第80話:言ってないって
「何だ、デカブツ……てめえに用はねえんだよ」
ツインテール女子にいきなり睨まれる。俺はこいつらよりも年下だし、見た目もせいぜい10代後半だから。同世代だと舐められているんだろう。
たけど俺は舐められるのが嫌いなんだよ。
「元気が良いのは結構だけど。狂犬みたいにやたらと噛みつくなよ」
「チッ……てめえ!」
ツインテール女子の目が座る。
「どうせデカいだけの癖に、イキがるんじゃねえぞ!」
後ろにいる5人の女子は、それぞれ反応が違った。
ショートボブ女子が、面白いモノが始まったとニヤニヤ笑っている。ロングウェーブ女子は、俺の実力を見定めようと目を細める。
「ヘルガ、
「そうだぜ。冒険者は舐められたらお仕舞いだからな」
「ガキ1人に舐められてどうするよ」
ポニーテール、前髪ぱっつんショート、ロングストレート女子の3人は加勢をするつもりなのか。俺との距離を詰めて来る。
「あんたたち……」
ジェシカは6人の女子を睨みながら、俺の方に来ようとしている。
だけどジェシカに手を出させたら、こいつらがヤバいことになりそうだからな。視線でジェシカを止める。
『ギュネイの大迷宮』でジェシカたちにダメ出ししたとき。視線だけで連携することを教えたことが、妙なところで役に立ったな。
ツインテール女子、ヘルガが身を低く、両腕をクロスして構える。やる気だけは十分だな。
「俺に喧嘩を売るなら買ってやるけど。面倒だから、やるなら纏めて掛かって来いよ」
「てめえ、ふざけやがって!」
殴り掛かって来たヘルガを軽く避けると。俺が避けた場所を狙って、ポニーテール女子がハイキックを入れる。
ギリギリで躱すと。今度はショートカットとストレートロング女子が、背中と足元を同時に狙う。まあ、それなりに連携はできているな。当然、全部避けるけど。
「おまえらに、これ以上付き合うつもりはないからな」
俺は加速すると、ヘルガの眼前に迫る。
「な……」
反応する前に手刀で意識を奪う。
間髪を入れずに、ポニーテル、ショートカット、ストレートロング女子と、続けざまに手刀を入れて意識を刈り取る。
「てめえ……何しやがった?」
ニヤニヤ笑っていたショートボブ女子の顔色が変わる。
こいつには俺の動きが見えなかったんだろう。警戒心全開で腰の剣に手を伸ばす。
「おまえ、馬鹿だろう」
俺は一瞬で距離を詰めて、意識を奪う。冒険者ギルドで武器を抜いたら、こいつは犯罪者確定だからな。
「おまえで最後だけど。どうする?」
残ったのは、俺の実力を見定めようとしていたロングウェーブ女子。
ロングウェーブ女子は唖然として、マジマジと俺を見ている。
「あんた……何者だ?」
「おまえら、冒険者の癖に。マジでアリウスさんだって、気づいてねえんだな」
応えたのは俺じゃなくて、これまで傍観していたアランだ。凄みを利かせてロングウェーブ女子を睨みつける。
「おい、B級のガキ。仲間が殺されなかったことを、アリウスさんに感謝しろよ」
なあ、アラン。相手は子供なんだから、そこまで脅すなって。
「アリウスって……まさか、SSS級冒険者の? いや……SSS級冒険者のアリウスは、カーネルの街からいなくなった筈だ」
俺が学院に通いながら、カーネルの街に毎日のように顔を出したことで。SSS級冒険者のアリウスとアリウス・ジルベルトは別人だと、世間的には認識されたみたいだからな。
アリバイ作りの必要はもうないかと。最近はカーネルの街に来ることが減ったけど。
「SSS級冒険者のアリウスは、今どこにいることになっているんだよ?」
「いや、行方知れずだから。
無責任な噂にしては、的を射ているじゃないか。
だけどさすがにソロで攻略しているとは、思われてないよな。まあ、バレたらバレたで構わないけど。
「ほ、本当に……あんたがSSS級冒険者のアリウスなのか?」
「あんたねえ。そんなことより、先に言うことがあるんじゃないの?」
ここまで我慢していたジェシカが、ロングウェーブ女子の前に進み出る。
いや、ホントはもっと前に動こうとしていたけど。アランに先を越されたんだよ。
「生意気なことをして済みませんでしたって、アリウスに謝りなさいよ。それともあんたも、アリウスにボコボコにされたいの?」
ジェシカは本気で怒っている。放っておいたら、ジェシカがこいつらをボコボコにするんじゃないか。
「す、済みませんでした……」
ジェシカの迫力に負けて、ロングウェーブ女子が深々と頭を下げる。
「なあ、ジェシカ。それくらいで良いだろう」
「もう、アリウスは女子に甘いんだから」
ジェシカが頬を膨らませる。確かに俺は女子に甘いと思うけど。ジェシカ、おまえだって5年前に俺に喧嘩を売ったじゃないか。
「とりあえず、こいつらを起こしてやれよ。まだ喧嘩を売るなら、次は容赦しないからな」
ロングウェーブ女子は、マスターに頼んでバケツに水を貰うと。仲間たちに頭から水をぶっ掛ける。
「ゴホゴホッ……レイ、何しやがる」
真っ先に目を覚ましたのは、ツインテール女子のヘルガだ。
一瞬、どういう状況なのか解らないようだったけど。俺に気づくと、犬歯を剥き出しにて立ち上がる。
「ヘルガ、止せ。私たちの完敗だ。みんなも手を出すなよ。死にたくないならな」
ロングウェーブ女子、レイの冷ややかな声に。ヘルガが舌打ちする。
他の4人も目を覚ましたけど、さすがに続きをやるつもりはないみたいだ。
「まあ、良い勉強になったんじゃないかな。喧嘩を売るなら、相手を見てからにしないとね」
騒ぎの間も料理と酒に夢中だったマルシアがニヤニヤ笑う。
「ここは太っ腹のアリウス君が、みんなに奢ってくれるから。とりあえず手打ちってことで良いよね」
おい、マルシア。何を言っているんだよ。
周りの冒険者たちも、勝手に盛り上がっているけど。そんなこと、俺は言っていないからな。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 15歳
レベル:2,354
HP:24,712
MP:37,630
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