第85話:仕返し


「エリクから聞いた訳じゃないわよ。私だってロナウディアの第1王女だから、それなりの人脈はあるわ。それに私が確信したのは、たった今・・・・よ」


 エリスにカマを掛けられて、俺がSSS級冒険者だってバレた。やっぱり、エリスは侮れないな。


「それでも皇帝との血縁関係の方が何倍も価値があるだろう。俺は所詮冒険者なんだし」


「あら、誤魔化さないのね。王国宰相の息子がSSS級冒険者だってバレると、色々と面倒じゃない?」


「エリスがバラしたらな。だけどバラしても別に構わないよ。俺が貴族を辞めれば済むだけの話だし。

 まだ子供の弟と妹に宰相を継ぐことを押しつけることになるけど。そのときは全力でサポートするよ」


 エリスはマジマジと俺を見る。


「アリウスは本当に貴族の地位に執着していないのね。だけど貴族の責任を放棄するなんて、無責任だと思わないの?」


「ジルベルト侯爵家に家臣はいないんだよ。だからもし弟と妹も侯爵の地位を継がなくても、形だけ治めている領地を王国に返還するだけの話だ。

 侍女や家庭教師とか雇っている人はいるけど、次の就職先を紹介することくらいできるし。今の俺なら今後の生活を保障する金を渡すこともできるからな」


 俺の回答に、エリスは納得しなかった。


「だけど育ててくれたご両親や弟と妹に対して、無責任なことをするのは変わらないわよね」


「その通りだな。相手が家族というだけで、俺は責任を放棄することになる。だけど仮にジルベルト家に家臣がいたとしても、結局俺は同じ選択をすると思うよ。みんなには悪いけど、貴族を辞めるか冒険者を辞めるかの二択なら、俺は貴族を辞める」


「それって無責任なことが解っているのに、自分の我がままを押し通すってことよね」


 エリスが言っていることは正しい。だけど――


「ああ。俺は我がままなんだよ。自分がやりたいことを、人のために止めるつもりはない。

 迷惑を掛けた奴には、できるだけのことをするつもりだけど。開き直っていると言われたらその通りだしな」


「アリウスは自分のためなら、他人を犠牲にしても構わないって思っているの?」


 エリスは責めるように俺を見るけど。


「いや、それとこれとは話が別だ。大切な奴のことは守りたいと思うけど。俺が宰相の地位を継ぐことが、大切な奴を守ることに繋がるとは限らないし。

 俺は他人の期待や責任に縛られることが正解だとは思わない。結局選択するのは自分だからな。自分の頭で考えてどんな選択をしたとしても、自分がしたことの責任を取る覚悟があれば良いと思っているよ」


 どんな結果になっても自分で責任を取れるなんて、己惚れている訳じゃない。

 責任を取れないことを罵られたり、その罪を背負うことも含めて覚悟しているだけだ。


 結局のところ、俺は自分がやりたいことしかやるつもりはないんだよ。


 エリスは俺を見つめたまま、しばらく黙っていた。

 海のように深い青の瞳が、俺の真意を見定めようとしているようだ。


「ねえ、アリウス。そんな風に言えるのは、貴方が強いからよね」


「俺より強い奴はたくさんいるけどな。それに強さには色んな意味があるだろう。俺に言わせれば、エリスは十分強いと思うけど」


「それって、どういう意味かしら?」


 エリスの瞳が挑発するように光る。まあ、この反応は予想していたけど。


「エリスの実力なら、ドミニク皇太子と結婚しない選択肢もあるんじゃないかってことだよ。

 俺はエリスのことを良く知らないから、それこそ無責任なことは言えないけど。エリスなら他の手段でロナウディア王国に利益をもたらすこともできるんじゃないか」


 今の俺に解るのは、エリスのレベルとステータスにスキルくらいだけど。それだけでもエリスという人間が才能だけじゃなくて、弛まぬ努力を続けて来たことは解る。


「アリウス。もしかして、私のことを口説いているの?」


「いや、そうじゃないって。だけど俺がエリスに興味があるのは本当だし。今日話してみて、エリスという人間にもっと興味が湧いたよ」


「それは……光栄ね。私もアリウスに物凄く興味があるわ。色々な意味でね」


 エリスは揶揄からかうように笑う。俺と1歳違いの筈だけど、こういう表情をするとエリスは大人っぽく見えるな。


「まあ、エリスが本気で他の選択肢を選ぶなら。俺にできることは協力するよ」


「ねえ、アリウス。本当に私のことを口説いている訳じゃないのよね?」


 エリスがジト目をする。


「だから、さっきから言っているだろう。俺はエリスという人間に興味があるんだよ。エリスが本気なら、俺にできることをしたいと思うくらいにね」


 ソフィアとミリアにノエル、ジェシカも大切な仲間だからな。俺はあいつらを守りたいと思う。

 だけどエリスはちょっと違うな。守りたいと言うよりも、手を貸したいと思う。


「良いわ。今日のところは、そう言う・・・・ことにしてあげる」


 エリスは満面の笑みを浮かべる。何がそんなに嬉しいのか、良く解らないけど。曇りのない綺麗な笑顔だと思う。


「そう言うことも何も……まあ、良いけどさ」


「真面目な話はこれくらいにして。アリウス、今日は私をエスコートしてくれるのよね?

 エリクの店を選ぶ趣味は良いから、ちょっと期待しているんだけど」


 エリスもマイペースだよな。


「エリクと約束したからな。エスコートくらいするけど」


「それってエリクとの約束だから、仕方ないってこと?」


 エリスが意地の悪い顔をする。だけど、そっちがその気なら――


 俺はエリスとの距離を詰めて、海のように深い青の瞳を覗き込む。


「ア、アリウス。な、何……」


 突然のことに慌てるエリス。俺はニヤリと笑う。


「そんな筈がないだろう。こんなに綺麗なエリスをエスコートできるなんて、光栄だよ」


 俺としては揶揄い返したつもりだけど。何故かエリスは真っ赤になった。



※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:2,362

HP:24,796

MP:37,758

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る