第94話:問題
カーネルの街の冒険者ギルド。一番奥のテーブルを俺とエリス、ミリア、ソフィア、ノエルの5人。そしてジェシカとマルシアが囲んでいる。
「それじゃ、始めるよ。第1回女たらしのアリウス君被害者の会。この際だから何でも言っちゃおう!」
「『
マルシアの掛け声に、エリスが即座に魔法を発動する。
エリスは無詠唱で魔法を発動できるけど。わざと魔法の名前を叫んだのは、マルシアに対する抗議だな。他のみんなもジト目で見ているし。
「マルシア、悪ふざけは止めてよね!」
マルシアの態度に、ジェシカも怒っている。
「ジェシカ、軽い冗談だよ。みんなもノリが悪いなあ」
だけどマルシアは全然悪びれない。まあ、この状況を見れば、俺的には『たらし』と言われても仕方ないと思っているけどな。
「マルシアさんは、アリウスの件については部外者ですよね。だったら黙っていて貰えませんか」
毅然と言ったのはミリアだ。ジェシカが申し訳なさそうな顔をする。
「ホント、ごめんなさい。マルシア。余計なことを言うなら、あんたはアランたちのテーブルで待っていなさいよ!」
「ジェシカ、解ったよ。あたしは暫く黙っているから」
マルシアは口元を押さえてニヤニヤ笑う。
みんなは呆れているけど。マルシアはみんなの反応を探るために、わざとやっているよな。エリスは気づいているみたいだけど。
「ジェシカさん。話の腰が折れたけど、始めましょうか。
さっきも言ったけど、私たちはアリウスともっと仲良くなりたいと思っているわ。ジェシカさんも同じ気持ちなら、じっくり話をしたいのよ」
冷静に考えると。俺にとって物凄く恥ずかしい話をしているよな。
さっきは他の冒険者たちも聞いていたから、晒し者にされたことになる。まあ、他の奴がどう思おうと俺は構わないけど。
「わ、私だって。アリウスともっと仲良くなりたいわよ。アリウスは私の憧れで、目標で、何よりも大切な存在だから……」
ジェシカはチラチラ俺の顔を見ながら、真っ赤になる。
「だけど私とアリウスは……
「ジェシカさんの気持ち、私も解る気がするわ」
ミリアが俺を見つめる。
「私はアリウスと友だちだけど、もっと仲良くなりたいと思っているわ。だけどアリウスは、そんなことを求めていないのよね」
ミリアは俺を責めているんじゃなくて。俺を理解して、受け入れてくれる気持ちが伝わって来る。
「ふーん……貴方もアリウスのことを、良く解っているみたいね」
ジェシカは面白くなさそうな顔をする。
「私もアリウスのことをもっと知りたいと思っていますが。それは大切な友人としてです。ジェシカさんとは立場が違いますから。私はこの場にいて良いのかと思っています」
申し訳なさそうに言ったのはソフィアだ。
エリクは俺にソフィアを奪っても構わないと言ったけど。今もソフィアはエリクの婚約者だからな。
ソフィアが俺のことをどう思っているのか、気にならない訳じゃないけど。それこそ俺とソフィアは
「えっと……ソフィアさんだったわよね。貴方の事情は私には解らないけど。立場とかそういうの、私は関係ないと思うわよ。大切なのは、貴方の気持ちじゃないの?」
ジェシカはソフィアのことを何も知らないけど。何か感じるモノがあるんだろう。ジェシカは自分の思うように生きているからな。
ジェシカに言われて、ソフィアは考え込んでいる。
「ねえ、貴方はどうなの?」
ジェシカの視線の先にいるのはノエルだ。
「わ、私は……他の人のことは良く解りませんけど。わ、私だって……アリウス君ともっと仲良くなりたいです……」
ノエルが人前でこんなことを言うなんて。人見知りなのに頑張ったんだな。
ジェシカにもそれが伝わったようで。
「貴方たちがアリウスをどう思っているか、何となく解ったわよ。貴方たちにとっても、その……アリウスは大切な人みたいね」
ジェシカの反応に、エリスが満足そうに笑う。
「ねえ、ジェシカさん。こんなことを言うと怒るかも知れないけど。
もし貴方がアリウスを利用しようしているなら、排除するつもりだったのよ。アリウスは女に優し過ぎるから、騙されないとは限らないと思って。
だけどジェシカさんがアリウスを大切に想っていることが解ったから、安心したわ」
エリスは牽制するようにマルシアを見る。マルシアは何食わぬ顔でニヤニヤしてるけど。
「私はジェシカさんの邪魔をするつもりはないわ。だけどここにいるみんなを含めて、相手が誰だろうと私は負けるつもりはないわよ」
海のように深い青の瞳が、ジェシカを真っ直ぐに見る。
エリスの宣言に、ジェシカはふんっと鼻を鳴らした。
「私だって、貴方たちに負ける気はないわよ。私の想いは5年越しだから」
みんなが俺のことを想ってくれることは、素直に嬉しいと思う。
だけど、だからこそ。俺が言わなくちゃな。
「なあ、ジェシカ。それにみんなも――」
みんなの視線が俺に集まる。
「みんなの気持ちは嬉しいけど。俺は結局、強くなることしか考えていないんだよ。みんなのことは大切だし、守りたいと思っている。だけど俺の気持ちは
みんなの気持ちを無視したくないから、俺なりに考えてみた。だけど結局、俺は恋愛が解らないし。恋愛したいと思っていない。
つまりみんなのことが、俺は本気で好きな訳じゃないんだ。
「だから俺のことは――」
俺が言葉を止めたのは、エリスの指が唇に触れたからだ。
「アリウス、それを決めるのは貴方じゃないわ。私は私の気持ちに素直に従っているだけよ。誰にも――たとえ貴方でも、文句は言わせないわ」
海のように深い青の瞳に。吸い込まれそうだ。
「この前も言った筈よ。私は貴方の気持ちを絶対に動かして見せるって。私は本気だから」
「
ミリアの碧の瞳が俺を射抜く。本気さが伝わって来る。
「わ、私だって……アリウス君のことを、諦めたくないから……」
エリスやミリアのような強さはないけど。ノエルの温かい気持ちを感じる。
ソフィアはちょっと怒ったような顔で、じっと俺を見つめていた。
「みんなの気持ちは解ったけど。あとはアリウス君次第だからね。アリウス君もみんなのことを、もっと信じた方が良いんじゃないかな」
ここで割り込んできたのはマルシアだ。
「マルシア! あんたは、また余計なことを言って!」
「そうかな? あたしは結構重要なことだと思うよ。アリウス君はみんなが大切だって言うけど、みんなに頼る気はないみたいだからね。そこが一番の問題だと思うけどな」
何だよ、マルシアの癖に――なんて俺は思わなかった。
マルシアの言葉が、妙に突き刺さったからだ。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 15歳
レベル:2,461
HP:25,838
MP:39,345
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