第99話:帝都の街並み


「アリウス、早かったな」


 サーシャを連れて戻って来たジークが、バツが悪そうな顔をする。


 俺が帝都に到着したとき。ジークとサーシャがいなかった理由は、2人だけ『恋学コイガク』モードでデートに出掛けていたからだ。


 まあ、ドミニク皇太子と会うのは2日後だし。みんなを護衛すると言っても、ここは治安の良い帝都だからな。宿屋に諜報部の連中とエリクの騎士たちが待機しているから、護衛としては十分だろう。


 だからジークにどうこう言うつもりはないけど。こういう・・・・ところがエリクとの差なんだろうな。


 その日の夜。帝都でも有数のレストランにみんなで出掛けた。

 ドレスコードのある店で。エリクが事前に説明したらしく、ミリアとノエルもドレスを着ている。ちなみにドレスはソフィアが貸したそうだ。


「ア、アリウス君……へ、変じゃないかな?」


「ああ。ノエル、良く似合っているよ」


 別にお世辞じゃない。清楚な感じの飾り気の少ない白いドレス。

 ノエルは元々素材が良いから。ソフィアの侍女がノエルの髪をセットして、軽くメイクをしたら。ちょっと幼さが残る感じの可愛い系美少女になった。


「思っていた通りね。やっぱりノエルは可愛いわよ」


 ミリアはノエルをマジマジと見て。自分のことのように喜んでいる。


「ミ、ミリア。そんなに見られると、恥ずかしいよ……」


 真っ赤になるノエル。みんなが微笑ましい目で見ている。


「ミリアも良く似合っているからな」


 純白の髪と紫紺の瞳のミリアは、薔薇の花が刺繍された水色のドレスを着ていた。


「そ、そう? こういうの、私には似合わないと思うけど。お世辞でも嬉しいわよ」


「ミリア、そんなことないですよ。ドレスを貸した甲斐がありましたね」


「そうね。女の私から見ても、凄く可愛いわよ」


 ミルクベージュの髪と碧眼のソフィアは、鮮やかな青のドレス。金髪で深い青の瞳のエリスは、落ち着いた黒のドレスだ。

 可憐な感じの綺麗系美少女と、凛々しい感じの綺麗系美少女。2人が並んでいる姿は、物凄く華やかだな。


「アリウス。私たちの感想はないの?」


 エリスが悪戯っぽく笑う。


「エリスもソフィアも、良く似合っているよ。思わず見惚れてしまうくらいにね」


「ア、アリウス……揶揄からかわわないでください」


 ソフィアが頬を染める。婚約者のソフィアをエスコートするのはエリクの役目で。エリクを差し置いて、俺がこんなことを言うのはどうかと思ったけど。

 俺の素直な感想だし。エリクはいつものように、気にする素振りも見せなかった。


 レストランでは、いかにも高そうな料理が出て来た。武の国として知られるグランブレイド帝国の料理は、高級店でもボリュームがある。


 ミリアとノエルが支払いを気にしていたけど。今回の件に付き合って貰うお礼だと言って、エリクが全部払った。


 まあ、エリクは王子だからな。こういうケースで払わない方が格好がつかないだろう。

 相手の方もそれが当たり前だと思う奴が多いけど。ミリアとノエルはちょっと恐縮した感じで、キチンとお礼を言っていた。


※ ※ ※ ※


「へー……ここがグランブレイド帝国の帝都ね。さすがは大国の中心部って感じだわ」


 次の日。俺たちと一緒に何故かジェシカが一緒にいる。いや、俺がカーネルの街に行って連れて来たんだけどな。


 今回の件はエリスがジェシカに『伝言メッセージ』を送って、俺が恋人のフリをすることまで全部伝えていた。

 さらにはジェシカにも見届ける権利があると、帝国に来るように誘ったらしい。


 ジェシカもS級冒険者だからな。自分で魔法を使って来るつもりだったみたいだけど。

 ジェシカはグランブレイド帝国に来たことがないから、帝国まで転移魔法テレポートで移動できない。飛行魔法で来るには時間が掛かるから、俺が迎えに行ったんだよ。


「ふーん……アリウスがエリスの恋人ね」


 ジェシカがジト目で見る。


「ええ、ジェシカ。『伝言』でも伝えたけど、あくまでもアリウスは私の恋人のフリをしてくれるだけよ」


 エリスがフォローする。恋人のフリをしたからと言って、なし崩し的に俺をどうこうしようというつもりはない。

 エリスはそういう奴だし。何事も正々堂々とういうのが、エリスのスタイルだ。


「解っているわよ、エリス。今回のは貸しだからね」


 ジェシカもエリスの性格が解ってるようで。文句は言わなかった。


「アリウスを面倒に巻き込んだことは、本当に申し訳ないと思っているわ。だけど貴方が引き受けてくれて、凄く嬉しいのも本当の気持ちよ」


 エリスが満面の笑みを浮かべる。


 面倒な話だけど、貴族には格があるから。エリスの恋人役が務まる王国の人間は意外と少ない。未婚で婚約者もいないとなると、俺以外だとマルスとラグナスくらいか。


 いや、条件だけならシリウスも該当するけど。ドミニク皇太子と決闘することになる訳だし。いくら代役を立てられると言っても、子供に任せる訳にはいかないだろう。


 それにエリクはレギウス皇帝と繋がっているからな。エリクが俺を指名したってことは。俺がエリスの恋人役をすることも、エリスとドミニク皇太子の婚約を破棄するための条件の1つなんだろう。


 まあ、他に適任者がいるとか、いないとか。レギウス皇帝の思惑とかを抜きにしても。エリスのためなら、これくらいのことはするけどな。


 みんなと一緒に帝都の街を歩く。帝国の建築は見た目よりも強度を重視しているらしく、武骨な建物が多い。

 王国とは違う街の景色を楽しむ。諜報部の連中と護衛たちは、適度な距離を空けて回りを固めている。


「ふーん……あんたたちの護衛も、結構やるみたいね」


 ジェシカが注目しているのは、『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』で隠れている諜報部の連中だ。

 特に護衛の責任者のレオンは『認識阻害』を発動すると、ジェシカでもギリギリ感知できるレベルだからな。


 帝都の街を散策した後。オープンカフェのような店で昼飯を食べる。

 気取らない店を選んだのは、冒険者のジェシカに気を遣ったのか。


「なあ、みんな。せっかく帝都に来たんだから、これから闘技場に行ってみないか」


 俺の言葉に真っ先に反応したのはジェシカだ。


「闘技場って、試合でもやっているの?」


「賭け試合だけどな。結構強い奴も出場するみたいで。帝都の観光名所として知られているんだよ」


「ふーん、面白そうね。ねえ、みんな。行ってみない?」


 みんなは特に異存もなく。俺たちは闘技場に向かうことになった。


「アリウス……ううん、何でもないわ」


 エリスがクスリと笑ったのは、俺の意図に気づいていたからだろう。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:2,870

HP:30,155

MP:45,966

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る