第79話:新人
放課後。俺は国王とエリクの狙いを探るために、諜報部に乗り込む。
王家の情報を訊く相手として、ダリウスは最適だからな。
ちょうどレイアも一緒だったから。2人と話すことになった。
「今回の件は俺も反対したんだ。だけど陛下がどうしてもって言うからな。まあ、国際問題については俺がどうにでもするから。アリウスは自分の好きにすれば良い」
国王はエリス王女をドミニク皇太子と結婚させることを基本線に。それがダメでも、あわよくば俺とエリス王女を――って考えているらしい。まあ、予想通りだけどな。
「そこまで知っているなら、もっと早く教えて欲しかったよ」
「アリウス、悪いわね。エリク殿下から話を聞いたときの反応が見たいって。陛下に口止めされていたのよ」
エリス王女の件に関する俺の反応を探ることも、国王の狙いの1つってことか。想像していた以上に、俺は国王に気に入られているみたいだな。
「まあ、何れにしても。エリス殿下のことで、アリウスが責任を感じる必要はないからな」
ダリウスはエリス王女とドミニク皇太子の婚約が破棄された場合を想定して。水面下でグランブレイド帝国と交渉しているらしい。今回の件がどう転がろうと、手は打ってあるってことだな。
まあ、状況は理解したけど。俺が知りたいのはエリクの本音なんだよ。
「なあ、父さん。エリクとエリス殿下って、どんな関係なんだよ?」
「そうだな。姉と弟と言うよりも、ライバルって感じだな」
エリス王女は社交界にほとんど顔を出したことがないけど。ダリウスは王国宰相だから、エリス王女のことを良く知っている。
エリクもエリス王女も天才と言われているし。2人とも王位継承権上位だから、姉弟でもライバルになるのは解る。
だけど今のエリクは、エリス王女をライバルとは思っていないだろう。すでにエリクは王国内の影響力を高めて、次のステージに立っているからな。
エリクは俺を取り込みたいと思っている。それは間違いないだろう。だからエリス王女の件も、俺を取り込むために利用するつもりなのか?
王族の世界が綺麗ごとばかりじゃないことは解っている。だけど自分の目的のために自分の姉を利用することが正しいとは思わない。
いや、正しいとか正しくないじゃなくて。そういうの、俺は嫌いなんだよ。
だから俺はエリクの本音を知りたいと思う。俺を取り込むことと、エリス王女のこと。エリクがどっちを優先するのか。
もしエリクが俺を取り込むことを優先するなら――
※ ※ ※ ※
「アラン、アースドラゴンは私に任せて! マイクはイフリートをお願い!」
タンクのジェイクがスキルを発動して、
索敵と遊撃はマルシアで。
15体いた魔物は、20分ほどで全滅した。
「おまえたちの連携もだいぶ良くなったな。敵が多いときの戦い方も解って来たみたいだし。だけど死にたくないなら、絶対に気を抜くなよ」
「アリウス、解っているわよ。他に何か気づいたことがあったら、遠慮しないで指摘してよね」
俺はジェシカたちと
今日は放課後ダリウスと話し込んで。『魔神の牢獄』の攻略に行くほど時間がなくなったからな。
以前、『たまに1時間くらい『ギュネイの大迷宮』にダメ出しに行くのは構わない』ってジェシカに言ったことを思い出して。自分が言ったことの責任を果たしに来たんだよ。
ジェシカと『
俺がジェシカたちと一緒に『ギュネイの大迷宮』の150階層を攻略してから、約2ヶ月が経っている。今、ジェシカたちは152階層を攻略中だ。
2ヶ月で2階層しか攻略が進んでないけど。2ヶ月前に挑んだときは、ジェシカたちは俺が数を調整して150階層でギリギリってレベルだったからな。自分たちだけで攻略することになって、145階層からやり直したんだよ。
この2ヶ月で、ジェシカたちのレベルは15くらい上がった。だけど安全マージンを考えれば、152階層辺りが適正だろう。
2ヶ月で15レベル上げたのだって、結構頑張っているからな。いや、俺が言うのも何だけど。普通はそんなに簡単にレベルが上がらないんだよ。
レベルは目安に過ぎないけど。B級冒険者が50レベル以上で、A級冒険者が100レベル以上。300レベル前後からS級冒険者ってところだ。
ゲイルは28歳でA級だし。今、カーネルの街に『白銀の翼』以外のS級冒険者はいない。つまり20代前半で300レベルまで上げたジェシカたちは、相当優秀だってことだ。
ちなみに152階に出現する魔物は、ドラゴン系ならさっきのアースドラゴンにトリプルヘッドドラゴン。精霊系ならイフリートにセルシウスといった人型の大精霊。悪魔系ならネームドじゃないアークデーモンってところだ。
もう少し下の階層になると、俺が5年前に苦戦した
しばらくは,この辺りの階層で全体的なレベルアップだな。
※ ※ ※ ※
『ギュネイの大迷宮』に挑んだ後。たまには一緒に夕飯を食べようと、俺はジェシカたちと一緒にカーネルの街の冒険者ギルドにやって来た。
「よう、アリウス。久しぶりだな」
「ゲイルは相変わらずだな。マスター、肉中心でメシと酒を適当に。早くできる奴から持って来てくれよ」
「今日は当然、アリウス君の奢りだよね。マスター、お酒は一番高いのをボトルで。料理も高い順にジャンジャン持って来てよ!」
マルシアはホント、ブレないよな。ある意味で尊敬するよ。
いつもの調子で沢山の料理と酒を注文して。ゲイルのパーティーの連中も加わって、俺たちが夕飯を食べていると。
「なあ、あんたたちがS級冒険者の『白銀の翼』だよな?」
知らない顔の冒険者に声を掛けられる。
明るい色の髪のツインテールで15、6歳。客観的に見て美少女と言える顔立ち。
だけど可愛らしいのはそこまでで。喧嘩を売っているのかって感じで、目つきがやたらと鋭い。
ツインテール女子の後ろにも、俺の知らない冒険者が5人。全員10代半ばの女子で、ツインテール女子と同じようにこっちを睨んでいる。
まあ、最近俺はカーネルの冒険者ギルドにあまり来ないからな。知らない冒険者がいても不思議じゃないけど。
「何だよ、おまえら?」
アランの反応を見ても、顔なじみって感じじゃないな。
「別に用って訳じゃねえよ。カーネルの街で『白銀の翼』の次にS級冒険者になるのは、私らだからな。一応、挨拶しておこうって思ってね」
なあ、他の冒険者全員に喧嘩を売っているのか。まあ、全員10代半ばで50レベルを超えているし。調子に乗るのは解らなくはないけど。
「そうなんだ。だけど冒険者は甘くないからね。生意気なことを言うと、あたしが虐めちゃうよ」
マルシアは酒と料理に夢中になりながら、彼女たちを見もしないで言う。
「チッ! 今の時点で、マルシアさんに喧嘩を売るつもりはねえよ」
マルシアはふざけているように見えて隙がない。まあ、こいつらとはさすがに格が違うよな。
「まあ、せいぜい死なないように頑張れよ」
俺はツインテール女子に話し掛ける。冒険者は常に死と隣り合わせだからな。当たり前だけど、死ななかった奴だけが強くなれる。
「何だ、デカブツ……てめえに用はねえんだよ」
いきなり睨まれる。まあ、たぶん俺はこいつらよりも年下だし。見た目もせいぜい10代後半だからな。同世代だと舐められているんだろう。
だけど、俺は舐められるのが嫌いなんだよ。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 15歳
レベル:2,354
HP:24,712
MP:37,630
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