれ忙しいから、必ず学院にいる訳じゃないけど。


「ねえ、アリウス様よ!」


 7か月以上も学院に来なかったのに、俺のことを憶えている生徒は結構いる。まあ、王国宰相の息子のアリウスは元々有名人だし。学院でも結構やらかしたからな。

 前と変わらない女子たちの熱い視線と、男子たちの嫉妬の視線がウザい。


 だけど前と変わったこともある。見覚えのない生徒が増えたことだ。


「あれって、もしかしてアリウス先輩じゃない?」


「嘘!  私、初めて見たわ!」


 少し幼い顔の生徒たち。もう4月後半だから、俺たちは2年生になって。新入生が入学したんだから、俺の知らない生徒がいるのも当然だろう。


「おはよう、アリウス。約束を守って来てくれたのね」


 教室に入ると。ミリアが笑顔で迎えてくれる。2年生のクラス替えで、俺とミリアは同じクラスになった。

 まあ、ミリアと同じクラスになるのはゲームと同じだけど。


「アリウス、早速で悪いんだけど。色々と君に話すことがあるんだ。僕のサロンに一緒に来てくれないかな」


 ゲームだとエリクは、2年生では別のクラスになる筈だ。だけど同じクラスってことは、エリクの作為を感じるな。


 エリクと一緒に、教室を出て行こうとすると。


「何よ、アリウス。たまに登校したのに、授業をサボるつもり? エリク殿下もそんなことをしたら、他の生徒に示しがつきませんよ」


 ミリアが文句を言う。


「別に授業を受けに来た訳じゃないからな。俺はみんなに会いに来たんだよ」


「僕もミリアの忠告には感謝するけど。アリウスと直接話ができる貴重な時間だからね。他のことに構うつもりはないよ」


「もう、2人とも……ねえ、アリウス。お昼ごはんは一緒に食べられるわよね?」


「少なくとも昼休みまでは、学院にいるつもりだよ」


「だったらノエルと一緒にお弁当を作ってきたから。アリウス、昼休みに学食で待っているからね」


「ああ、解ったよ。ミリア、弁当楽しみにしているよ」


 そんな俺たちのやり取りを、クラスの女子が羨ましそうに。男子が妬ましそうに見ているけど。

 良く知らないクラスメイトの反応なんて、俺はどうでも良いからな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 16歳

レベル:6,061

HP:63,829

MP:97,528

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