第88話:宣戦布告


「ええ、良いわよ。私もアリウスの友だち・・・と話をしてみたかったから」


 俺の向かい側にエリスが座っていたから。俺の隣にミリアが、エリスの隣にノエルが座る。


「し、失礼します……」


 ノエルが物凄く居心地悪そうだな。


「一応、私も自己紹介しておくわね。エリス・スタリオンよ。ミリア、ノエル、よろしくね。私が王女だからって、気を遣わないでくれると嬉しいわ」


 エリスは優しげな笑みを浮かべる。コミュ力が高いところは、さすがはエリクの姉ってところか。

 おかげでノエルは少し安心したみたいだ。


「エリス殿下、ありがとうございます……」


 ミリアも拍子抜けした感じで、エリスを見ている。


「2人には悪いけど、少しだけ待って貰えるかしら」


 エリスはそう断わると、収納庫ストレージから20cm四方ほどの装飾された箱を取り出した。

 蓋を開けると、中には料理が詰まっている。


「アリウスはたくさん食べるから、学食のランチじゃ足りないと思って。私の手作りだから、そんなに自信はないけど」


 確かに王室御用達の料理人が作ったって感じじゃない。だけど肉中心の料理は俺好みだ。


「旨そうだな。エリス、食べて良いのか?」


「勿論よ。さあ、遠慮なく食べて」


「じゃあ……うん、旨いな。エリスは王女なのに、料理もできるんだな」


 お世辞じゃなくて、エリスの料理は旨かった。素材が良いのもあるけど、形や並べ方が整っている。丁寧に作った感じだな。


「そう言ってくれると嬉しいわ。私は何事も自分でやってみないと気が済まないのよ。基本的なことを知らないと、人に何も言えないから」


 こんなエリスを王族らしくないと言う奴もいるだろうけど。


「その気持ち、俺も解るよ。人に訊く前に自分で調べるのが基本だって思うし。知識だけじゃ解らないことも多いから、俺も自分で試してみるな」


「そうよね! アリウスとは気が合うわね」


 エリスが嬉しそうに応える傍らで。放置されたミリアがジト目をしている。


「ああ、待たせてごめんなさい。私の用は済んだから、みんなでお喋りしましょう。ねえ、ミリア。普段のアリウスってどんな感じなの?」


 いきなり話を振られて、ミリアは一瞬戸惑う。だけどミリアは物怖じしない性格だからな。直ぐに気を取り直して応える。


「アリウスは授業をサボり捲るし、授業に出ても勝手に本を読んでいるって話ですから。生徒としては不真面目だと思いますよ。

 だけど私やノエルとの約束は必ず守ってくれるし。相手のことを真剣に考えて、悪いところは指摘してくれる。優しくて面倒見が良いんですよ」


「へー……そんな感じなんだ」


 エリスは揶揄からかうような笑みを浮かべて、俺を見る。


「いや、約束を守るのは当然だろう。それにミリアが言うほど、俺は人の面倒なんて見てないからな」


「そんなことはないわよ。アリウスは、みんなのことを守ってくれるし。学院のダンジョンにも、一緒に行ってくれているじゃない」


「そうだよ。アリウス君は私に勉強を教えてくれるし。図書室にも毎週来てくれるよね」


 2人は真剣な顔で言う。いや、そんな風に言われると。柄にもなく照れるだろう。


「アリウスはみんなに好かれているみたいね。素直に認めないところも、可愛いわよ」


「エリス、だから俺を揶揄うなって」


「エリス殿下、私からも訊いて良いですか」


 ミリアは真っ直ぐにエリスを見る。


「アリウスが昨日殿下に会ったことは聞いています。だけど会ったばかりなのに、アリウスと随分親しそうですね」


「そう見えるなら嬉しいわ。たぶん私も貴方たちと同じよ。アリウスは私のことを真剣に考えてくれて。私が思い違いをしてることに気づかせてくれたわ」


 エリスは嬉しそうな顔をする。


「私はアリウスのことをまだ良く知らないけど。誰よりもアリウスのことを知りたいって思っているわ」


「エリス殿下、それって……」


 ミリアにしてはめずらしく言い淀む。


「ねえ。ミリア、ノエル。いきなりやってきて、強引なことをやっていると思われるのは仕方ないけど。私は貴方たちの邪魔をするつもりはないのよ」


 エリスはミリアの視線を正面から受け止める。


「だけど貴方たちに負けるつもりもないわ。私は私のやり方で、やりたいようにやる。貴方たちも自分の気持ちに素直に行動すれば良いと思うわ」


 ミリアはエリスを見つめたまま、不敵に笑う。


「ええ。解りました。エリス殿下、受けて立ちますよ」


「ミリア、貴方とは友だちになれそうね。ノエルも自分のやり方で頑張りなさい」


「え……あの……が、頑張ります」


 エリスは満足そうに笑うと、席を立ち上がる。


あの子・・・にも言っておかないとね」


 エリスの視線の先にいるのはソフィアだ。

 ソフィアはこっちの様子が気になるのか、

俺たちの方を見ていた。


 エリスがソフィアたちのテーブルへと歩いて行くと。ソフィアは立ち上がって、エリスを迎える。


「エリス殿下……」


「ソフィア、貴方も自分の気持ちに素直になった方が良いわよ」


「エリス殿下、すみません。私には殿下が何を言いたいのか解りません」


 戸惑うソフィアに、エリスは優しく笑い掛ける。


「ソフィアがそれ・・で構わないなら、私が口出しすることじゃないわ。だけどは貴方にも何をすべきなのか、教えてくれたんじゃないの?」


 俺とソフィアのことを、エリスはどこまで知っているのか。全部知っているような口ぶりだけど。


「ソフィアが公爵家を守りたい気持ちは解るわ。だけど自分が本当に何をしたいのか。後悔だけはしないようにね」


 ここまであからさまだと、俺にもエリスが何をしたいのか解る。

 宣戦布告――大げさかもしれないけど、そういうことだな。


 他の生徒たちの前で宣言したことで、自分とみんなの逃げ道を塞いだことになる。

 だけど――


「エリス。悪いけど、俺にそのつもりはないからな」


 ここまでハッキリした態度を見せられたら、いい加減なことは言えない。俺は恋愛に興味がないからな。


 だけどエリスは自信たっぷりに笑う。


「アリウス、そんなことは解っているわよ。だけど今は・・って話よね。私は貴方の気持ちを絶対に動かして見せるわ」


 その笑顔が眩しくて。俺は思わず見惚れてしまった。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:2,362

HP:24,796

MP:37,758

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