第98話:塞がれた退路


 3番目の最難関ハイクラスダンジョン『冥王の闘技場』。

 深い闇に包まれた広大な空間に出現する死神グリムリーパーたち――


 死神って言っても、鎌を持った黒ローブって定番の姿じゃない。

 1階層に出現する死神は『冥府ナイトオブの騎士アンダーワールド』。グロテスクアーマーを纏う金色の骸骨だ。


 アンデッドモンスターには違いないけど。こいつに比べれば、アンデッドの王と言われるノーライフキングも可愛いモノだ。

 当たり前のように『魔神の牢獄』の最下層に出現する『混沌の魔神』より強い。『魔神の牢獄』に出現するのは偽神デミフィーンドと呼ばれる下級の魔神だから。死神は下級の魔神よりも格上ってことか。


 音速を余裕で超える速度で動いて、瞬間移動も連発するし。攻撃は正確な上に必殺の威力で。防御も鉄壁というか冗談だろうってレベルだ。

 それが1,000体以上同時に攻撃して来る。まあ、ここまでは単純に敵が強くなっただけで、『魔神の牢獄』と同じだけど――


 『冥王の闘技場』の厄介なところは、階層ボスが出現することだ。しかも初めから。


 『冥府オフィサーオブの魔将アンダーワールド』。その姿は冥府という名に似合わない白いフルプレートを纏う白磁の肌の美女。

 だけど良く見ると鎧は血で汚れていて。腹の部分に大きな穴が空いている。つまり、こいつもアンデッドってことだ。


 『冥府の魔将』の強さは『冥府の騎士』の数倍で。しかも初手からこっちを執拗に狙って来る。

 だったら最初に『冥府の魔将』を倒せばと思うかも知れないけど。『冥府の魔将』だけを狙えるような隙を死神たちが見せる筈はなく。結局、倒せる奴から倒していくしかないんだよ。


 それでも俺も強くなった筈だ。『魔神の牢獄』のラスボス『魔神の王』と戦ったとき。研ぎ澄まされた意識の中で、俺は今までとは違うレベルで魔力を操作する感覚を掴んだ。


 これまで俺は魔力を流れとして捉えていたけど。魔力を1つ1つの点として捉えて、精密に操作するイメージだ。実際にやってみると効率が全然違う。魔力を一切無駄にすることなく、100%力に変えることができる感じだ。


 これならMPの消費を抑えられるから、継続戦闘能力が伸びるし。魔力操作は全ての基本だから、全般的にパワーアップできる。

 今の俺なら階層ボスが一緒だろうと、ソロで死神たちを殲滅できる筈だ。勿論、油断なんて一切しないけどな。


※ ※ ※ ※


 エリクたちがグランブレイド帝国に向かってから3日後の午後。みんなから帝都に到着したと『伝言メッセージ』が届いた。

 まあ、色々あって。俺も全員と『伝言』を互いに登録したけど。連絡するのは1人で十分じゃないかと、一応ツッコんでおく。


 1日余計に掛かったのは、帝国側の飛空艇乗り場がある街で歓待を受けて足止めを喰らったそうだ。まあ、王家の飛空艇で行ったんだから。エリクたちも歓待されることは予想していて、予定通りだとも言える。


 俺は帝国領内の以前訪れたことがある場所に転移テレポートして。そこから飛行魔法フライで移動。俺の飛行魔法のレベルだと、帝都まで10分ってところだ。


 『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』は発動しているけど。さすがに帝都に空から侵入するのは敵対行為だからな。近くまで行ったら、地上に降りて魔法を解除。普通に歩いて帝都の門を通ることにした。


 グランブレイド帝国の帝都グランエッジは、人口200万人の大都市だ。10m近い高さの3重の外壁に囲まれた城塞都市は、巨大な要塞って感じだな。


 実際に外壁の上には巨大なバリスタが幾つも置かれているし。帝国が誇る竜騎士たちが帝都を守っている――って言っても、大半はワイバーンライダーだけど。本物の竜に乗っている騎士も普通に見掛けるんだよな。とりあえず、見掛けた奴は全員『鑑定』したけど。


 街の中もロナウディア王国の王都はもっと開放的だけど。帝都グランエッジは壁に囲まれた空間に建物が詰め込まれた感じだな。

 俺が帝国に来たことがあるのに帝都に来るのが初めてなのは、観光とかに全然興味がなかったからだ。帝国と帝国軍に関する情報は今でも収集しているけど。


 普通は王族が他の国を訪れるときは、王宮や大貴族の邸宅に泊ることになるけど。今回はエリクが帝国側に申し入れて、市中の宿屋に泊ることにしたそうだ。

 相手の歓迎を拒むような行為だけど。その辺はエリクが上手く手を回したらしい。


 宿屋って言っても、王族が使うような場所だからな。貴族の邸宅のような建物で、しかもエリクは建物ごと借り切っていた。


「アリウス、思ったより遅かったじゃない」


 宿屋に着くと。俺のことを待っていてくれたのか、ミリアが頬を膨らませる。


「ミリア、悪いな。普通に門から入ったら時間が掛かったんだよ。俺も帝都に来るのは初めてだからな」


「アリウスも初めて来たんですか? 貴方なら世界中のどこにでも行ったことがありそうですけど」


 ソフィアが意外そうな顔をする。


「ダンジョンなら、それなりの数を攻略したけど。街となると行ったことがあるのは、ダンジョンを攻略中に滞在したところと。情報収集のために訪れたところくらいだな」


「そういうところにも、アリウスはもっと興味を持った方が良いわよ。冒険者を続けるにも貴族をやるにも、生きた情報は役に立つわ」


 エリスが揶揄からかうように笑う。


「ああ、そうだな。俺も自覚があるから、これからはもう少し他のことにも目を向けるようにするよ」


「ところでアリウスは、お腹が空いているんじゃない? 貴方のことだから、私たちと別れた後ずっとダンジョンに行っていたんでしょう」


 なんかエリスには見透かされている感じだな。


「ああ。腹は減っているよ」


「だったら、すぐに用意するわね」


 用意させるんじゃなくて、用意するって言うのがエリスらしいよな。

 ノエルも何か言いたそうだけど。他のみんなに会話の主導権を奪われた感じだな。


「ノエルも俺のことを待っていてくれたのか。ありがとうな」


「う、うん。アリウス君……」


 ノエルが何故か真っ赤になる。

 ミリアにジト目で見られたけど。俺は変なことはしてないだろう。


 みんなと一緒に宿屋の食堂室に向かうと。広い空間に幾つもテーブルが並べられていて。その1つでエリクが灰色の髪をオールバックにした20代後半の男と話をしている。

 王国諜報部第3課課長レオン・グラハム。ダリウスの腹心の部下で、今回もレオンが護衛の責任者だ。


「やあ、アリウス。ようやく主役の登場だね」


「エリク、茶化すなよ。何か話があるなら、メシを食べながらでも構わないよな」


 エリスが料理人に直接話をして、直ぐに料理が運ばれて来る。

 パンに肉を挟んだサンドイッチとか。短時間できるボリュームのあるメニューだ。ホント、エリスは俺のことが良く解っているよな。


「とりあえず、ドミニク皇太子とは明後日の午前中に会うことになったよ。アリウス、君にも同席して貰うからね」


「まあ、俺はエリスの恋人役だからな。直接会った方が話が早いだろう」


 俺は新しい恋人として、エリスを奪うためにドミニク皇太子に決闘を申し込む筋書きだ。

 ドミニク皇太子がどこまで事情を知っているのか解らないけど。帝都を訪れた2日後には時間を取るんだから、悪くない対応だろう。


「それと当日は、レギウス皇帝も同席するからね」


 皇帝を同席させることで、ドミニク皇太子の逃げ道を塞いだってことか。エリクは皇帝と繋がっているからな。


「お膳立ては整ったって訳か。じゃあ、俺は明後日の朝に来れば良いな」


 貴重な夏休みだからな。メシを食べたら、また『冥王の闘技場』に挑みに行くか。

 そう思ってたんだけど――


「ねえ、アリウス。まさか直ぐにダンジョンに行くつもりじゃないわよね?」


「せっかくみんなで帝都に来たんですから。さすがにアリウスも、そんなことはしないわよ」


 ミリアとソフィアの目が怖い。エリスは苦笑しているけど。


「わ、私はアリウス君と……帝都の街を見てみたいな」


 訴え掛けるようなノエルの顔。さすがに俺もここまで言われると。


「解ったよ。ドミニク皇太子に会うまでは、俺も帝都にいることにするよ」


 まあ、2日くらい構わないか。その分、夏休みが終わった後に授業をサボれば良いだけの話だからな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:2,870

HP:30,155

MP:45,966

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