第115話:予想外


「アリウスがパーティーを抜けてから。しばらくは、ゆっくりしてるつもりだったんだがよ。アリウスがソロで『太古の神々の砦』を攻略したって『伝言メッセージ』で聞いて……まあ、触発されたって言うかよ」


「あら。グレイは『まだアリウスなんかに負けてられねえ!』って散々息巻いていたじゃない」


「セレナ、余計なことを言うな。おまえだって『アリウスの癖に生意気じゃない』とか言ってたじゃねえか」


「私は別にアリウスに負けたくないとかじゃなくて。血が騒いだだけよ」


 グレイとセレナは2人で『太古の神々の砦』から再び攻略を始めて。6番目の最難関トップクラスダンジョン『修羅の世界』まで攻略したそうだ。


 攻略を始めたのは俺が『太古の神々の砦』をソロで攻略した直後からだけど。俺と違って2人だし。俺が学院に通っている間も、ずっと攻略していたから。俺を直ぐに追い抜いて。去年の10月半ばから『修羅の世界』を攻略を始めたらしい。


 結局、2人も戦闘狂ってことだな。さすがはグレイとセレナだ。嬉しくなるよ。


「初見の最難関ダンジョンを、2人で5ヶ月も掛けずに攻略したのか」


「正直に言えば、これもアリウスに触発されたからよ。ここまで集中してダンジョンを攻略したのは、私たちも初めてだわ」


「アリウスから『精霊界の門』をソロで攻略したって聞いたときは、さすがに焦ったがよ。まあ、それにしてもだ……アリウス。おまえがやったことの方が凄えからな。ソロで最難関ダンジョンを攻略するなんて。できるのは、おまえくらいだぜ」


「そんなことないだろう。グレイとセレナだって……」


「まあ、今なら『太古の神々の砦』くらいは何とかなるだろうが。そもそもソロで最難関ダンジョンに挑む奴なんて、アリウス以外にはいないぜ。一番重要な継続戦闘能力で、アリウスに勝てる奴なんていないからな。おまえのMP量は異常なんだよ」


 最難関ダンジョンを攻略するには、各階層に出現する1,000体以上の魔物モンスターを一気に倒すことが条件だ。

 魔物を倒せる力があっても。1,000体以上倒し続けるまで、MPが持たないと攻略できない。


 昔グレイに、俺のステータスはレベル平均の倍以上あるって言われたけど。俺は他の奴を良く『鑑定』していたから、俺のMPが異常に多いことは解っている。

 原因は『恋学コイガク』の攻略対象であるアリウスのスペックが元々高い上に。赤ん坊の頃から魔力を操作して鍛えたからだろう。


「なあ、アリウス。おまえから『修羅の世界』の攻略の件で相談を受けたけどよ。俺たちは攻略済みだから、一緒にパーティーを組んで攻略するのは簡単だが。おまえはもう、そういう・・・・ステージじゃねえだろう」


「そうね。アリウスなら『修羅の世界』もソロで攻略できるんじゃないの。勿論、初見でソロはきついでしょうから。最初の攻略には付き合うけど」


 ソロで『修羅の世界』の攻略か――物凄く楽しそうで、堪らないな。血が滾って来るよ。


「アリウス。なんか凄い顔しているわよ。ホント、楽しくて堪らないって感じね」


「そうだな。獲物を見つけた猛獣の顔だぜ」


 俺たち3人が獰猛な笑みを浮かべていると。


「あのねえ、貴方たち……シリウスとアリシアが怯えているんだけど」


「俺はグレイとセレナにアリウスを預けたことを後悔しているよ」


 レイアとダリウスが呆れている。確かにシリウスとアリシアは、俺たちを見て青ざめていた。


「ア、アリウスお兄ちゃん。そ、そんなこと、ないわよ……」


「そ、そうだよ。僕たちは、ア、アリウス兄さんが怖いととか……」


 9歳の妹と弟に気を遣わせるとか。兄として失格だな。


「アリシア、シリウス、ごめんな。父さんと母さんも、悪かったよ」


「そうね。ジェシカさんを待たせているし。ダンジョンの話はこれくらいにしなさい。夕食の時間にはまだ早いから、みんなでお茶とケーキでも食べて寛いでいてね。グレイとセレナはお酒でしょう。解っているわよ」


 ちなみにジェシカも俺たちの話に驚いていたけど。まるでジェシカの話を聞くシリウスとアリシアみたいに、憧れるような熱い視線を俺たちに向けていた。


 夕食までの間。俺はグレイとセレナと、この1年間のお互いの話をした。そうなると結局、半分はダンジョン攻略の話になるけど。シリウスとアリシアを怯えさせないように、戦闘狂モードにならないように気をつけた。


 あとは俺の学院生活とか。ヨルダン公爵との戦いとか、グランブレイド帝国での決闘の話とか。結局、学院に通わなくなったこととか。

 ジェシカはエリスやミリアから、帝国での一連のこと以外も大抵は聞いているみたいだし。シリウスとアリシアには、概要だけは話している。

 だけど俺の口から詳しいことを聞くのは、初めてのことが多いからか。3人は興味深そうに話を聞いていた。


 あとは勇者パーティーと魔王の話だけど。俺が勇者アベルや魔王アラニスに直接会ったことは、グレイとセレナには『伝言』で伝えたけど。他のみんなには、ダリウスとレイアにも話していない。


 理由は幾つかある。余計な心配を掛けたくないことと。俺の主観で話をして、先入観を与えたくないこと。

 あとは勇者パーティーのアリサたちのことは、みんなにも話しているし。アラニスのことは一応信用しているから。危機管理という意味でも、勇者と魔王のことは話さなくても問題ないと思っている。


 まあ、エリクは全部気づいていて。勇者と魔王の情報を流すように、俺と交渉して来た訳だし。ダリウスとレイアも、大よそのことは解っているだろう。

 だけど誰も勇者と魔王について直接訊いて来ないから。俺の判断に任せるってことだな。


「そう言えば、ダリウスとレイアから。今日は勇者と魔王のことについても話がしたいって『伝言』が来ていたな」


「そうね。他にも私たちに会わせたい人がいるみたいだけど」


 いや、俺はそんなことは何も聞いてないんだけど。ダリウスとレイアが、今日の件でグレイとセレナに『伝言』を送ったことすら初耳だ。

 俺が訝しんでいると、ドアがノックされる。ノックしたのは侍女長のマイアさんで。来客の到着を告げる。


「ダリウス宰相。今日は招いてくれて感謝するよ」


「ダリウス閣下、レイア夫人、久しぶりね」


「私までお招き頂きまして、ありがとうございます」


 来客はエリク、エリス、ソフィアと。


「ダリウスさん、レイアさん。お邪魔します」


「お、お邪魔します……」


 3人の後から、ミリアとノエルが入って来た。


 ミリアがダリウスとレイアを『さん付け』で呼んでいるけど。初対面じゃないってことなのか?


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 16歳

レベル:5,616

HP:59,130

MP:90,342

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る