第75話:ノエル
午前中の授業は座学だから。いつものように聞き流して、本を読んでずっと過ごした。
今俺が読んでいるのは花の育て方の本だ。植物について深く知ることで、植物系モンスターを倒すヒントになるし。
そんな即物的な意味じゃなくても。同じ趣味を持っている奴との話のネタになるとか。知識は無駄にならないからな。
今日は水曜日だから、昼休みはノエルと図書室で過ごすことになっている。
教室から図書室に直行すると。ノエルが先に来て、いつものように本を読んでいた。
「アリウス君、早かったね」
「ノエル、昼飯は食べたのか?」
「ううん、まだだけど。なんかご飯よりも、早く図書室に来たくて」
ノエルは筋金入りの本好きだから、本に夢中になると食事も忘れそうだよな。まったく、しょうがない奴だ。
「俺もまだだから、一緒に食堂で食べるか。本なら食堂でも読めるだろう」
「うん! アリウス君と一緒のゴハンだね!」
2人で廊下を歩いて食堂に向かう。なんかノエルが嬉しそうだな。
『今日のランチ』のプレートを取って、空いている席に適当に座る。
1番奥のテーブルでは、ソフィアと取り巻きたちが他の生徒と一緒に食事をしている。
取り巻きたちがテーブルを占領している訳じゃじゃなくて。貴族の生徒と平民の生徒が隣り合って座っている。
食堂の雰囲気も、院に入学した頃と随分変わったよな。これもソフィアが頑張ったからだ。
ソフィアが俺たちに気づいて笑顔で近づいて来た。
「ノエルさん、こんにちは」
「こ、こんにちは。ソフィアさん」
ソフィアの取り巻きとノエルは一悶着あったけど。ソフィアが謝って、わだかまりは解けたと思う。だけどノエルは人見知りだから、まだぎこちないな。
「アリウスは午後も授業をサボらないんですか? アリウスにしてめずらしいですよね」
ソフィアが
「俺だって、たまには一日授業にでることもあるからな」
「なかなか殊勝な心掛けですね。じゃあ、アリウス。みんなが待っていますので」
ソフィアはノエルに気を遣ったのか、直ぐに取り巻きたちの方に戻っていく。
「なあ、ノエル。今は何の本を読んでいるんだよ。俺は花作りの本を読んでいるけど。これが結構面白くってさ」
「アリウス君もジャンルを問わずどんな本でも読むよね。私は――」
こんな風にお互いが読んでる本の話とか。数学が苦手なノエルに俺が勉強を教えたりとか。何のことはない話題だけど、ノエルと話していると心地良い。
ノエルが自分の考えを押し付けるような奴じゃないからだ。だけど人の意見に迎合する訳じゃなくて、自分の考えをしっかり持っていて。自分が好きな話になると本当に楽しそうに喋る。
ノエルと一緒にいて気を遣わないし。ノエルに気を遣われてないことが心地良いんだよ。
「なあ、ノエル。ミリアって奴がおまえに会いたがっているって話をしただろう」
「うん。ミリアさんもアリウス君の
ミリアの件に関して、ノエルはあまり乗り気じゃない。俺が勧めるから、会っても良いって感じだな。
「いや、ノエルが気が進まないなら、無理に会わなくても構わないからな」
ミリアとノエルなら友だちになれると思うけど。これは俺の意見で、押し付けるつもりはない。ミリアには期待させて悪いけど。ミリアなら説明すれば解ってくれるだろう。
「ううん。アリウス君は私のことを考えて、勧めてくれるんだよね? だったらミリアさんに会うよ。アリウス君の友だちなら、信用できそうだし」
ノエルの視線の先にはソフィアがいる。知らないうちに、ソフィアにアシストして貰ったみたいだな。
「じゃあ、ノエルの都合が悪くなかったら。今日の放課後はどうだ?」
まあ、作戦って言っても話の切欠に過ぎない。あとはミリアとノエル次第だからな。
「私は別に構わないよ。だけど急な話で、ミリアさんの方は大丈夫なの?」
「ああ。今日の放課後は空いているって、今朝確認したからな。まあ、一応問題ないか訊いてみるよ」
ミリアに『
ミリアも食堂のどこかで昼飯を食べているだろうけど。ノエルが人見知りなことは伝えてあるからな。いきなり会話に割り込んで来るようなことはしない。
放課後の予定も決まったし。これで問題ないと思っていたんだけど。
「アリウス君は……ミリアさんと『伝言』を登録しているんだね」
そう言えば、学院の生徒で俺が『伝言』に最初に登録したのはノエルだったな。
「ああ。考えてみれば、学院の生徒で『伝言』に登録したのはノエルとミリアだけだな。他の奴とは『伝言』でやり取りなんてしないし」
王族や貴族は証拠を残すという意味もあって、緊急時以外の文書のやり取りには昔ながらの書簡を使うんだよ。それにみんなとは普通に会えば良いだけの話だし。
特にエリクと『伝言』を登録すると、面倒なことを押し付けられそうだからな。
「ふーん……つまりミリアさんは、アリウス君にとって特別ってことだよね」
ノエルがジト目で見る。いや、俺はノエルも『伝言』に登録しているだろう。
「なんか……ミリアさんと物凄く会いたくなって来たよ」
ノエルがこんなにグイグイ来るなんて、めずらしいな。ちょっと雰囲気が怪しい気がするけど。まあ、まさかミリアと喧嘩するなんてことはないよな。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 15歳
レベル:2,315
HP:24,278
MP:36,998
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