第116話:生き方


「SSS級冒険者のグレイ・シュタット殿にセレナ・オスタリカ殿ですね。僕はロナウディア王国第1王子のエリク・スタリオン。お2人にお会いできて光栄です」


 エリクたちが順番に挨拶する。

 グレイとセレナの話だと。ダリウスとレイアは勇者と魔王の話をするために、エリクたちを呼んだらしいけど。


 エリクは勇者と魔王についての情報を集めているし。エリスもドミニク皇太子との婚約を解消して自由になってから、ロナウディア王国のために動いているからな。勇者と魔王の話をするのに、この2人を呼ぶのは当然だろう。


 ソフィアについては、エリクとの婚約を解消した後。エリクは約束通りにビクトリノ公爵家を支援していて。王国の公共工事の一部をビクトリノ公爵に任せることで、公爵家は利益と王家との繋がりの2つを得ることになった。


 公共工事にソフィアが関わることが、エリクがビクトリノ公爵家を支援する際に出した条件で。ソフィアはエリクとビクトリノ公爵家の間に入る形で公共事業に携わっている。

 エリクは将来の王国を支える人材として、ソフィアを買っているからな。勇者と魔王の件にもソフィアを関わらせるってことだろう。


 だけどミリアとノエルについては、一般人で只の学生だからな。今回の件に関わる理由が解らないんだけど。


「ソフィアについては、アリウスが想像している通りだよ。僕はソフィアの能力に期待しているし、信頼しているからね。これから様々なことに関わって貰うつもりだよ」


 エリクが俺の考えを見透かしたように説明する。


ミリア・・・ノエル・・・も優秀な人材だからね。信頼できる人間ってことも、アリウスのおかげで良く解ったから。2人にも王国のために活躍して欲しいと思っているよ」


「アリウス。私とノエルは学院に通っている間、エリク殿下の下で働くことにしたの。まだインターンみたいなものだけどね。諜報部にも関わっているから、ダリウスさんとレイアさんにもお世話になっているわ。

 将来は王国の魔法省に入るか、冒険者になるかまだ決めてないけど。どっちの道に進むにしても、世の中の役に立ちたいと思っているわ。胸を張って、アリウスの隣に立てるようにね」


「ここは『世の中』じゃなくて、『王国』の役に立ちたいと行って欲しいところだけど。そういうところもミリアらしいよね」


「アリウス君。わ、私は……できれば将来魔法省に入りたいかな。私が得意なのは魔法くらいだけど。みんなに負けないように頑張るよ」


 エリクがミリアとノエルを呼び捨てにしているのは、そういう・・・・ことか。

 2人もしばらく会わないうちに、将来の目標を決めたってことだな。

 エリスとソフィアも自分の道を歩み始めたみたいだし。みんな頑張っているんだな。


「ミリアとノエルを連れてきた理由は、それだけじゃないわよ。アリウスに関わることで、2人を外す訳にはいかないから」


 エリスが悪戯っぽく笑う。


「勿論、エリクが言ったように2人は優秀な人材だけど。アリウスを想う強い気持ちが重要なのよ。ミリアとノエルアリウスを絶対に裏切らない。同じ想いを懐く者として、私はみんなのことを信頼しているわ」


「エ、エリス殿下。そんなにハッキリ……ま、間違ってないですけど……」


「そ、そうですよ……は、恥ずかしいよ……」


 ミリアとノエルが真っ赤になる。ソフィアはじっと俺を見て頷く。


「へー……そう言うことか。アリウスはモテるんだな。なあ、ジェシカ。おまえも、うかうかしてしられねえな」


 グレイがニヤリと笑ってジェシカを見る。


「グレイさん、解っているわよ。私だって負けるつもりはないわ」


 胸を張って堂々と宣言するジェシカ。グレイとセレナは納得するように笑みを浮かべた。


「とりあえず、夕食の準備ができたから。食事をしながら話をしましょう」


 今日はひさしぶりにグレイとセレナが来たこともあって。レイアが自分で料理を作っていた。

 話があるから配膳の方は侍女長のマイアさんに任せているけど。まずはみんなでジルベルト家の味を堪能してから本題に入る。


「勇者アベル率いるイシュトバル王国軍が2ヶ月ほど前に魔族の領域に侵攻した。表向きの理由は魔王の脅威から世界を救うことだが。勇者と勇者を支持する国々の本当の目的は、魔族の領域に眠っている豊富な資源を手に入れることだ」


 ダリウスがみんなに確認するように説明する。この前提条件を知らないと話について来れないと思うけど。みんなも状況を理解しているみたいだな。


「今回の戦いに関して、ロナウディア王国は中立の立場を取っているが。恥ずかしながら、ロナウディアの貴族の一部が水面下でイシュトバル王国に金を流していて。我々もその動きを完全に止められていない。反勇者の立場を表立って取れないことが原因だ」


 今回の戦いはイシュトバル王国軍が、一方的に魔族の領域に侵攻したんだけど。魔族との紛争は過去に何度も起きているし。世の中的に魔族イコール敵という認識だから、勇者の正義を表立って否定することは難しい。

 勇者と勇者を支持する国々もそれを当然解った上で、自分たちの正義を世界に対して宣伝している。


「グレイ、セレナ。ロナウディア王国のことは、勿論俺たちが何とかするが。単刀直入に訊くが、SSS級冒険者としてのおまえたちの考えと、スタンスを教えて欲しいんだ。もし今回の戦いにおまえたちが関わるなら、戦局そのものに大きな影響が出るからな」


 グレイとセレナの実力なら、2人の力だけで戦局を変えることができる。ちょっと大袈裟な気もするけど、ダリウスはそう考えているみたいだな。

 間違ってはいないと思うけど。俺は魔王アラニスの実力を知っているし。完全に肯定することはできない。


「俺は今のところ、魔王と勇者の戦いに関わるつもりはないぜ。魔王と勇者のどちらか・・・・が一方的な虐殺でも始めたら話は別だがな」


「そうね。魔族との紛争を経験しているダリウスたちには悪いけど。私は魔族だからって敵対するつもりはないし。利権目的の戦争に加担するつもりは無いわ」


 ダリウスは17年前の魔族との紛争で、ロナウディア王国の危機を救った英雄だ。だからセレナはダリウスに気を遣っているんだろう。


「いや、俺も魔族だから敵だなんて考えていないからな。17年前の紛争も利害関係が原因だし、すでに過去の話だ。むしろ俺はグレイとセレナなら、魔王側に付いても不思議じゃないと思っているし。仮にそう・・しても、否定するつもりはない。

 俺は王国宰相として、ロナウディアが戦いに巻き込まれるなら、相手がだろうと全力で戦うがな」


 結構な爆弾発言だけど。エリクとエリスも、止めるつもりはないみたいだな。

 グレイとセレナの性格なら、魔王が魔族を守るために戦うなら、魔王の味方をする可能性がある。そしてロナウディア王国が国として戦いに巻き込まれたら、魔王と敵対する可能性もゼロじゃない。


「まあ、ダリウスならそう言うと思ったぜ。おまえの覚悟は知っているからな。だがおまえだって解っているだろう。俺たち4人が敵対することなんてあり得ねえ。絶対にな」


「そうだな、グレイ。俺たちが戦う理由なんて無いからな。仮に敵対するような状況になったとしても。俺たちが他の奴らを黙らせて、状況を変えれば良いだけの話だ」


 セレナとレイアも頷いている。


 ダリウス、レイア、グレイ、セレナ。この4人の関係については、俺がどうこう言う話じゃないけど。4人が誰よりも信頼できることも、お互いを信頼していることも解っている。


「なあ。アリウスは、どうするつもりだよ?」


 グレイが俺に話を振る。


「アリウスが自分から勇者と魔王の戦いに関わるとは思わねえが。何か理由があって関わるとしたら。今のアリウスの実力なら、俺たち以上に影響力があるだろう」


「いや、俺の影響力とか。さすがに買い被り過ぎだろう。個人的な戦闘力ならそれなりに自信はあるけど。戦況を変えるほどの実力も経験もないからな」


 別に謙遜している訳じゃなくて、冷静な自己分析だ。戦争レベルで影響が出るほど、俺は実力も経験もある訳じゃない。


「だけど俺にとって大切なモノを守るためなら、勇者や魔王の理屈なんて関係ない。そこはグレイや父さんと考えていることは同じだよ。たとえ世界中を敵に回したとしても、俺は自分が大切なモノを守るよ」


 俺は自分が強くなることしか考えてない。ギリギリの戦いに勝ち続けることで、強くなる自分を実感できることが堪らなく楽しい。強くなること自体が俺の目的で、それを否定するつもりはない。

 だけど大切なモノを――みんなを守りたいと思うのは別の話だ。


「みんなを守りたいから強くなりたいだなんて、そんなことを言うつもりはない。

 俺の目的はあくまでも強くなることだ。だけどその力でみんなを守りたいと思うのも本当の気持ちだ」


 みんなが将来のことを考えて行動している中で、俺は強くなることだけを考えているけど。別に開き直っているんじゃなくて、俺は自分が間違っているとは思っていない。

 強くなるという自分がやりたいことをした結果、自分の大切なモノを守る力を得られるんだから。戦闘狂であることを含めて、俺は自分の生き方を胸を張って肯定するよ。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 16歳

レベル:5,616

HP:59,130

MP:90,342


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