第117話:具体的には


 強くなるという自分がやりたいことをした結果、自分の大切なモノを守る力を得られる。

 だから戦闘狂であることを含めて、俺は自分の生き方を胸を張って肯定する。


「アリウス。おまえも言うようになったって言うか……本当に強く・・・・・なったな。さすがは俺たちの弟子だぜ」


「そうね。だけどそんなこと・・・・・を言われたら、女の子は堪らないんじゃないの?」


 セレナがニマニマしている理由は解っている。エリス、ソフィア、ミリア、ノエル、ジェシカの5人が、頬を染めて俺を見つめているからだ。


「みんな、勘違いするなよ。俺にとって大切なのモノは、おまえたちだけじゃなくて……」


「そんなことは解ってるわよ。でも私たちのことも、世界中を敵に回しても守ってくれるんでしょう?」


 ミリアが迫って来る。いや、人に言われると恥ずかしい台詞だな。


「まあ、そうだけど」


 だけど否定するつもりはない。みんなのことが本当に大切だからな。


「アリウスお兄ちゃん……カッコイイ……」


「アリウス兄さん……やっぱり僕も、アリウス兄さんみたいになりたいよ」


 アリシアとシリウスが円らな瞳を輝かせる。本気マジで恥ずかしいな。


「まあ、話は変わるけど。もっと具体的な話をすると、勇者と魔王の戦いに関わるかは別にして。俺は勇者が侵攻した魔族の領域に行ってこようと思うんだ」


 話を逸らして誤魔化すつもりなのと、セレナはニマニマしているけど。

 他のみんなは、俺の言葉に注目する。


「俺は勇者パーティーに知り合いがいるからな。まあ、知り合いというか、腐れ縁みたいなものだけど。そいつから現状について話を聞くのと、実際に戦いの現場を見てみようと思うんだ」


 知り合いというのは、アリサのことだ。


「ア、アリウス君。危なくないの……」


 ノエルが心配そうな顔をするけど。


「まあ、アリウスだからな。心配する必要なんてねえだろう。だが俺も勇者には興味があるからな。アリウスが行くなら、俺も一緒に行くぜ」


「そうね。私も勇者の顔を見てみたいから、一緒に行くわよ」


「グレイとセレナが来るのは構わないけど。俺は勇者本人に会うつもりはないからな。みんなには言ってなかったけど、俺は勇者に会ったことがあるんだよ」


 余計な心配をさせたくないことと。俺の主観で変な先入観を与えたくないことから、アベルに会ったことは黙っていたけど。話の流れから言うことにした。


「アベルには俺も1回しか会ったことがないから、余計なことを言うつもりはないけど。アベルと話しても埒が明かないし。会うことで余計な情報を与えない方が良いと思っている。まあ、グレイとセレナがアベルに会うつもりなら止めないけど」


 アベルが1,000レベル超えってことも。『勇者の心ブレイブハート』のスキルを与えられる能力も無視できない。だけど逆に言えばそれだけの話で。アベルに直接会う価値はないと思っている。


「アリウスがそう言うなら、とりあえず様子見だな。まあ、会わなくても観察・・することはできるからな」


「私は逆に会ってみたいけど。観察してから判断するわ」


 グレイとセレナなら『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』を使えば、アベルたちに気づかれずに観察することができる。


「アリウス。私も一緒に行きたいけど……今回は遠慮するわ。私には他にやることがあるから」


 そう言ったのはジェシカで。今は冒険者として強くなることが先決だと思っているんだろう。


「できたら、私は一緒に連れて行って貰えないかしら。自分の目で勇者を見てみたいのよ。自分の身は自分で守れるとは言えないけど。それなりに役に立つ自信はあるわ」


 エリスは決して興味本位という訳じゃなくて。ロナウディア王国のために、アベルという人間を見極めたいんだろう。


「ああ、エリス。構わないよ。エリスのことは俺が守るから」


 エリスがロナウディアの第1王女だとアベルに知られると面倒だけど。エリスを隠しながら行動するくらいは問題なくできるだろう。


「エリス殿下……いいえ、解っていますけど」


「そ、そうですよ。わ、私は別に、エリス殿下が抜け駆けしてズルいとか……」


 いや、ノエル。完全に言っているよな。


「ミリア、ノエル。私たちも自分ができることをしましょう。私はエリス殿下のことを信頼していますから」


 ソフィアがニッコリ笑う。だけど目が笑ってないんだけど。


「みんな、ごめんなさいね。役得なのは認めるけど。私は真面目に勇者アベルのことを見極めたいのよ」


 全部正直に言ってしまうところが、いかにもエリスらしいな。


「とりあえず、勇者のことはアリウスたちに任せるとして。今度は魔王の方だけど。まだ特に動きはないみいだね」


 勇者アベルが侵攻したのは、魔王アラニスが支配する魔族の国ガーディアルの

外で。魔族でも血の気の多い武闘派が支配する地域だから。アラニスは傍観を決め込んでいるけど。


「シュタインヘルトは、魔王のところにいるんだったな。あいつはロナウディアにも来たって話だけど」


「グレイ殿が言っているのは、SSS級冒険者のシュタインヘルト殿のことですよね。噂では聞いていますけど。魔王と手を組んだというのは本当なんですか?」


 グレイとエリクの話にみんなが注目する。


「まあ、シュタインヘルトは面倒臭い奴だが。正義感だけはあるからな。シュタインヘルトが魔王に付いたってことは、魔王の方が正しいと思っているんだろうな」


 グレイの言葉にセレナが頷く。2人の認識は俺と同じだ。


「魔王のことも調べておく必要があるけど。今回の戦いは勇者が一方的に仕掛けたモノだからな。みんなも魔王だから敵とか考えてないみたいだし。戦いを回避する方向で話をするべきかな」


「魔王のこともアリウスに任せて良いのかな? 僕としてはできれば魔王と直接会って話をしたいと思っているけど」


 エリクの台詞に驚いていないのは、グレイ、セレナ、ダリウス、レイアとエリスだけだ。

 みんなには俺が魔王アラニスに会ったことを話していないからな。


「そうだな。とりあえず、魔王とは俺が話してみるよ。魔王アラニスは話ができない相手じゃないからね」


 これじゃアラニスに会ったことがあると認めるようなものだけど。誰もツッコまなかった。

 グレイとセレナはアラニスに会う気満々て感じだ。

※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 16歳

レベル:5,616

HP:59,130

MP:90,342

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る