第127話:勇者パーティー
勇者アベルのスキル『
5,000人の狂戦士の群れ。『変化の指輪』で魔族の姿になった俺は、狂戦士たちを弾き飛ばしながら、重戦車のように突き進む。
ちなみに今の俺の装備は、
骸骨を象ったグロステスクなフルプレートは、3番目の
「おまえらは、しばらく大人しくしていろ。文句がある奴は俺が相手になるぜ」
『
俺1人だったら
「てめえ……ふざけた真似をしやがって!」
狂戦士を薙ぎ倒しながら突き進んで行くと。俺の前に立ち塞がったのは、派手な金色のフルプレートの蒼い髪の男だ。
勇者パーティーのクリス・ブラッド。まあ、こいつは懲りない奴だからな。
「俺たちが相手にするのは魔王だけだ。てめえみたいな雑魚に用はねえんだよ――『
クリスの全身から噴き出す魔力の光。魔力とステータスが一気に跳ね上がる。
去年の5月に戦ったときよりも、クリスの『勇者の心』のスキルレベルが上がっている。クリス自身のレベルも上がっているし。明らかに強くなっているな。
「雑魚の魔族なんざ、一撃でぶっ殺してやるぜ!」
クリスは魔剣ウロボロスを引き抜いて、一気に加速する。俺との間合いを一瞬で詰めると、空気を押し潰すような豪快な一撃を叩き込んで来た。
俺は左の剣でクリスの攻撃を受け止めると、そのまま強引にクリスの身体ごと弾き飛ばす。
「な、なんだと……」
クリスが唖然としているのは、ウロボロスにヒビが入ったからだ。だけどこれくらいで驚くなよ。
今度は俺が加速して、弾き飛ばしたクリスに迫る。黒い光を纏う右の剣を叩き込むと。爆発するような魔力の波動が、ウロボロスと金色のフルプレートを粉砕する。
血塗れになったクリスは、白目を剥いて崩れ落ちた。
「勇者パーティーの実力など、こんなモノか?」
自分で言っておいてなんだけど。ホント、恥ずかしい台詞だよな。
敵をいたぶる趣味はないけど。今回は力を見せつけることも目的の1つだからな。まあ、クリスくらいの相手なら、殺さない程度に痛めつけるのは難しくないけど。
「クリスは未熟者だが……ここまで簡単に仕留めるとはな。俺も本気になるしかあるまい」
次に立ち塞がったのは、黒髪に眼鏡の男だ。勇者パーティーの刀使いリョウ・キサラギ。
『鑑定』したらレベルとステータス、スキル構成もクリスよりも格上だ。こいつとは戦う理由はないから、邪魔をしないなら放置するつもりだったけど。そういう訳にもいかないみたいだな。
「我が名はリョウ・キサラギ――参る!」
リョウも『勇者の心』を発動するけど、狂戦士と化すことはなかった。こいつは『勇者の心』のスキルを、ある程度コントロールしているな。
攻撃衝動をコントロールして、力だけを上手く引き出している。でも完璧じゃないから、いつまで持つか解らないけど。
スパークするように刀身に集中する魔力の光。リョウは物凄いスピードで、そいつを叩き込んで来た。
だけど俺にとっては驚くほどの速度じゃない。威力と技術もクリスよりは上だけど。
だから攻撃を躱すのは簡単だけど。力を見せつけるために、誰が見ても解りやすい方法を選ぶ。俺はリョウの刀を受け止めると、再び魔力の波動を放つ。
戦闘技術なんて関係ない。ただ魔力を叩きつけただけだ。だけど膨大な魔力は波動になってリョウの刀を消滅させると同時に、奴の身体を彼方まで吹き飛ばした。
勇者パーティーの2人を瞬殺しても、『勇者の軍勢』で狂戦士と化した兵士たちが怯むことはなかった。俺は群がる兵士たちを引き摺りながら、イシュトバル王国軍を中央突破して。アベルたちが待ち構える本陣に迫る。
「アベル様……ここは俺が!」
巨大なタワーシールドと戦斧を構える勇者パーティーのタンク。ドワーフのバスター・ハウンドが、アベルたちを庇うように前に出る。
バスターの実力はリョウと同格だけど。クリスとリョウを倒した俺を止められる自信がないのか、青い顔をしている。
「魔族の戦士、止まりなさい!」
突然、俺の足元の地面が隆起して。無数の太い根と蔦が出現する。
魔力が具現化した植物は、鞭のようにしなやかなのに。鋼鉄のワイヤー以上の強度で。俺の全身に絡みつくと、巨人のような力で締め付ける。
複合属性第10界層魔法『
ちなみにドルイドとは自然を崇拝するエルフの司祭のことで。回復魔法の他に特殊な魔法を使いこなす。
「嘘……なんで、止まらないの……」
俺は全身に絡みつく根と蔦を、力だけで強引に引き千切る。『冥王の闘技場』産のグロテスクなフルプレートも、これくらいじゃ傷つかない。
引き千切る度に新たな根と蔦が絡まるけど。俺を止められる強度も威力もないからな、完全に無視して突き進む。
「『
立て続けに魔法を発動しながら、フォンの顔が絶望の色に染まる。だけどそれが
『棘の王』が出現させた根と蔦に隠れて。背後から放たれた1撃。俺は黒い光を纏う剣で、そいつを弾き飛ばす。
「どうして……あんたは、あたしの存在に気づいたんだよ?」
地面に叩きつけられて。オレンジ色の髪のグラスランナーが俺を睨む。勇者パーティーの斥候リンダ・ロッシュだ。
リンダの短剣は破壊したけど。意識を失うほどのダメージじゃない。相手は女子だから、加減したんだよ。
「単純におまえのレベルが低いからだ。その程度のレベルで、魔王アラニス陛下に挑むなど笑わせる」
いや、だからこんな恥ずかしい台詞は言いたくないけど。まあ、こいつらがアラニスに勝てないことは事実だからな。
このとき突然。空と地を貫く雷光が落ちて、膨大な電流が俺を貫く。第10界層魔法『
だけどこれくらいの威力の魔法なら、今の俺には効かない。
「嘘や……うちの魔法が効かないなんて!」
無傷の俺に狼狽えるアリサ――勿論、芝居だけど。
『棘の王』が出現させた根と蔦のせいで、狂戦士と化した兵士たちは俺から引き離されている。だからイシュトバル王国軍にもアリサの『天空の雷』の被害は出ていない。
勿論、偶然じゃなくて。被害が出ないタイミングを計って、アリサが魔法を放ったからだ。
「アリサ、もっと強力な魔法を使え! おまえの魔法なら、奴を止められるだろう!」
追い詰められた形のアベルが捲し立てるけど。アリサはどこ吹く風だ。
「アベル様、そんなこと言うてもな。これ以上の威力の魔法は、味方まで巻き込むから下手に使えまへんのや」
「アリサ、何を言っている! 犠牲など無視して一番強力な魔法を使え!」
身も蓋もないアベルの台詞。アリサがニヤリと笑う。ここは本陣で後方部隊もいるから。『勇者の軍勢』の影響を受けていない奴にも聞こえている。
「アベル様。そんなことして、本当にええんですか? 今回は傭兵と冒険者もおるからな。さすがに同士討ちまでしたら、アベル様の悪評が立つと思いますで」
イシュトバル王国は、元々は決して大国じゃない。アベルが勇者に覚醒したことで、急速に力をつけた国だ。勇者の評判が落ちれば、同盟国への影響力は弱まる。
「悪評など勇者の名声あれば、いくらでも揉み消せるだろう!」
だけどアベルは勇者の力を過信しているようで。強引に話を進めようとするけど。
「アベル様、そんな簡単な話やないですわ。うちを疑うなら、国王陛下や臣下たちの意見も聞いた方がええですよ」
狡猾なアリサは、今の状況も想定済みで。アベルが意見を求めても、臣下たちがアリサに同意するように根回ししている。
結局のところ。アベルが何と言おうと、アリサが真面に魔法を使うことはない。イシュトバル王国軍の犠牲者もできるだけ出さないように、俺が事前に指示したからだ。
「チッ……ならば、俺が戦う! おまえたちは支援魔法で援護しろ!」
痺れを切らしたアベルは、そう言い放つと。俺の方に向かって来た。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 16歳
レベル:5,632
HP:59,305
MP:90,604
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