第128話:勇者の実力
「『
「『
エルフのドルイドのフォンとアリサが、立て続けに支援魔法を放つと。勇者アベルは、ゆっくりと俺の方に近づいて来た。
「初めから、こうするべきだったな――『
『真の』とか言っているけど。只アベルが自分で『勇者の心』を発動しただけだ。だけどスキルレベルが高いから、アベルの魔力とステータスが倍以上に跳ね上がる。
アダマンタイト製の鎧に、光を放つ聖剣も。如何にも勇者って感じで。神の啓示によって覚醒したアベルは、確かに強くなった。
「貴様が強いことは解ったが、相手が悪かったな。勇者の私にとって魔族など、蹂躙する対象に過ぎない!」
アベルが全身から放つ魔力が視覚化されて、炎が噴き出すように見える。
今のアベルの力は、シュタインヘルトにも迫るだろう。まあ、あくまでも魔力とステータスだけの話だけど。
「魔族の戦士。勇者に殺されることを誇りに思え!」
聖剣が放つ魔力の奔流。アベルは音速を超える速度で一撃を放つ。
確かに速いし、威力もあるけど――
俺は黒い光を纏う剣で、聖剣を叩き折った。
「ば、馬鹿な……せ、聖剣が折れただと……」
まあ、聖剣って言っても。所詮はマジックアイテムだからな。強度を超える力をぶつければ、普通に壊れる。
だけど、このクラスのマジックアイテムは自己修復能力があるから。折れただけなら勝手に再生する。
だから俺は呆然としているアベルの目の前で、聖剣に向けて本気の一撃を放った。俺の魔力が聖剣を粉砕して、消滅させる。
「……はあ?」
何が起きたのか、まだアベルは理解できないみたいだけど。勿論、これくらいで終わらせるつもりはない。
正義を騙ったアベルは、利益のために戦争を起こして。普通に暮らしていただけの魔族の村を壊滅させたんだからな。
「グボッ……」
俺が力任せに殴りつけると。拳がアダマンタイトの鎧を貫通して、アベルの腹に突き刺さる。
「魔族は蹂躙するだけの対象とか。随分と好き勝手なことを言ってくれたな」
次は顔面を殴って、地面に叩きつける。
「ウゲェ……」
骨が砕けた感触。まあ、アベルは勇者だからな。これくらいじゃ死なないだろう。
「ア、アベル様……『
ドルイドのフォンが魔法でアベルを回復させる。だけどこれも想定のうちだ。
「貴様……よくも……」
回復したアベルが立ち上がるのを待ってから、下から突き上げるように拳を叩きこむ。
今度の一撃でアベルは上空に吹き飛んだ。
だけどアベルも
俺は一気に上昇してアベルを追い抜くと。今度は上から地面に叩き落とした。
轟音とともに大穴ができて、アベルが地面深くめり込む。
「アベル様!」
フォンが駆け寄ろうとするけど。俺が立ち塞がるように着地したので二の足を踏む。
他の勇者パーティーの連中はというと。ドワーフのタンク、バスターはここまで全く動けずにいて。グラスランナーの斥候リンダは、俺を警戒して様子を窺っている。
「回復魔法なら好きに使え。その度に勇者を壊すだけの話だ」
とりあえず、今のところはアベルを殺すつもりはない。アベルを殺せば終わりなんて、単純な話じゃないし。できればこいつには、この戦いを終わらせるために役に立って貰おうと思う。だから精神をへし折って、解らせてやる必要がある。
みんなには見せたくない胸糞の悪い光景だけど。だからこそ、俺はみんなが来ることを止めなかった。
俺はこの戦いを終わらせるために、やれることは全部やるつもりだ。納得した上なら、自分の手を汚しても構わない。それをみんなに隠すつもりはないんだよ。
白目を剥いているアベルに。俺は
これはカーネルの街でクリスに使った手枷と足枷の上位互換のマジックアイテムだ。
魔力を完全に封じて、魔法とスキルを使えなくするのは同じだけど。嵌めた者の許可がないと、外すことができない。
俺が『完全治癒』を使うと。意識を取り戻したアベルは、怯えた目で俺を見る。
「おまえを殺さない代わりに力を奪った。この首輪は絶対に外すな。そしておまえが欲望のために愚かな戦争を始めたことを懺悔して、罪を償うためにこの戦争を終わらせろ」
アベルが素直に従うなんて、そこまで期待していない。従わなければ、別の手段に出るだけだの話だ。
俺はアベルたちを残して、奴らが占拠している城へ向かう。もう1つ、やることがあるからだ。
アベルの魔力を封じたことで、『
城に辿り着くと。俺は2本の剣に魔力を注ぎ込んで、城の破壊を始めた。城壁も城の建物も全部、粉々に破壊していく。
この城が拠点になって、魔族の領域への侵略の足掛かりになるから。破壊してしまえば、少なくともしばらくは足止めになるだろう。
破壊の限りを尽くす俺の姿に、勇者パーティーの奴らは唖然とするけど。俺の意図を理解しているアリサだけは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 16歳
レベル:5,632
HP:59,305
MP:90,604
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