第82話:理由


 翌日の火曜日。午前中は学院の授業に出た。

 明日はエリス王女と会うことになっているけど、俺は通常モードだ。

 エリクと約束したのは、エリス王女と話をすることで。説得することじゃないからな。


 昼飯を食べるために学食に行く。

 ランチのプレートを受け取って、適当に席を探していると。奥のテーブルでソフィアとサーシャ、ミリアにノエルの4人が一緒に昼飯を食べていた。


 先週の水曜日にミリアとノエルを引き合わせたのに。あっという間にノエルも、みんなと仲良くなったみたいだ。


 俺に気づいたミリアとノエルが、こっちにやって来る。


「アリウスも今からお昼なんだ。ねえ、良かったら一緒に食べない?」


「そうだよ、アリウス君。みんなで一緒に食べようよ」


 まあ、断る理由はないからな。俺は2人と一緒に奥のテーブルへ向かう。


「「「アリウス様!」」」


 同じテーブルで食事をしているソフィアの取り巻きたちが反応する。

 おかげで他の生徒からも注目されたけど。まあ、いつものことだからな。


「ほら、アリウス。ここに座って」


 ミリアとノエルが2人の間の席を空ける。向かい側に座っているのは、ソフィアとサーシャだ。


「アリウスと一緒にお昼を食べるなんて。ちょっと新鮮な感じですね」


 ソフィアがクスリと笑う。思わず見惚れてしまいそうな笑み。やっぱり、ソフィアは完璧な美少女だよな。


「俺は1人で飯を食べる主義だからな。まあ、たまにはこういうのも悪くないけど」


「そうですね。アリウスは授業をサボることが多いみたいですから。学院にいるときくらい、私たちと一緒にお昼を食べても良いじゃないですか」


 俺とソフィアの会話に、ソフィアの取り巻きたちが耳をそばだてて。『やっぱり、ソフィア様とアリウス様は……』なんて小声で囁いている。だから、聞こえているからな。


「ねえ、アリウス。今週の土曜日、一緒にダンジョンに行くことは忘れてないわよね?」


 俺は2週間に1度のペースで、ミリアとバーンと一緒に学院のダンジョンを攻略している。

 2人は本気で強くなりたいみたいだからな。それくらい付き合うのは当然だろう。


「ああ、勿論。ミリアは自主練をしっかりやってるみたいだな」


 ミリアを『鑑定』したら、ステータスとMPが確実に伸びている。しっかり自主練をやっている証拠だ。


「当たり前でしょう。でもアリウスはそんなことも解っちゃうのね。これじゃ自主練をサボれないじゃない」


 ミリアは顔を赤くして、照れ隠しのように言うけど。練習をサボるような奴じゃないことは解っている。


「ミリアはアリウス君と一緒にダンジョンを攻略しているんだ……」


 ノエルが羨ましそうな顔をする。


「ノエル、勘違いしないでよ! バーン殿下も一緒だからね。私は強くなりたいから、アリウスに鍛えて貰ってるのよ」


「そ、そうなんだ……」


 ノエルは微妙な反応だな。


「ノエルも強くなりたいなら、一緒に行くか?」


 ノエルは強さを求めるタイプには見えないけど。魔法が得意だし、結構努力家だからな。


「でも私は強くないから……」


「いや、今強いかどうかじゃなくて。ノエルが強くなりたいかって話だよ」


 勿論、ノエルに無理強いするつもりはない。強さと無縁の生き方だって幾らでもある。


「まあ、その気になったら言ってくれよ。俺がサポートするからさ」


「うん。アリウス君、ありがとう」


 ノエルは嬉しそうだけど。迷っているみたいだな。


「そう言えば。ソフィアはエリス殿下のことを良く知っているのか?」


 エリス王女について、探りを入れている訳じゃない。

 ほとんど習慣みたいなもので、エリス王女のことは調べた。


 グランブレイド帝国に留学するまで、エリス王女は学院に通っていて。非の打ち所のない優秀な生徒だった。


 だけど社交界が嫌いなエリス王女は、エリクやソフィアみたいに派閥の取り巻きに囲まれることもなく。親しい友だちもいなかったみたいだ。


 王族なのに貴族と付き合わない。そんなエリス王女に、ちょっと興味が沸いたんだよ。

 ソフィアはエリクの婚約者だからな。社交界に顔を出さないエリス王女とも会ったことがあるだろう。


「ええ。エリス殿下は私の憧れですから」


 ソフィアが誰かに憧れるなんて、なんか意外だな。ソフィアは自分が信じる道を進んでいるように見えるから。


 俺の内心を察したのか。ソフィアが苦笑する。


「私はアリウスが考えているような人間じゃないですよ。エリス殿下に憧れて、殿下のようになりたいと努力しただけです」


「俺はエリス殿下のことを良く知らないけど。聞いた限りだと、ソフィアとはタイプが違うように思うんだよ」


「アリウスはエリス殿下が社交界に顔を出さなかったり、派閥を作らないことを言っていると思いますけど。エリス殿下は強い方ですから、人に頼るのも頼られるのも嫌いなんです。全部自分だけの力でやる方ですから」


 ソフィアも力を求めている。俺とは違う意味で。

 ビクトリノ公爵の娘として責任を果たすために。エリクの隣に立つ者として認められるために。


 そんなソフィアが憧れるエリス王女が、どういう奴なのか――さらに興味が沸いたな。


「へー……アリウスは、エリス殿下に随分興味があるみたいね。殿下は凄く綺麗な人だったから」


 試験の結果が張り出されたとき。俺は初めてエリス王女を見たけど。ミリアもその場にいたからな。


「いや、ミリア。俺はそういう・・・・意味で、エリス王女に興味がある訳じゃないからな」


「でも興味があることは否定しないんですね」


 ソフィアが悪戯っぽく笑う。ソフィア。おまえ、わざと言っているだろう。


「え……アリウス君は、女の子を見た目で判断しないんじゃなかったの?」


 前にノエルとそんな会話をした気もするけど。なんで俺がエリス王女の見た目に興味がある前提で話をしているんだよ。


「俺はエリクに頼まれて、エリス王女と会うことになったから。調べているうちに、エリス王女という人間に興味が沸いたんだよ」


「アリウス、それって……」


 今、エリス王女と会うなんて話をしたら。火に油を注ぐことになるのは解っている。だけど隠すようなことじゃないからな。


「他の奴が何を企んでいるのか解っているけど。俺はエリス殿下と話をするだけだ」


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:2,354

HP:24,712

MP:37,630

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