第104話:決闘
「さすがに皇帝陛下の居城で決闘という訳にもいかないだろう」
ドミニク皇太子の言葉に従って移動する。
俺たちの方は護衛と一緒に。諜報部の連中も
ドミニク皇太子は部屋にいた12人の竜騎士を従えて。向かったのはソードマスター城から少し離れた場所にあるドミニク皇太子の別宅だ。
別宅と言っても帝国皇太子の屋敷だから。普通に城くらいのサイズがある。
「ドミニク殿下、お帰りなさいませ!」
真っ先に出迎えたのは20人ほどの女子。
金髪に赤毛に黒髪。スレンダーからグラマラスまで。様々なタイプがいるけど、共通しているのは全員美人だってことだ。
勿論、出迎えた女子だけが全部じゃないだろう。
ドミニク皇太子は女癖が悪いと言うか。明らかに女好きだな。うちの女子たちが呆れているんだけど。
ドミニク皇太子は出迎えた女子たちを完全に無視して。屋敷にいた臣下に何か囁くと、奥の方へと歩いていく。
俺たちが案内されたのは、豪華な調度品が並ぶ広い部屋だ。侍女がお茶とお菓子を用意する。
「皇太子の俺が決闘するのだからな。準備にそれなりの時間が掛かる。貴殿たちはここで暫く待っていてくれ」
ドミニク皇太子はそう言うと、竜騎士たちを引き連れて部屋を出て行く。
一応念のために、お茶と菓子に毒や薬が盛られていないか魔法で確認する。
とりあえず、問題ないな。エリクとレオンもさりげなく確認している。
「アリウス。君はドミニク殿下が何を考えていると思う?」
周りにはドミニク皇太子の侍女がいるけど。エリクは気にしてないみたいだな。つまり気にする必要がないってことか。
「確実に何か仕掛けて来るな。今、その準備の真っ最中だろう。自分の屋敷ならどうにでもなると、思っているんじゃないか」
「僕も同じ考えだよ。ここは完全な密室だから。何を仕掛けて来ても対処できるように、準備をしておいた方が良いね」
あからさま過ぎる話をする俺たちに、侍女たちが唖然としている。
だけど侍女に聞かれたところで、状況は変わらないからな。
「アリウス。少しだけ良いかしら」
振り向くと、エリスがいた。
「貴方を巻き込んだことに対して、今さら言い訳をするつもりはないわ。それに貴方なら大丈夫だって解っているけど」
エリスはじっと俺を見つめる。
「アリウス、これだけは約束して。もし貴方が危険だと思ったら、私のことは考えなくて良いから。無茶だけはしないで」
エリスは俺のことを信じてくれている。
だけど同時に心配しているんだろう。ドミニク皇太子がどういうなの奴か、エリスは良く知っているからな。
「ああ。エリス、約束するよ。無茶をしないでドミニク皇太子に勝つって」
戦う前に勝利宣言するなんて、俺らしくないけど。根拠がない訳じゃない。
『
俺とエリスが話している傍らで、バーンが憮然とした顔をしている。
「バーン、悪いな。おまえの兄貴を悪く言われるのは、気分が悪いよな」
「いや、アリウス。そうじゃないんだ」
バーンは奥歯を噛み締める。
「俺は兄貴が痛い目にあった方が良いと言ったが。そうは言っても兄貴も馬鹿なことはしないだろうって、少しは期待していたんだ。
だけど今の状況を考えれば、アリウスとエリク殿下の言う通りだからな」
バーンはドミニク皇太子のことを信じたかったんだろう。
「待たせたな。準備が整ったから移動して貰おう」
ドミニク皇太子の言葉に、みんなが動こうとすると。
「いや、来るのはアリウス殿と立会人のバーンだけだ。他の皆にはこの部屋で待っていて貰おう」
さっそく掛けて来たか。
「……!」
文句を言おうとしたジェシカを、視線で黙らせる。
むしろ護衛全員が残る訳だから。みんなの安全を考えれば、この方が都合が良い。
それにドミニク皇太子の屋敷全体が俺の『索敵』の効果範囲だし。この部屋に転移ポイントを設定したから、何かあれば『
「じゃあ。みんな、行って来るよ」
階段を下りて俺たちが向かった先は、広々とした地下室。
中には完全装備の竜騎士が20人以上待ち構えていて。俺たちが部屋に入ると、扉が閉じて閂が落とされる。
「なあ、兄貴。誰を代理人にするんだよ。まさか兄貴が戦う訳じゃないだろう」
「誰だって? 決まっているだろう。ここにいる竜騎士全員が私の代理人だ」
ドミニク皇太子がニヤリと笑うと、竜騎士たちが俺を取り囲む。
バーンが憮然とする。
「兄貴、どういうつもりだ? こんな卑怯な真似をしたら、帝国の名を汚すことになるぜ」
「バーン、おまえは何も解ってないな。帝国に敗北の二文字はない。帝国皇太子の俺が、ロナウディアの貴族に敗れるなど。その方が問題だ。
何、こいつを始末して。おまえが口裏を合わせるだけの話だ。バーン、おまえも次期皇帝の俺に逆らって、冷や飯を食いたくはないだろう?」
「兄貴、あんたって人は……」
バーンの顔が怒りに染まる。バーンは武の国であるグランブレイド帝国を誇りに思っている。
なのに実の兄が、帝国の誇りを地に落とすようなことを、しようとしているんだからな。
俺の『索敵』には、屋敷を取り囲む強い魔力が幾つも反応している。配置からして、ドミニク皇太子の配下じゃない。ヴォルフ皇帝の手勢だろう。
そして『鑑定』したから解っているけど。バーンが付けている指輪は、外の連中に合図を送るための魔導具だ。
バーンを立会人にした時点で、バーンとヴォルフ皇帝はこうなることを予想していたんだろう。
だけどバーンは、ドミニク皇太子が卑怯な真似をするなんて信じたくなかった。
バーンが合図を出せば、ヴォルフ皇帝の配下が踏み込んで来る。戦力的には向こうの方が圧倒的に上だから。ドミニク皇太子たちを制圧して終わりだ。
だけど、そんな結末なんて望んでいない――俺は怒っているんだよ。
俺のことはどうでも良い。俺が許せないのは、
「なあ、バーン。俺は相手が何人でも構わないからな。ここは任せてくれよ」
俺はドミニクたちの方に向き直る。
「おまえら、面倒だから纏めて掛かって来いよ。ドミニク、俺はおまえのことも見逃すつもりはないからな」
「嘗めたことを……貴様!」
安い挑発に、竜騎士たちが一斉に襲い掛かって来る。こいつらがドミニクの命令に従っているだけなのは解っている。だけど馬鹿な命令に従った時点で同罪だからな。
ドミニクの竜騎士たちは1番下の奴が100レベル台。大半が200レベル台。ドミニクの左右を固める2人は300レベルを超えている。
確かにそれなりに強いけど。
竜騎士たちの間を擦り抜けながら、殺さないために素手で殴る。
奴らが反応する前に拳が鎧を貫通して、竜騎士が次々と血溜りに沈む。
竜騎士全員を無力化するまでに、1分も掛からなかった。
最後に残ったドミニクのところに、俺はゆっくりと歩いていく。
「ま、待ってくれ……代理人を倒したのだから、決闘は終わりだろう。お、俺は負けを認める!」
プライドの塊のようなドミニクが怯えている。まあ、帝国人が誇る竜騎士たちを瞬殺したんだから仕方ないか。
「ダメだな。複数の代理人なんて、『決闘法』じゃ無効だろう。だからドミニク、おまえを倒すまで決闘は終わらないんだよ」
「だ、だから負けを認めると言っているだろう! 貴公が欲しいのはエリスだろう? あんな詰まらない女などくれてやる!」
ドミニクの言葉を聞いた瞬間。俺は奴の顔を殴りつけた。
「おまえにエリスの何が解るんだよ?」
それでも俺の頭は不思議なくらい冷静で。殺さないように手加減した。
ドミニクを殺してもエリスは喜ばないし。ヴォルフ皇帝と話を進めたエリクにも、迷惑が掛かるからな。
ドミニクは口と鼻から大量に流血して、白目を剥いている。鼻と顎の骨が砕けているけど、命に別状はない。
「バーン、悪かったな。おまえこそ、ドミニクを殴りたかっただろう」
「いや、今のは兄貴の自業自得だろう。それに俺じゃ兄貴に勝てないからな」
ドミニクは決して弱くない。皇太子の地位にありながら100レベルを超えている。
今のバーンが勝てないのは事実だけど。
「なあ、バーン。おまえをもっと鍛えてやるよ。ドミニクをボコボコにできるくらいに」
「ああ……頼むぜ、親友。兄貴に勝てるくらいに、俺も強くならないとな」
バーンが豪快な笑みを浮かべる。無理して笑ってるのが見え見えだけど。
だから俺は気づかないフリをした。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 15歳
レベル:2,870
HP:30,155
MP:45,966
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