第92話:爆弾発言


「アリウスは、エリクに訊きたいことが訊けたみたいね。エリクのことだから、予想外のことまで話したんじゃないの?」


 学食に行ったら、エリスにこんなことを言われた。エリスは全部お見通しみたいだな。ホント、エリスとエリクの姉弟だけは敵に回したくないよ。


「アリウスとエリク殿下は、本当に仲が良いわよね。全然性格が違うのに、ちょっと嫉妬しちゃうくらいだわ」


 ミリアが拗ねたような顔をする。


「エリクはアリウスのことを本当に信頼しているのよ。人を信頼するなんて、あの子にしてはめずらしいけどね」


 いや、その発言を学食でするのは、姉としてどうかと思うけど。

 エリスも頭が回るけど、エリクと違って正直に言葉にするんだよな。だけど本当にエリクが困るようなことは、しないだろう。


「エリク殿下とアリウスは性格が違うからこそ、仲が良いんですよ。似た者同士だと同族嫌悪で、意外と仲良くなれないですから」


 今日はソフィアも一緒に昼飯を食べている。『ソフィアを借りるわね』というエリスの一言で、取り巻きたちは引き下がったらしい。


「私はアリウスと性格が結構似ていると思うけど。ソフィアはアリウスと全然性格が違うわよね」


 エリスが意味深な笑みを浮かべると。


「わ、私はそういうつもりでは……」


 ソフィアが頬を染める。こういうところが可愛いって、思わず思ってしまうんだよな。


「私もアリウスとは違うタイプだと思うけど。性格が違う方が相性が良いとか。エリス殿下とアリウスを見ていると、信じられないんだけど」


 納得できないという感じのミリアに。


「まあ、男と女の場合はそうとも限らないってことよ。結局は当人同士の問題だから。ねえ、アリウスもそう思うわよね?」


「いや、このタイミングで俺に話を振るなよ。俺はそういうの良く解らないからな」


 相性の問題なら、俺が一緒にいて一番落ち着くのはノエルだけど。ノエルが一番大切かって訊かれたら、回答に困る。

 俺にとってミリアもノエルもソフィアも大切な友だちで。そしてエリスも――


「そう言えばアリウスには、冒険者にも仲の良い子がいるのよね」


「え……アリウス。その話、私は聞いてないんだけど?」


 ミリアがジト目で見る。


「俺がエリスに話したのは、俺の師匠の1人のことと。昔からの知り合いの冒険者のことだよ」


「アリウスの師匠は、物凄い美人なのよね」


 だからエリス、ちょっと黙ろうか。みんなの目が怖いんだけど。


「ねえ、アリウス。私はアリウスと仲が良いジェシカって冒険者に興味があるのよ。だから今度、会わせてくれない?」


 そんなことをしたら、SSS級冒険者のアリウスがアリウス・ジルベルトだってバレるだろう。


「心配しなくても大丈夫よ。私たち・・が冒険者のフリをすれば問題ないし。ここにいるみんなは口が堅いわよ」


 エリスが何を言っているのか、他のみんなは解っていないみたいだけど。つまりエリスは、みんなも一緒にカーネルの冒険者ギルドに連れて行けって言ってるんだよ。


「私も冒険者登録しているから問題ないわよ」


 ミリアは完全に乗り気だな。ソフィアとノエルは迷っているみたいだけど。


「ねえ、ソフィア、ノエル。貴方たちもアリウスの本当の・・・正体を知りたいわよね?」


 エリスの発言で、2人もその気になったみたいだ――本気マジかよ?


※ ※ ※ ※


 そして同じ日の20時。俺たちはエリスの寮の部屋に集まっている。『今度』とか言っていた筈のに、何故か今夜ジェシカに会いに行くことになったんだよ。

 ちなみにエリスにも護衛兼侍女がいるけど。エリスの意向なのか、ほとんど姿を見ていない。


 俺は午後の授業をサボって最難関トップクラスダンジョン『魔神の牢獄』に挑んで来た。だから寮の門限までの2時間付き合うことに文句はない。

 ジェシカにも『伝言メッセージ』で、これからカーネルの冒険者ギルドに行くことは伝えてある。


「ボロが出るといけないから、最初にキチンと説明しておくわね。アリウスがロナウディア王国宰相の嫡子ということは秘密だから、冒険者には絶対に言わないでね。アリウスが王国の大貴族だってバレると、冒険者としての活動に支障が出るのよ」


 みんなに俺の事情を的確に説明しているのはエリスだ。エリスには俺の正体がバレているからな。王家の情報網を使って、俺が置かれている状況を察したんだろう。


 いや、エリスには以前から、俺の正体をみんなにバラしても良いんじゃないかって言われていたけど。ここまであからさまなことをするとは思っていなかったよ。

 まあ、エリスの言う通り。みんななら俺が困るようなことはしないからな。


「アリウスが冒険者だってことは、学院でも噂になっていますよね。今さらアリウスが貴族だってことを隠す必要があるんですか?」


「アリウスが普通の冒険者ならね。アリウスは世界に10人しかいないSSS級冒険者なのよ」


「「「え……」」」


 みんなも俺が普通じゃないとは思っていただろうけど。さすがにSSS級冒険者とは想像していなかったみたいだな。


「それって……アリウス、本当のことなのよね?」


 ミリアにもSSS級冒険者だとは伝えていなかったからな。


「まあ、そう言うことだよ。ミリアに隠すつもりはなかったけど、自慢したくなかったからな」


「アリウスがSSS冒険者ですか……言われてみれば、納得できますね」


 ソフィアも色々と察するところがあるみたいだな。


「アリウス君が……SSS級冒険者?」


 ノエルは、いまいちピンと来ていないみたいだけど。


「ノエルも他の冒険者から話を聞けば、SSS級冒険者がどういう存在なのか実感できると思うわよ。だけど下手な発言をするとアリウスを困らせることになるから、余計なことは言わないでね」


「は、はい! 私は何も言いません!」


 完全にエリスが仕切っているけど。楽だから構わないけどな。まあ、エリスならジェシカに喧嘩を売ることはないだろうし。


 ちなみにエリクを誘わなかったのは、その必要がないからだけど。バーンを誘わなかったのは、あいつが来るとトラブルの元になるからだ。

 いや、バーンを信用してない訳じゃないけど。空気を読まない発言をしそうだからな。


「それじゃ、アリウス。『転移魔法テレポート』をお願いするわね」


 俺が『転移魔法』を使うことも、エリスは織り込み済みってことだ。

 まあ、SSS級冒険者ならこれくらいの人数を『転移魔法』で運べるのは当然だし。SSS級冒険者で転移魔法を使わないのは、シュタインヘルトくらいだからな。


「エリス、解ったよ。みんな、別に構えなくて良いからな」


 俺は無詠唱で『転移魔法』を発動した。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:2,455

HP:25,774

MP:39,248


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