第81話:分岐点
カーネルの街の冒険者ギルドで、みんなと夕飯を食べている。
だけど、なんで俺が他の奴らのメシまで奢ることになっているんだよ。
「まあまあ。太っ腹のアリウス君は、結局奢ってくれるんだよね」
「あんたは……マルシアのせいで、アリウスが
「ジェシカは何を言っているのかな。アリウス君は、そんな細かいこと気にしないよね」
まあ、メシ代くらいどうでも良いけど。マルシアのせいで奢らされるのは、ちょっとムカつくな。
俺に喧嘩を売った6人の女子は、端の方のテーブルでメシを食べている。こっちを窺う視線には、色々な感情が入り交じっているな。
ロングウェーブの女子、レイが仲間を起こすために使ったバケツの水は、6人の女子が自分たちで片付けていた。
マスターの無言の圧力に、耐えられなかったようだな。
「それにしても。あいつらを見ていると、昔のジェシカを思い出すよ」
5年前にカーネルの街を訪れたとき。俺に唯一喧嘩を売ったのは、当時15歳のジェシカだからな。
「ア、アリウス。私はあいつらほど酷くなかったでしょ!」
まあ、グレイとセレナに憧れていたジェシカの場合とは、全然状況が違うけどな。
6人の女子はしばらくこっちを窺っていたけど。意を決したように立ち上がって、俺たちのテーブルへやって来た。
「なあ、あんた……マジでSSS級冒険者のアリウスなのか?」
ツインテール女子、ヘルガがバツが悪そうな顔をする。
レイに水を掛けられたときは、また飛び掛かって来そうな勢いだったけど。俺がSSS級冒険者だと知って、自分がしでかしたことに気づいたのか。
「ああ、そうだけど。相手の実力も計れない奴が、やたらと喧嘩を売るなよ。そんなことをしてたら、早死にするからな」
ヘルガは悔しそうな顔で黙り込む。何もできないで俺に気絶させられたから、言い返しようがないんだろう。
「アリウスさん、今回の件は本当に済みませんでした。その上メシまで奢って貰って、申し訳ないと思っています」
レイが深々と頭を下げる。こいつが6人のリーダーってところか。
「反省しているなら、もう良いって。メシくらいで、どうこう言うつもりもないしな。おまえら、メシでも酒でも好きに注文しろよ」
「さすがはSSS級冒険者だな。私たちと稼ぎが違うって訳だ」
冒険者ギルトで武器を抜こうとしたショートボブ女子が、ニヤリと笑う。
「おい、ルージュ。ふざけるのも良い加減にしろ!」
レイが嗜めるけど。こいつらのリーダーをやるのは大変そうだな。
「なあ、アリウスさん。さっき私たちを気絶させた早業、マジで凄えな!」
「そうそう。全然動きが見えなかったぜ!」
「なあ。どう鍛えたら、あんな動きができるんだよ?」
ポニーテール、前髪ぱっつんショート、ストレートロングの3人が、興味津々という感じで俺を見ている。だけどこいつら、全然反省してないよな。
「おまえたちまで……アリウスさん、本当に何度も済みません! あとでキチンと言い聞かせますので」
「いや、こいつらは
痛い目を見ないと解らないなら仕方ない。そこまで面倒を見てやるつもりはないからな。
「1つだけ忠告しておくけど。好き勝手にやりたいなら、もっと強くなるんだな」
我がままを通すには実力がいる。だけどこいつらは所詮B級冒険者だからな。
しかも『白銀の翼』の次にS級冒険者になるのは自分たちとか、舐めたことを言ったから。冒険者ギルドで完全に浮いている。自分たちだけで頑張るしかないな。
「いや、ちょっと待ってくれ!」
話に割り込んで来たのは、ツインテール女子のヘルガだ。
「手も足も出ずにあんたに負けて、私は実力の違いを思い知ったんだ。自分が思い上がっていたって、解ったんだよ」
ヘルガは真剣な顔で俺を見る。
「アリウスさん、済まなかった……勘弁してくれ」
自分たちと同類だと思っていたヘルガの態度に。レイ以外の4人がシラケた顔をする。
だけど俺は、キチンと反省して前に進もうとする奴は嫌いじゃない。
「なあ、ヘルガ。ここからは、おまえ次第だからな。だけど変な期待はするなよ。おまえの面倒を見てやるほど、俺は暇じゃないからな」
「そんなことは解ってる。今さらあんたに頼めるかよ」
「だけどおまえを鍛えてくれる奴を紹介くらいはしてやるよ――なあ、ゲイル。ヘルガの面倒を見てくれないか。勿論、相応の報酬は払わせるから」
ゲイルたちのパーティーは、今はそこまで真剣にダンジョンを攻略していない。だから時間的な余裕はある筈だ。
それにもう1つ、ゲイルに頼むことには理由がある。
「ガキの面倒を見るくらい構わねえけどよ。お嬢ちゃん、俺はアリウスみたいに優しくないぜ」
いきなり話を振ったのにゲイルは文句を言わない。こいつは意外と面倒見が良いんだよ。だけど俺は優しくないからな。
ヘルガがゲイルの実力を見定めようと目を細める。
「私にはあんたがどれだけ強いのか解らない。こっちから頼むのに悪いが、実力を試させて貰って構わないか?」
「ああ、別に良いけどよ。だけど怪我しても文句を言うなよ」
冒険者ギルドの鍛錬場で行ったヘルガ対ゲイルの模擬戦は、1分で片が付いた。
開始早々にヘルガは投げ飛ばされて。唖然としているヘルガにゲイルが剣を突きつけて、それで終了だった。
まあ、ゲイルのレベルは200を余裕で超えているからな。当然の結果だろう。
「……ああ、解ったよ。ゲイルさん、私の完敗だ」
素直に負けを認めるヘルガに。今度もレイ以外の4人の女子が、こんなオッサンに負けるなんてあり得えないと蔑んでいる。
「てめえら、好きに言えよ。私はパーティーを抜けるからな。ゲイルさん、下働きでも何でもやるから、私に戦い方を教えてくれ」
「お嬢ちゃん、良い心掛けだな。俺が徹底的に鍛えてやるぜ」
こう言うと何だけど、ゲイルは冒険者として停滞している。それなりに強くなったことに満足して、目標を見失っている感じなんだよ。
だから余計なお世話かも知れないけど。ヘルガを教えることが、ゲイルの刺激になるじゃないかって思ったんだ。これがゲイルにヘルガのことを頼んだもう1つの理由だ。
「ヘルガ、てめえ……裏切るのか」
ショートボブ女子、ルージュがヘルガを睨む。
「パーティーに入るのも抜けるのも自由だろう。下らないこと言うなよ」
まあ、ゲイルが面倒を見るんだからな。ルージュが下手なことを考えても、ヘルガに手は出せないだろう。
「なあ、レイ。おまえはどうするんだよ?」
レイも他の4人と違って真面だからな。真面目にやる気があるなら、他のパーティーを紹介しても良いけど。
「アリウスさん、私は……こいつらの面倒を見る責任がありますので」
リーダーだから仲間を見捨てられないか。まあ、それも選択肢だろう。だけどレイはこれからも苦労しそうだな。
「アリウスが何を考えているのか、私にも解るわよ」
ジェシカが小声で囁く。
「あの子たちをダンジョンで見掛けたら気に掛けて欲しいって、他のパーティーのみんなに言っておくわ。ホント、アリウスは女子に甘いわよね」
「ジェシカ、助かるよ」
まあ、俺にできることはここまでだ。レイも冒険者なんだから、あとは自己責任だな。
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アリウス・ジルベルト 15歳
レベル:2,354
HP:24,712
MP:37,630
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