第93話:対峙


「それで……アリウスは私がいないときに、カーネルの街に来たみたいね」


 カーネルの冒険者ギルドに行くと。いきなりジェシカにジト目をされた。

 確かに前回来たとき。ジェシカたちは泊まり掛けで『ギュネイの大迷宮』を攻略していたからな。


「いや、たまたまだよ。別にジェシカがいないタイミングを狙って来た訳じゃないからな」


「ふーん……どうだか!」


「アリウス君の自業自得だよね。そんなにカーネルの街に来ないのに、ジェシカがいないときに来るんだから」


 マルシアは面白がるように笑っている。


「いや、今回だけはフォローするが。アリウスは俺と飲んだだけだからな。たまには男同士で飲みたいときもあるんだよ」


 ゲイルのフォローに。ジェシカも仕方ないかって感じで、矛を収めようとしたとき。


「ああ、そうだよ。アリウスさんは、私たち・・・と飲んだだけだからな」


 ツインテール女子ヘルガの一言に、ジェシカがピクリと反応する。


「へー……アリウスはヘルガと飲んだんだ?」


「いや、ヘルガもいたけど。俺はゲイルと飲んだんだよ」


「まあ。アリウス君も、そこまで気にしなくて良いんじゃないかな。ジェシカはアリウス君と会えなくて、拗ねてるだけだからね」


「マ、マルシア! 余計なことは言わないでよ!」


 ジェシカの顔が真っ赤だ。マルシア、おまえはジェシカで遊んでいるだろう。


「それで……アリウス。今日は知り合いを連れて来るって話だったわよね」


 ジェシカが誤魔化すように話題を変える。ジェシカには『伝言メッセージ』で事前に伝えたからな。


「ああ。俺の友だちがジェシカに会いたいって言うから、連れて来たんだよ――なあ、みんな。入って来いって」


 俺の呼び掛けに、ギルドの扉が開いて。エリスが先頭で入って来る。


「アリウス、随分と騒がしいわね。まあ、楽しそうで良いけど」


 豪奢な金髪と、海のように深い青い瞳。ウエストと足は細いのに、出るところは出ているモデルのようなスタイル。


 凛々しい感じの綺麗系美少女の登場に、冒険者たちが騒めく。


「初めまして、貴方がジェシカさんね。私はエリス。アリウスからジェシカさんの話は聞いているわ」


 続く2人の存在感も、エリスに決して負けていない。


「ジェシカさん、こんばんわ。ソフィアです」


 ソフィアはミルクベージュの長い髪で、碧眼の可憐な感じの綺麗系美少女。


「ミリアです。ジェシカさん、よろしくお願いします」


 ミリアは純白の髪で紫紺の瞳で、如何にも『恋学コイガク』の主人公って感じの可愛い系美少女だからな。


「ノ、ノエルです……」


 最後に入って来たノエルだけは、ちょっと浮いている。だけどノエルだって格好が地味なだけで、素材的には美少女だからな。


「アリウス、この人たちって……」


 戸惑うジェシカに、エリスが説明する。


「私たちはアリウスの友だちなの。アリウスがジェシカさんと仲が良いって聞いたから。是非会わせて欲しいってお願いしたのよ」


「そ、そうなんだ……勿論、私とアリウスは仲が良いわよ」


 エリスの発言に照れるジェシカ。エリスは満面の笑みを浮かべると、自然な感じで俺の腕に抱きつく。


「ねえ、アリウス……これって、どういうこと?」


 ジェシカの目が怖いんだけど。それに反応したのはジェシカだけじゃなくて。ミリアたちもジト目で見ている。


「なあ、エリス。どういうつもりだよ?」


「ああ。アリウス、ごめんなさいね。私はジェシカさんの反応が見たかったのよ」


 エリスは俺の腕を放して、悪戯っぽく笑う。憮然としているジェシカ。エリスはマイペースだ。


「ねえ、ジェシカさん。揶揄からかったことは謝るけど。貴方はアリウスともっと仲良くなりたいと思っているわよね。

 私たちも同じだから。同じ想いを抱く者同士として、ジェシカさんとじっくり話がしたいのよ」


 ホント、エリスはストレートな発言をするよな。だけどそんなことを言うと。


「なるほど……アリウス君は、ジェシカのライバルを連れて来たんだね。ジェシカも頑張らないと」


 案の定。マルシアがニマニマ笑っている。


「マ、マルシア! だから余計なことは言わないでよ!」


 ジェシカの抗議なんて、マルシアは聞いていない。


「エリスって言ったっけ? 君って面白いね」


 マルシアはエリスを見ながら、舌なめずりする。


「だけどあたしはジェシカの味方だから。ジェシカの敵に回るなら、虐めちゃうよ」


 マルシアの発言にも、エリスは余裕の笑みを返す。


「マルシアさんを敵に回すのも面白そうだけど。私はジェシカさんと敵対するつもりはないわ」


「君って……ホント、面白いね。色々と隠しているでしょ」


 マルシアはエリスを『鑑定』したけど。エリスのステータスは見えなかったみたいだな。

 レベル的には、エリスはマルシアが鑑定できないレベルじゃない。

 まあ、仕掛けは解っているけど。


S級冒険者・・・・・のマルシアさんにそう言って貰えると嬉しいわね」


 エリスがクスリと笑う。マルシアのことも調べがついているってことか。

 なんかエリスとマルシアの背後に竜と虎が見える感じだな。


「ねえ、アリウス君。あたしはエリスが気に入っちゃったよ。あたしも話に加えて欲しいな」


 マルシアが初対面の相手にこんなことを言うなんて、めずらしいな。エリスにはマルシアが認めるだけのモノがあるってことか。


「まあ、アリウスの頼みだし。マルシアがそこまで言うなら、私も断る理由は無いわよ」


 ジェシカも話をする気になったみたいだな。


「ジェシカさん、ありがとう。だけど貴方と話をしたいのは私だけじゃないわ。ここにいる3人も同席するけど、構わないわよね」


 エリスはジェシカを促して、確認を取る。エリスはこういうところが、抜け目がないよな。


「ええ。それで構わないわよ。じゃあ、ゆっくり話をしましょう」


 エリスがこの場を支配していることに、ジェシカは気づいていないな。交渉に関しては、エリスの方が上手ってところか。


 まあ。エリスがどこまで話をするつもりか、解らないけど。別に話されて困ることなんてないし。

 お互いに話がしたいって言うなら、止める理由なんてないならな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:2,461

HP:25,838

MP:39,345



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る