第87話:先制攻撃


 翌日の木曜日。

 今日は午前中だけ授業に出て。午後からは最難関トップクラス ダンジョン『魔神の牢獄』を攻略する予定だったけど。


「アリウス、一緒にお昼にしましょう」


 教室から出て行こうとすると。目の前にエリスがいた。


 豪奢な金髪と、海のように深い青い瞳。凛々しい感じの綺麗系美少女。

 まあ、外見も目立ち捲っているけど。エリスは王国第1王女だからな。

 エリスの登場に、周りの生徒たちが騒めいている。


「姉上、どうしたんですか?」


 エリクが応対に出ると、完璧な美少年と美少女の姉弟が対峙する構図に、女子たちが黄色い声を上げる。

 エリクの取り巻きのラグナスたちが、エリスに挨拶しようとすると。


「エリク、貴方たちに用はないわ。私はアリウスを迎えに来たのよ」


 エリスの台詞に、生徒たちの視線が俺に集中する。


「エリス。悪いけど、俺はこれから用事があるんだよ」


「どこに行くのかは想像がつくけど。アリウスだって、お昼ご飯は食べるわよね。食べてから出掛ければ良いじゃない」


 エリスは当然という感じで、俺に腕を絡める。クラスの女子たちの黄色い声。エリスは彼女たちを観察している。


「エリス、どういうつもりだよ? 俺とエリスはそういう関係じゃないだろう」


「私はアリウスが女をエスコートするのに慣れていないって言うから。練習相手になってあげようと思っただけよ」


「そういうのはパーティーのときだけで十分だよ」


「そう。ちょっと残念ね」


 エリスは素直に俺から離れると。女子たちの反応を見て、満足そうな顔をする。


「アリウスのクラスには、私が挨拶・・する必要がある人はいないみたいね。アリウス、さあ行くわよ」


 エリスもマイペースだよな。


「昼飯を食べるだけだからな。それ以上は付き合わないよ」


「ええ。解っているわよ」


 エリスは廊下を歩くだけで目立つ。生徒たちがささやく声がそこら中から聞こえる。

 帝国に留学していた筈のエリスが突然帰国して。帝国に2度と戻らないと宣言した話は、学院中で噂になっている。

 だけどエリスは周りの生徒の反応なんて全然気にしていない。


 エリスは王女だから、王族専用のサロンで昼飯を食べると思ったけど。エリスが向かったのは学食だった。


 学食に着くと、他の生徒と同じようにランチのプレートを受け取る列に並ぶ。周りの生徒が遠慮して、順番を譲ろうとするけど。


「その必要はないわ。王族の私がルールを破ってどうするのよ」


 エリスは断わって、普通に順番を待った。こういうところが、如何にもエリスって感じだよな。


 2人でプレートを受け取って、適当に空いている席に座ろうとすると。

奥のテーブルの方から、ソフィアと取り巻きたちがやって来る。


「エリス殿下、お久しぶりです」


 ソフィアが恭しく頭を下げる。ソフィアはエリスに憧れているって言っていたよな。


「ええ、ソフィア。最後に貴方に会ったのは、私が留学する前だから。1年以上経つわね」


 エリスの方は普通にフレンドリーに話をしている。


「エリス殿下。よろしければ、奥の席で私たちとご一緒しませんか?」


 取り巻きたちの期待する目。王族のエリスに近づきたいのと、エリスの噂に興味があるのと両方だな。


「誘ってくれるのは嬉しいけど、今日は先約があるのよ。アリウス、あそこの席が空いているわ」


 エリスはソフィアと取り巻きたちを放置して、さっさと行ってしまう。


「ソフィア、なんか悪いな」


「アリウスが謝ることじゃないですけど。どういう状況なのか、あとで説明してくださいね」


 ソフィアは困った顔をする。まあ、俺だって訳が解らない状況だけどな。


 先に席に座ったエリスのところに向かうと。エリスが揶揄からかうような笑みを浮かべる。


「アリウスはソフィアと仲が良いのね」


「まあ、ソフィアは友だちだからな」


「友だちって……本当にそれだけかしら?」


 エリスは意味深な顔をする。


「エリス、何を言っているんだよ。ソフィアはエリクの婚約者だろう」


「ええ。エリクの政略結婚の相手ではあるわね。だけどソフィアは……まあ、良いわ。アリウス、食事にしましょう」


 学食のランチの味は悪くないけど。とても王族が食べるような豪華な料理じゃない。だけどエリスは美味しそうにランチを食べている。

 周りの生徒たちが意外そうな顔で注目しているけど。エリスはまるで他の生徒なんていないみたいに、俺だけを見ている。


「ねえ、アリウス。この揚げ物、美味しいわよ。はい!」


 フォークに刺した揚げ物を俺の口元に差し出すと。女子たちが黄色い声を上げる。


「エリス、揶揄うなよ」


 エリスは悪戯っぽく笑って。


「そうね。さすがにやり過ぎだわ。だけど、アリウスは昨日たくさん食べていたから。その量じゃ、全然足りないでしょう?」


 昨日の夜にエリスと行った店では、エリクが事前に大量の料理を注文していたから。遠慮なく全部食べたけど。


「学食のランチは無料だからな。俺だけがお替りするのもなんか違うだろう」


「ああ、そういうことね。だったら……」


 このタイミングで。奥のテーブルからミリアがこっちにやって来る。ミリアの後からノエルも、ちょっと気まずそうな顔でついて来ている。


「エリス殿下、初めまして。ミリア・ロンドと申します」


「ノ、ノエル・バルトです……」


 ミリアは笑顔だけど、何故か目が笑っていない。


「私たちはアリウスの友だちなんです。アリウスと一緒にお昼を食べたいので。エリス殿下、私たちも同席して構いませんか?」


 エリスもミリアの態度に気づいているようで。面白がるような笑みを浮かべると。


「ええ、良いわよ。私もアリウスの友だち・・・と話をしてみたかったから」


 エリスが『友だち』という言葉を強調したのは、俺の気のせいじゃないよな。



※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:2,362

HP:24,796

MP:37,758


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る