第103話:チェックメイト
夜が明けて。今日の午前中にドミニク皇太子に会うことになっている。
宿屋でみんなで朝飯を食べているけど。全員平常モードだ。
「緊張なんてしないわよ。アリウスがやるんだから、何の問題もないに決まっているじゃない」
エリスが悪戯っぽく笑う。朝飯のメニューはフレンチトーストにベーコンエッグ。サラダにフルーツとヨーグルト。王族や貴族でも割と普通だ。
「まあ、やれることはやったし。失敗するつもりはないけどな」
「アリウス。みんなのことは私たちに任せて」
「そうですよ、アリウス卿。これくらいしないと、ダリウス閣下に叱られますから」
ジェシカと護衛の責任者のレオンが言う。レオンはダリウスの腹心の部下だからな。その実力をジェシカも認めたみたいだ。
「ジェシカとレオンがそう言ってくれるなら、俺も安心だよ」
平民のミリアとノエルに、ドミニク皇太子が何か仕掛けて来る可能性があるし。他のみんなに対しても可能性はゼロじゃない。
「僕と姉上とアリウスだけで、ドミニク皇太子のところに行くことも考えたけど。そうすると戦力を分散することになる。
みんなにも今回の結末を見届ける権利があるからね。全員一緒に行くとしようか」
エリクの判断は正しいと思う。何かあったときも、俺が近くにいた方が対処がしやすいからな。
※ ※ ※ ※
午前10時前。俺たちは帝都の中心にある皇帝の居城、ソードマスター城に到着した。
帝都自体が巨大な要塞みたいだけど。ソードマスター城は、その中心に相応しい堅牢な造りの建物だ。
分厚い金属で覆われた城壁。城を囲むように聳え立つ6つの塔の上には、最新式の連射式バリスタが設置されている。
さらには帝国竜騎士団の中に1割しかいない本物の竜を駆る騎士たちが、竜と一緒に常に待機している。
「それで……エリスは俺に何の用だ?」
皇太子専用の謁見室。まるで皇帝のように玉座に座る赤い髪と褐色の肌の男。こいつがグランブレイド帝国皇太子ドミニク・レニングだ。
バーンを大人っぽくしたようなイケメン。プライドの高さが表情に滲み出ている。
エリスは婚約者だから別にしても。ロナウディアの王子のエリクとジークがいるのに。歯牙にもかけないような不遜な態度だ。
ドミニク皇太子の周りには、魔法文字が刻まれた甲冑を纏う12人の竜騎士。竜騎士たちは威圧するように、無言でこっちを見ている。
「ドミニク皇太子殿下、お初にお目に掛かります。俺はロナウディア王国宰相ダリウス・ジルベルトの息子、アリウスです。今日はエリスを皇太子殿下から奪うために、決闘を申し込みに来ました」
手筈通りに、俺がエリスの代わりに応える。勝手に喋った俺に、ドミニク皇太子は不快そうな顔をするけど。
「「「アリウス・ジルベルト……」」」
竜騎士たちが騒めく。昨日の仕掛けの効果はあったみたいだな。
「……ああ。貴様が『鮮血』ディアスを倒したというアリウスか。まさか本当に王国宰相の息子だとはな」
白々しいことを言うけど。ドミニク皇太子は初めから気づいていた筈だ。部屋に入った瞬間から、俺を睨んでいたからな。
「フン。貴様も貴族だというのに、馬鹿な真似をするのだな。これは俺とエリスだけの問題ではない。グランブレイド帝国とロナウディア王国の国際問題になるぞ」
ドミニク皇太子は脅すように言う。俺の方から決闘の申し出を引き下げれば、プライドは守られるからな。
「ドミニク、おまえが心配することではない。今回の件については、私とエリク王子との間で話がついている」
不意の声にドミニク皇太子が慌てて立ち上がると。皇太子と同じ赤い髪と赤い顎ひげを蓄えた男が姿を現した。
年齢は40代半ば。褐色の肌で、服の上からでも解る鍛え上げらた身体。これで甲冑を纏っていれば、歴戦の騎士に見えるな。
この男がグランブレイド帝国現皇帝ヴォルフ・レニングだ。
「皇帝陛下が何故……」
「ドミニク、質問するのは私の方だ。友好国であるロナウディアのアリウス殿を貴様呼ばわりし。エリク王子とジーク王子に対する不遜な態度。おまえは私の顔に泥を塗るつもりか?」
ヴォルフ皇帝の眼光が鋭い。本当に歴戦の騎士って感じだな。
「陛下、申し訳ありません……」
「ドミニク、何度も言わせるな。謝る相手が違うだろう?」
ヴォルフ皇帝が迫る。ドミニク皇太子は悔しそうな顔をして、俺たちの方を向いた。
「エリク殿下、ジーク殿下。それにアリウス殿。不快な思いをさせて申し訳ない」
「ドミニク殿下、お気になさらずに。僕は細かいことは気にしませんよ。それでアリウスとの決闘は受けるんですか?」
エリクはいつもの爽やかな笑みを浮かべる。ドミニク皇太子が思いきり睨んでいるけど、どこ吹く風って感じだ。
「良いだろう……アリウス殿。貴公からの決闘の申し出を、グランブレイド帝国皇太子ドミニク・レニングの名に懸けて受けよう」
完全に逃げ道を塞がれて、決闘を受けるしかない状況なのに。仰々しい言い方をするのは、自分の地位を使って威圧しようとしているんだろう。
「ならばこの決闘の立会人は、バーンに任せるとするか」
ヴォルフ皇帝の言葉に従って、バーンが部屋に入って来る。
「解ったぜ、親父。俺に任せてくれよ」
「バーン、親父ではなく陛下と呼べと言っているだろう。おまえはいつまで経っても礼儀作法をわきまえないな」
「親父、細かいことは良いだろう。こいつらは俺の友だちだから、堅苦しいことはなしにしようぜ」
ヴォルフ皇帝が苦笑する。本気でバーンを咎めるつもりはないみたいだな。
「兄貴も俺が立会人で構わないだろう?」
ドミニク皇太子は展開について行けずに戸惑っていた。
自分を咎めるために、ヴォルフ皇帝が出てきたのだから。立会人もヴォルフ皇帝が務めると思っていたんだろう。
だけどヴォルフ皇帝が指名したのはバーン。ドミニク皇太子はその意図を測りかねているってところだな。
「……ああ。バーン、俺も構わない」
このとき。ドミニク皇太子はニヤリと笑った。
何を考えているのか、大体想像はつくけど。考えが甘いだろう。この状況を作ったのはエリクだからな。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 15歳
レベル:2,870
HP:30,155
MP:45,966
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