第124話:本気
魔族は外見的には、耳が少し尖っているだけで。それ以外は人間とほとんど変わらない。
だけど平均寿命は300歳くらいで。魔力を感知できる者なら、人間と比べて明らかに魔力が大きいことが解る。あくまでも平均の話だけどな。
アラニスの側近の1人、トリストルとシュタインヘルトと戦うことになって。俺たちはアラニスの城の屋上に移動した。
屋上にやって来たのは俺たちとアラニス。そして広間にいた10人の側近たちと、彼らの部下らしい魔族が50人ほど。ちなみに部下たちも全員500レベルを超えている。
「トリストルとか言ったな。おまえの相手は俺がしてやるよ」
トリストルの前に立つのはグレイ。
俺が2人纏めて相手をしても構わないけど。別に力を見せつけたい訳じゃないから。トリストルの相手は、グレイに任せることにした。
トリストルは細身の体型に似合わない大剣使いだ。刀身が分厚くて幅広の鋼の板のような巨大な剣を、地面と水平に構える。
レベルは1,000を余裕で超えているし。ステータスとスキルを近接戦闘重視で伸ばしているから。レベルだけ1,000レベル台の勇者アベルよりも明らかに強い。
対するグレイは
俺のように長剣を2本使うんじゃなくて。普通は両手で持つ大剣を左右の手に1本ずつ構える。
トリストルの剣ほど巨大じゃないけど。グレイの大剣も身長ほどの長さがある。
グレイは防具も拘っていて。動き易さと防御力を兼ね合わせるために、パーツごとに違うマジックアイテムを組み合わせている。
左右も非対称で、統一感はないけど。グレイの戦闘スタイルに合わせているんだよ。
「アラニス陛下。少々お戯れが過ぎますぞ」
アラニスの隣にいるのは、白髪の老人。顔は皺だらけだけど、眼光が鋭くて。鋼のように鍛え上げた身体は、完全に現役だな。レベルも側近たちの中で1番高い。
「シュメルザ。皆退屈しているみたいだし、たまには良いじゃないか。それよりもトリストルじゃ、力不足だからね。君が代わった方が良いんじゃないか?」
「陛下、何を仰いますか。儂は己の分を弁えております。トリストルのように、馬鹿な真似をするつもりなどありませんぞ」
完全にトリストルに聞こえてるよな。
トリストルは憮然とするけど。シュメルザに睨まれて、慌てて目を反らす。2人の上下関係が解った気がするな。
「おい。よそ見をするなんて余裕だな」
トリストルの隙をグレイが見逃す筈もない。奴が気がついたときは、グレイの剣が喉元に突き付けられていた。
「き、貴様……」
「まあ、こんな勝ち方じゃ、おまえは納得しないだろう。キチンと正面から勝負してやるよ」
グレイはアッサリと剣を引くと。一瞬で元の位置に戻る。
トリストルが唖然としているのは、グレイの動きを目で追えなかったからだ。
「なあ、トリストル。今度は本気で行くからな」
グレイが全身に魔力を纏うと。膨大な魔力に空気が軋む。魔力の量が想定外だったのか、トリストルが慌てる。
「ちょ、ちょっと待って……」
蒼い顔をしたトリストルが言い終わらないうちに。グレイは一瞬で距離を詰めると。クッション代わりの魔力防護壁で包んだ大剣を横に一閃する。
屋上から吹き飛ばされたトリストルは、結構な距離を飛んでから地面に落ちて。そのままの勢いで大地を削ってから、ようやく止まる。
装備はボロボロで、手足が変な方向に曲がっているけど。魔力の反応から、まだ生きているのは解る。
まあ、トリストルも1,000レベル超えだしな。これくらいじゃ死なないだろう。
「ねえ、私の相手をしてくれる人はいないのかしら? 魔王アラニスに勝てるとは思わないけど。私もそれなりにやれる自信はあるわよ」
セレナが獰猛な笑みを浮かべる。完全に戦闘狂モードだな。
「貴殿はセレナ殿でしたな。儂では力不足だとは思うが、貴殿の相手をするのはやぶさかではない」
応えたのはシュメルザで。鋭い眼光をセレナに向ける。貴女ではなくて貴殿と言っているのは、セレナを対等な相手と認めたからだろう。
「だが無意味な戦いをするほど、儂は若くないからな。それでも貴殿がどうしてもと言うなら、受けて立ちますぞ?」
セレナはシュメルザと睨み合うと。突然、噴き出すように笑う。
「いいえ、シュメルザさん。そんなことをしなくて良いわよ。ほんの軽い冗談だから」
「そうですな。お互い冗談で済ませた方が、賢明ですな」
セレナとシュメルザは強者同士として、相手の実力を理解しているんだろう。
セレナは戦闘狂だけど、やたらと喧嘩を売るような性格じゃない。だから初めから戦うつもりはなくて。シュメルザたちの反応を見たかったんだろう。
「それじゃ、シュタインヘルト。次は俺たちの番だな」
「アリウス、何度も言わせるな。シュタインヘルト
王都で会ったとき。シュタインヘルトは俺のことを子供扱いしたから。年下と言っているのは、少しは俺のことを認めたってことか? 全然嬉しくないけど。
「シュタインヘルト
俺が言うのもなんだけど。9ヶ月ほど前に戦ったときに比べて、シュタインヘルトのレベルは明らかに上がっている。
シュタインヘルトは、ダンジョンに延々と挑むような奴じゃないから。どうやって強くなったのかは解らないけど。今のシュタインヘルトは
「アリウス、おまえでも解るか。今の俺はロナウディアで戦ったときとは違う」
シュタインヘルトは不敵な笑みを浮かべて、
刃の部分だけで2m近くある長物の刀。シュタインヘルトの愛刀『
全身に纏う魔力量も、魔力操作の精度も、明らかに上がっている。
アラニスの側近トリストルが弱く見えるレベルだ。
9ヶ月前の俺が今のシュタインヘルトと戦ったら、それなりに苦戦したかも知れない。だけど。
「じゃあ、行くからな」
俺は魔力を放つことなく、一気に加速する。
必要な魔力は常に纏っているから。余計な魔力を放つ必要はない。
瞬間移動したように見えるだろうけど。普通に移動しただけだ。
シュタインヘルトが反応できない速度で、俺は2本の剣を一閃する。
狙いはシュタインヘルトの愛刀『神殺し』。ダメージを逃がさないように斬撃をヒットさせる瞬間。極限まで圧縮した魔力を叩きつける。
勿論、シュタインヘルトは『神殺し』に本気の魔力を込めている。だから俺の斬撃にも耐えられると、そう思っていたんだろう。
だけど結果的には。『神殺し』は俺の斬撃を受けて、完全に
「ば、馬鹿な……アリウス、おまえは何をした?」
「全力で魔力を叩きつけたんだよ。シュタインヘルトさんだって、手を抜かれるのは嫌だろう?」
武器を失ったくらいで、シュタインヘルトが諦めるとは思わないけど。俺の実力は解った筈だ。
「……俺の敗けだ」
意外過ぎる言葉。シュタインヘルトは俺を睨み付けているけど。攻撃を仕掛けて来る様子はない。
「シュタインヘルト、それで良いんだよ。敗れたことを認めれば、次に進めるからね。君はもっと強くなれるよ」
「ああ……」
アラニスの言葉に、シュタインヘルトが深く頷く。
なるほどね。アラニスの良い影響ってところか。
「他に文句がある奴はいないんだよな? だったら俺たちは、ガーディアルの魔族のフリをして勝手に戦わせて貰うけど。おまえたちに迷惑を掛けるつもりはないからな」
俺たちのせいで魔族と人間の戦いが激化したら、本末転倒だからな。その辺は上手くやるつもりだ。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 16歳
レベル:5,621
HP:59,186
MP:90,424
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