第83話:やりたいこと


 最難関トップクラスダンジョン『魔神の牢獄』3階層の広大な空間。


 全てを吸い込んで消滅させる『ダークの力場フォースフィールド』。


 何もない場所から突然出現する『闇の斬撃ダークエッジ』。


 まるで中二病のような名前だけど。体長25m級の『闇の魔神』が放つ攻撃は、1発でも直撃すれば俺のHPを半分以上持っていく。

 それが1,000体以上いるんだから――血が滾って堪らないよな!


 俺は『索敵』で3階層全体の敵の位置を把握しながら。同時に目の前の『闇の魔神』の動きに反応する。


 一瞬前まで俺がいた場所に『闇の力場』が炸裂。短距離転移した瞬間、周りの『闇の魔神』たちが一斉に『闇の斬撃』を放つ。


 俺はわずかな攻撃の隙間を擦り抜けながら、『闇の魔神』を確実に仕留めていく。


 高速回転する思考。思考を完璧にトレースする動き。コンマ数秒の差でギリギリ躱しているけど、攻撃が当たる気がしない。俺は確実に強くなっている。


 だけどまだ足りないんだよ。もっと速く。もっと強くならないと。

 俺はソロで『魔神の牢獄』を攻略するんだからな。


※ ※ ※ ※


 火曜日きのうの午後は授業をサボって『魔神の牢獄』に直行。10時間ぶっ続けで挑み続けた。


 そして今日の午前中は、座学の授業を本を読んで過ごして。水曜日だから昼休みはノエルとの約束で図書室に行く。

 すると何故かミリアまで一緒にいたから、3人で学食に向かう。


「アリウスは今日、エリス殿下と話をするのよね」


 昼飯を食べていると、ミリアがジト目で見ていた。

 

「ああ。だけど本当に話をするだけだからな」


「それは解っているわよ。アリウスは嘘をつかないから」


「でもアリウス君は優しいから。ちょっと心配かな……」


 別に俺は優しくないけど。2人が何を心配しているのか想像がつく。

 俺の性格だと、エリス王女の件に思いきり巻き込まれそうだと思っているんだろう。


「2人が心配してくれるのは嬉しいけど。俺も馬鹿じゃないからな。余計なことをする気はないよ」


 エリス王女という人間に、俺が興味を持っていることは事実だ。だけど、だからと言って、他人の俺が余計な口出しをするつもりはない。


「確かにアリウスは余計なことはしないけど。余計だと思わないなら、相手が誰だろうと遠慮なんてしないわよね」


「まあ、そいつにとって余計なことじゃなくて。俺がやりたいと思うならな」


「アリウスがそういう奴・・・・・だってことは解っているわよ。だから止めるつもりはないけど……貴方の行動に対して相手がどう想う・・・・か。それも考えた方が良いわよ」


「ああ、そうだな。相手が迷惑だと思うなら、無理強いはしないよ」


 何故かミリアが溜息をつく。


「だから、そういうことじゃなくて……」


「アリウス君は、自己評価が低過ぎるよね」


 ノエルまで困った顔をする。まあ、何が言いたいのか何となく解るけど。他人が俺をどう評価するとか、そんなことには興味がないし。ノエルたち友だち以外に、どう思われようと関係ないからな。


 ふと視線を感じると。取り巻きや他の生徒たちと一緒のテーブルにいるソフィアが、こっちを見ていた。

 目が合うとソフィアは微笑むけど。なんとなくソフィアまで困った顔をしているように感じるのは、俺の気のせいか。


※ ※ ※ ※


 放課後。俺は王家の馬車が止まっている学院の正門の方へ向かう。


「アリウス・ジルベルト様、お待ちしておりました」


 馬車の前で俺を出迎えたのは、白髪で白髭を整えた老紳士って感じの男。レベルが高いし、エリス王女の護衛兼御者ってところか。


「私を待たせるなんて。アリウス卿は、噂通りに大胆不敵な性格のようね」


 馬車の中には、すでにエリス王女がいた。


 豪奢な金髪。海のように深い青い瞳。凛々しい感じの綺麗系美少女。

 今は制服じゃなくて、肩が露出した青いドレスを着ているから。ウエストと足は細いのに、出るところは出ているモデルのようなスタイルがハッキリ解る。


 俺も制服から着替えて、それなりの格好をしている。シルクのシャツにジャケット、アスコットタイ。まあ、最低限だけどな。


「約束の時間まで、まだ少しありますよね。俺も暇じゃないんですよ」


「あら、嘘は良くないわね。アリウス卿が授業をサボる不真面目な生徒だってことは、私も知っているわよ」


 エリス王女は文句を言っているけど、嫌味には感じない。俺を揶揄からかっているんだろうな。


「授業で忙しい訳じゃなくて。俺には他にやることがあるんで、そっちが忙しいんですよ」


「そんなに忙しいなら、無理して私に付き合う必要はないわよ。エリクから何を聞いているか知らないけど。私を説得しようとしても無駄だから」


 エリス王女も、とりあえず俺に会えって言われたクチだな。エリクと言うよりも、国王に言われたことを無視する訳にはいかないってところか。


「まあ、面倒なことにつき合わされたとは思っていますけど。俺はエリス殿下に興味があるんですよ」


 理由を取り繕うつもりはない。適当なことを言っても見透かされるだろう。

 相手はエリクの姉で、天才と呼ばれるエリス王女だからな。


「アリウス卿が私に興味を? 貴方は女性に不自由しているようには見えないけど」


「いや、そういう意味じゃないですよ。女性としてのエリス殿下には一切興味がありません。俺が興味あるのは、王族なのに貴族との付き合いが嫌いなところとか。派閥を作らないところとか。

 あとは最初に言っておきますけど。俺は殿下を説得するつもりはありませんから」


「女として興味がないなんて、それはそれで随分と失礼だと思うけど……説得するつもりがないってのは本当かしら?」


 エリス王女は完全に疑っているな。エリクの奴は全然説明してないのか。


「まあ、疑うのは仕方ないですよ。説得しないなら、俺がエリス殿下に会う意味がないと思いますよね。だけど国王陛下とエリクには別の意図・・・・があるみたいですよ。俺はエリス殿下を説得しないことを条件に、殿下と会うこと承諾したんですから」


そういう・・・・こと……陛下は貴方のことを随分と買っているみたいね」


 エリス王女は呆れた顔をする。だけど彼女が呆れているのは、国王やエリクに対してじゃない。結局、俺の目当てがそういう・・・・ことだと思ったんだろう。


「まあ、信じてくれとは言いませんけど。俺は王家の地位や権力に興味がないので、陛下の思惑に乗るつもりはありませんよ」


「だったら、それこそ貴方の目的は何よ?」


 ここまで素直に言ったら、逆に疑われることは解っていたけど。


「だから、さっきから言っているじゃないですか。俺は女性としてでも、王女としてでもなく。エリス殿下という人に興味があるんですよ」


 俺は自分がやりたいことをやるだけだ。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:2,362

HP:24,796

MP:37,758


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