第125話:相談


 魔族の国ガーディアルを後にして。俺たちは、いったんロナウディア王国の王都に戻ることにした。

 勇者と魔王の動向を、みんなに伝えるためだ。


 魔族が反撃に出ることが解っているのに、勇者アベルが占拠した城に直ぐに向かわない理由は。魔族に動きがあれば、アリサから『伝言メッセージ』が来ることになっているからだ。


 みんなには俺の実家、ジルベルト家に再び集まって貰う。今回はジークとサーシャ、バーンも一緒だ。


 ジークが参加するのはエリクの意向で。勇者と魔王の動向はロナウディアの今後に関わるから。ジークにも情報を共有して、自分が何をすべきか考えさせたいらしい。

 サーシャはジークが参加するならと、一緒に付いてきた。


 バーンに関しては、あくまでも俺の友だちとして参加するけど。グランブレイド帝国に情報を流すかどうかは、バーン自身が判断して構わないと伝えてある。


 アリサとアラニスと話をする前に。みんなには『伝言』で話す内容を伝えていたけど。結果を踏まえて、もう一度説明する。


「情報収集だけする筈だったのに、勇者に敵対することになって。勝手に決めたことは、みんなに申し訳ないと思っているよ。

 だけど皆殺しにされた魔族の村を見て。利益のために一方的に戦いを仕掛けて、魔族だから殺しても良いと考えている奴らが、許せないと思ったんだよ」


 ロナウディア王国のことを考えれば、感情で動くことは得策じゃないのは解っている。

 だけど普通に暮らしているだけの魔族たちが殺されるのを、黙って見過ごすつもりはない。


「みんなに迷惑を掛けるつもりはない。グレイとセレナには手伝って貰うことになったけど。これはあくまでも俺個人がやることで。魔王アラニスに頼んで、魔族のフリをして戦うことにしたから。俺のたちの正体がバレることもないと思うよ」


 戦うときは全身鎧を着て顔を隠すし。念のためにマジックアイテムで魔族の姿になるから、問題ないだろう。


「ここまで用意周到なら、僕としては何も言うことはないよ。そもそも僕はアリウスが決めたことに、口出しするつもりはないけどね」


 エリクはロナウディア王国のことを第一に考えているけど。俺のことを信頼してくれているのも本当だろう。


「ねえ、アリウス。勇者と戦うときだけど。私も一緒に行かせて貰えないかしら。勿論この前みたいに身分を隠して、冒険者のフリをするわよ」


 エリスは優しい笑みを浮かべているけど。目は真剣だ。


「私はロナウディアの王女としての責任を放棄するつもりはないけど。アリウスのことが大切だから。貴方なら大丈夫なことは解っているけど。勇者と戦うなら、貴方の傍にいたいのよ」


「ああ。エリス、解ったよ」


 『絶対防壁アブソリュートシールド』を展開すれば安全面は問題ないし。エリスならそう言うと思っていたからな。


「アリウス。私も一緒に行かせて貰えませんか」


 次に声を上げたのはソフィアだ。


「この前は、私たちは自分できることをやると言いましたけど。勇者と戦うなら、状況が違います。私だってアリウスのことが心配なんです」


 去年の夏から暫くみんなに会わなくなって。その間に一番変わったのはソフィアだ。

 エリクとの婚約を解消したことで。自由になったソフィアは、自分の考えと想いに素直に従って行動している。


「そういうことなら私も。アリウス、構わないわよね」


「わ、私も……アリウス君に迷惑を掛けると思うし。わがままなのは解っているけど……一緒に行きたいよ」


 ミリアとノエルが続いて。


「アリウスやグレイさん、セレナさんに比べたら、私なんてまだまだだけど。相手がイシュトバル王国軍なら、十分役に立てると思うわよ」


 私を置いていくつもりはないでしょうねと、ジェシカが笑う。

 確かにS級冒険者のジェシカなら、十分戦力になるだろう。


「なあ、親友。俺の場合はみんなと理由が違うが。一緒に行かせてくれよ。アリウスの話から、大体のことは解ったが。俺も勇者パーティーの奴らを見極めたいんだよ」


 まあ、ここまで来たら断る理由もないからな。

 結局。エリク、ジーク、サーシャの3人以外は俺たちに同行することになった。


「一応、自分の身くらい守れる自信はあるが。まあ、過信するつもりはないぜ」


 バーンは護衛のガトウとジャンに鍛えて貰っているのもあって。レベルはすでに50を超えている。B級冒険者相当の実力だな。


 他のみんなも同じように、去年の夏と比べたら確実に強くなっている。一番レベルが低いノエルも25レベルだから。ギリギリだけどC級冒険者相当だな。

 今のみんななら、数の問題を別にすれば。イシュトバル王国の兵士と対峙しても、そうそう遅れを取ることはないだろう。


 アリサから魔族の反撃が始まるという『伝言』が来たら、直ぐに動けるように。同行するメンバーには、ジルベルト家に泊まって貰うことにした。


 みんなで夕飯を食べながら話をする。

 初めは勇者パーティーとイシュトバル王国軍の話だったけど。途中から雑談になって。

 アリシアとシリウスは女子たちに構われ過ぎて。ちょっと辟易していたな。


「アリウスの家に泊まるなんて。不思議な気分ですね」


 風呂に入ってから、飲み物を飲みに居間に行くと。先客にソフィアがいて、ソファーに座ってお茶を飲んでいた。


 ちなみにみんなの護衛にも一緒に泊まって貰っている。

 ジルベルト家は護衛だからと差を付けることはしないから。夕飯も一緒に食べるように誘ったけど。話の邪魔をしたくないと遠慮された。


「俺もソフィアがうちにいるなんて、不思議な感じだよ」


 去年の夏。俺は強くなることに集中したいと言って、みんなの想いを断った。

 それからは、ほとんどの時間をダンジョンで過ごして。みんなとは疎遠になるかと思ったけど、そんなことはなかった。


 みんなと離れていた時間で。俺は自分を見つめ直すことができた。

 結局のところ、俺は戦闘狂で。ギリギリの戦いに勝ち残って、強くなること。それ自体が目的だけど。

 強くなった後に何をするのか。俺は何がしたいのか。


 前世の俺は自分のことに夢中で。他人に興味がなかった。

 誘われたら付き合うし。トラブルになれば解決するけど。相手の事情に踏み込もうとは思わなかった。


 だけどこの世界に転生して。みんなと出会って。みんなの想いを知って。もっとみんなに関わりたいと思うようになった。


 俺は本気で人を好きになったことがないから。人を好きになるという感覚が解らない。

 だけどみんなは良い奴だから、困っていたら助けたいし。守りたいと思う。


 俺はみんなの想いに応えることはできないけど。みんなのためにやれることは、やりたいんだよ。開き直っていると言われたら、その通りだけど。


 そしてこの世界に存在する『魔族だから殺しても良い』という理不尽に対しても。俺は許せないと思うから。理不尽をぶち壊すために、やれることをやりたいと思う。


「私が一緒に行くなんて言って。アリウスは迷惑でしたよね。勇者との戦いで、私は何の役にも立ちませんから」


 ソフィアが申し訳なさそうに言う。


「ですが貴方に迷惑だと思われても。もう何もしないで、待っているのは嫌なんです」


 只のわがままかも知れないけど。それでも引き下がらない。

 ソフィアの瞳には、そんな想いが込められいた。


「迷惑だなんて思ってない。ソフィアが心配してくれて、素直に嬉しいよ。ああ、誤解がないように言っておくけど。あくまでも、友だちとしてな」


「それくらい、私も解っていますよ。でも……アリウス、ありがとう。傍にいさせてくれて」


 感謝されるようなことじゃない。俺もみんなと一緒にいたいからな。


「そろそろ、入っても構わないかしら? 2人の邪魔をするつもりはないけど。他にも・・・待っている人がいるから」


 悪戯っぽく笑って、現れたのはエリス。まあ、エリスたちがいることには、気づいていたけど。


 ソフィアの顔が真っ赤になる。


「エリス殿下、いつから……それに、他の人って……」


「言っておくけど、盗み聞きをするつもりはなかったからね。ソフィアが抜けがけするから、出ていくタイミングがなかったのよ」


「そうだよ。ソフィア、抜けがけするなんてズルいよ」


 ちょっと拗ねた顔のミリアと。困った顔のノエルが入って来る。


「私は抜けがけなんて……」


「ソフィア、そんなに慌てなくても。みんなも気持ちは同じだから」


 エリスは揶揄からかうような笑みを浮かべると。


「ねえ、アリウス。夜は長いんだから。みんなでゆっくり話をしましょう」


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 16歳

レベル:5,626

HP:59,240

MP:90,506

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る