第95話:事情


「アリウス君はみんなが大切だって言うけど、みんなに頼る気はないみたいだからね。そこが一番の問題だと思うけどな」


 マルシアの言葉が妙に突き刺さる。


 俺は強くなることだけを考えて来た。命を削るギリギリの戦いの中で。自分が強くなって行くのを実感できることが、堪らなく楽しい。只それだけだ。

 だけど――それじゃダメなのか?


 とりあえず、エリスたちとジェシカの話は終わったみたいだ。

 今後も連絡を取り合うために、みんなとジェシカが互いに『伝言メッセージ』を登録している。

 だけどこうなると、ジェシカにも話しておいた方が良いな。


「なあ、ジェシカ。今まで面倒なことにならないように隠していたけど。俺はロナウディア王国の貴族で。親の都合で昼間は別の用事があるって言ってたのは、ロナウディアの王立魔法学院に通っているからなんだよ」


 俺の事情を隠したままだと、みんなはジェシカと真面に話ができないからな。


「え……アリウスは貴族なんだ。なんか意外ね。それに王立魔法学院って、学校に通っているってこと?」


 ジェシカはちょっと戸惑っているけど。イマイチ状況が解っていないみたいだ。


「なるほどね。貴族だってバレると、色々と面倒そうだからね。面白い話を聞いたけど、これをネタにするつもりはないから。アリウス君も安心してよ」


 マルシアかニヤリと笑う。俺が貴族だとバラすと脅すこともできるけど。マルシアはそういう奴じゃないんだよな。


「アリウスが事情を話したなら、私も隠す必要はないわね。ジェシカさん、騙し討ちみたいな形になって申し訳ないけど。私はエリス・スタリオン、ロナウディア王国の第1王女よ」


「え……エリスさんは王女様なの!」


 王女の方がインパクトが強いからな。ジェシカが驚いている。

 ソフィアも自分の身分を明かして、ジェシカに謝っている。


「私とノエルはアリウスと同じ学院に通っているけど、普通の平民ですよ」


「へー……貴族と平民が同じ学校に通っているのね」


 身分をバラしても驚くくらいで。ジェシカの態度が変わることはない。こいつは身分で相手を判断するような奴じゃないからな。


「ねえ、アリウス。エリスさんとソフィアさんが王女様と貴族ってことは、敬語を使った方が良いのかな?」


「ジェシカさん。私の方が年下だし、むしろ呼び捨てで構わないわ。互いの想いを語り合った同士なんだから、そうして貰えると嬉しいわ」


「そうですよ、ジェシカさん。私のことも呼び捨てにしてください」


「解ったわ。みんなのことはこれから呼び捨てにするから。私のことも呼び捨てにしてよね。私たちは同志・・なんだから問題ないわよね」


 ジェシカが嬉しそうだ。理由は何となく想像できる。


 エリスが『防音サウンドプルーフ』を解除する。

 ここまでの話は、他の冒険者に聞こえていなかった筈だけど。女子6人に俺が囲まれているという構図から、勝手な想像をしたんだろうな。


 特にマルシアが一緒だったからな。俺が吊るし上げにされたと思っているのか。男の冒険者たちの目が妙に優しい。

 だけどそんな雰囲気なんて、マルシアには関係ないらしい。


「じゃあ、真面目な話が終わったから。ここからはみんなで親睦を深めようよ。今日は当然、アリウス君の奢りだよね。太っ腹のアリウス君だから、他の冒険者みんなの分もパーッと奢っちゃうよね!」


 いや、俺は奢るなんて一言も言ってないけど。まあ、いつものことだし。メシを奢るくらい構わないけど。


「マルシア、何を言ってるのよ! 毎回、アリウスにたかるのは止めなさいよ」


 ジェシカが止めるけど。マルシアが言うことを聞く筈がない。


「マルシアさんはいつもアリウスに奢らせてるの? S級冒険者なんだからお金はあるわよね」


 エリスが呆れた顔をする。


「そういう問題じゃないよ。人に奢って貰うご飯は美味しいからね。それにアリウス君だって嫌なら奢らないよね?」


 まあ、奢るのは構わない。集られるのは嫌だけどな。マルシアに関してはノリで言っているところもあるから、微妙なところだ。


「まあ、俺らもアリウスには結構奢って貰っているからな。偉そうなことは言えねえけど」


 こっちにやって来たゲイルが苦笑する。


「アリウスが知り合いを連れて来るなんて、めずらしいからな。俺が奢ってやるよ。ほら、冒険者たちてめえら全員の飲み代も払ってやるから。今日は徹底的に飲むぜ!」


 ゲイルの言葉に冒険者たちが歓声を上げる。

 自分が飲みたいのもあるだろうけど。こいつは面倒見が良いからな。


「ゲイルさん、良いのかよ。何なら俺が半分出すぜ」


 そう言ったのはアランだ。アランも何度か俺に奢ろうとしたけど。マルシアの件があるから、結局俺が払ったんだよな。


「アラン、俺だってA級冒険者だからな。他の奴の金なんか当てにしねえって。なあ、お嬢ちゃんたちもアリウスの連れなら歓迎するからよ。好きなものを注文してくれ」


「ゲイルさん、ありがとう。遠慮なく頂くわね」


 みんながお礼を言って料理と飲み物を注文する。こういう風に奢るなら悪くないよな。


 ゲイルはホント良い奴だよな。俺がまだ子供だった5年前から、何かと世話を焼いてくれた。今回も俺に気を遣ってくれているんだろう。


「アリウスさんって、やっぱりモテるんだな。両手に花どころじゃなくて、ハーレムじゃねえか」


 ニヤリと笑いながら話し掛けてきたのは、ツインテール女子のヘルガだ。


「アリウス、この人って……」


「ああ。この前話したB級冒険者のヘルガだ。今はゲイルのパーティーのメンバーだよ」


 エリスにはヘルガたちと一悶着あったことは話してある。

 ちなみにヘルガの元パーティーメンバーのレイたちも、今冒険者ギルドにいるけど。イマイチ活躍できてないようで、最近は大人しいらしい。

 まあ、力量が解らない相手に喧嘩を売るような奴らだからな。生き残っているだけでも上出来か。


 だけど今はそんなことより――


「だけど強さで言えば、そこの金髪くらいで。あとは大したことねえな。だったら私もアリウスさんのハーレムのメンバーに立候補するかな」


 ゲイルたちに鍛えられて、ヘルガも少しは相手の力量が解るようになったみたいだな。

 この発言もヘルガとしては軽口のつもりなんだろうけど。相手が悪かったな。


「今のは私たちを侮辱する発言よね。私は貴方みたいに適当なことを言う人が嫌いなのよ」


 エリスはみんなのことを大切に想っているからな。軽口だと解っていても、許せないんだろう。


「なんだと、てめえ……」


「喧嘩を売るなら、買っても良いけど。貴方じゃ私の相手にならないわよ」


 エリスはわざと挑発しているけど、頭は冷静みたいだな。

 それに対してヘルガは――こいつは、まだまだだな。


「面白えことを言うじゃねえか。だったら……試してやるよ!」


 ヘルガはいきなり殴り掛かる。だけど拳が当たる前に身体が固まる。

 エリスが無詠唱で魔法を発動して、ヘルガを拘束したからだ。


「ここまでは正当防衛だから、問題ないわよね」


 エリスは無慈悲な目でヘルガを見る。


「ねえ。まだやるなら、一切容赦はしないわよ」


 今の状態ならナイフ1本でヘルガを殺すことができるし。エリスは決して躊躇ためらわない。そう思わせるような迫力がある。


 それがヘルガにも伝わったんだろう。エリスが拘束を解くと。


「チッ……解ったよ。私が悪かった」


 ヘルガはアッサリと引き下がる。

 まあ、これもヘルガにとっては良い勉強になっただろうな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:2,461

HP:25,838

MP:39,345



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