第78話:無茶苦茶だな


 勇者の出方は解ったから。とりあえず、しばらくは傍観だな。

 魔王アラニスが勇者アベルに後れを取るとも思えないし。


 話は変わるけど。学院は前世の高校と同じで、7月の後半から夏休みになる。まあ、元はゲームの世界だからな。


 夏休みになれば、俺は毎日ダンジョン攻略の日々を送るつもりだ。それ自体は楽しみだけど。

 その前に区切りとして、夏休み前に2つ目の最難関トップクラスダンジョン『魔神の牢獄』を攻略したい。


 『魔神の牢獄』に出現する魔神『偽神デミフィーンド』は、階層が深くなる度に凶悪さを増す。

 3階層に出現する『闇の魔神』はブラックホールのように全てを吸い込んで消滅させる遠隔攻撃と。闇から突然出現する斬撃を放つ。どの距離でも全く隙が無いんだよ。


 今の俺だとウイークデーは『魔神の牢獄』を、3階層まで攻略するのがギリギリだ。

 それでも少しずつ攻略する時間は短くなっているし。週末はさらに深い階層まで攻略を進めている。


 期限を設定したからって、焦るつもりは全くないけど。明確な目標を定めた方が集中できる。これは俺自身との戦いでもあるからな。


※ ※ ※ ※


「それで、アリウス。僕たち・・・の夏休みの予定だけど」


 エリクのサロンで。俺はエリクと2人きりで昼飯を食べている。

 月曜日に学院に登校するなり。エリクに昼休みに話があるからと言われたけど。

 俺が予想していた通りに、面倒な話だった。


「エリク、ちょっと待てよ。俺が夏休みも忙しいってことは、おまえだって解っているだろう」


「勿論だよ。だけどアリウスは転移魔法テレポートで移動できるよね。だから君の予定の合間に、僕に付き合うことくらいできるだろう」


 エリクの要求がだんだんエスカレートしている気がするんだけど。俺の気のせいじゃないよな。


「アリウスを長時間拘束するつもりはないから、そこは安心して良いよ。僕はちょっと野暮用で、グランブレイド帝国に行くことになってね。アリウスに付き合って欲しいんだ」


 グランブレイド帝国はバーンの祖国だけど。最近もう1つ、厄介な話を聞いたよな。


「なあ、エリク。これ以上訊きたくないんだけど」


「ダメだよ、アリウス。この話はダリウス宰相も了承済み・・・・だからね。今回の件は一歩間違えば国際問題になるし。アリウスには申し訳ないけど、君にとっても貴族としての経験を積む良い機会だと思うよ」


 外堀は埋めてあるってことか。まあ、ここまで聞けば、何をしに行くのか想像がつくけど。


「エリス殿下を、グランブレイド帝国に連れて行くのか」


 エリクの姉、ロナウディア王国第1王女エリスは、グランブレイド帝国皇太子の婚約者だ。

 そのまま結婚する流れで、帝国に留学していたのに。突然学院に現れて『もう2度と帝国には戻らない』って言い出した。


「アリウスは察しが良くて助かるよ。だけどその前に、姉上を説得する必要があるけどね」


「そっちの方が大変そうだな。エリク、せいぜい頑張ってくれよ」


 エリスを説得できなかったら、それまでの話だからな。俺としては面倒なことに関わる必要がなくなるし。

 一歩間違えば国際問題になると言っても、グランブレイド帝国と戦争になる訳じゃないだろう。


「アリウス、何を言っているんだよ。姉上を説得するにも、君に協力して貰うからね」


 いや、本当に何を言っているんだよ。全然意味が解らないんだけど。


「なんで俺がエリス殿下を説得するんだよ?」


「そんなことを僕に言われてもね。陛下のご指名だから」


 エリスは『私を説得したいなら、納得させるだけの話を持って来なさい』と言っているらしいけど。なんでそれで俺が説得することになるんだよ。

 そもそも俺がエリスを説得する理由なんてないからな。


「王族の責任や常識については、陛下も僕も姉上に何度も説明しているけど。姉上は納得しないんだよ。ドミニク皇太子殿下と何かあったみたいだけど。それについては皇太子殿下も姉上も何も教えてくれないしね」


「だからって、俺が何を説得するんだよ。政略結婚だろうが何だろうが、他人の俺がどうこう言う話じゃないだろう」


 そもそも俺はエリスのことを良く知らないし。国際問題になるから諦めろだなんて言いたくないな。


「アリウスは僕と同じ年なのに、冒険者として様々なことを経験して来ただろう。その経験で何とかできないかと、陛下は思っているんじゃないかな。勿論、一縷の望みくらいにしか考えていないとは思うけど」


 いや、俺の経験なんて偏っているからな。人を説得する材料になるとは思わない。

 国王だって、それくらい解っている筈だよな。


「なあ、エリク。おまえたち・・・・・は何を企んでいるんだ?」



「別に何も企んでいないよ。僕はアリウスに姉上と話をして貰いたいだけだ」


 いや、絶対に企んでいるだろう。


「アリウスが姉上を説得できないなら、僕も諦めるよ。姉上の件は、陛下も僕に一任しているからね」


 つまりエリスの運命を俺に握らせるってことか。無茶苦茶だな。だけど――


「なあ、エリク。俺がエリス殿下を説得できなかったら、説得することを無条件で諦めるってことか」


「そうだね。この件で姉上が不利益を被ることはないよ」


「だったらエリス殿下を説得する前提じゃなくて。話をするだけなら引き受けるよ」


 いや、何度も言うようだけど。俺はエリスのことを良く知らないからな。

 だから余計な口を挟むつもりなんてないけど。そっちが関われと言うなら、政略結婚とか国際問題とか政治的なことを全部無視して。エリス個人と話をするからな。


「うん。それで構わないよ」


 これでアッサリ認めるとか。エリクと国王が何を企んでいるのか、だいたい察しはついたけど。どっちを優先する・・・・・・・・のか。確かめておく必要があるな。


「ということで。今週の水曜日の夜に、アリウスは姉上をエスコートしてくれるかな。店は予約済みだし、馬車も用意してあるから問題ないよ」


 お膳立ては整っているってことか。まあ、とりあえず乗ってやるよ。

 だけどエリクが優先するモノ次第で、俺たちはになるかも知れないからな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:2,354

HP:24,712

MP:37,630



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