第73 話:バトルモード


 シルヴァンデーモンを倒した後。午前中いっぱい掛けて、学院のダンジョンの5階層を攻略した。


 バーンはタンクとして問題なく役割をこなせるようになった。だけど攻撃好きのバーンがアタッカーに未練があるのは見え見えだな。


「なあ、バーン。今の戦闘スタイルでも、魔力操作が上達すれば攻撃力が底上げされるから。タンク寄りのアタッカーならやれるからな」


「ああ、そうだよな。さすがは親友。俺の気持ちを解ってくれるぜ」


 バーンは相変わらず暑苦しいけど。自分を見つめ直して努力したんだからな。何か報いてやりたいと思うだろう。


「この前も言ったけど。とにかく毎日魔力が尽きるまで繰り返し魔力操作の練習しろよ。何のためにやるのか、明確に意識してな」


 魔力操作に関してはバーンはまだ素人みたいなものだからな。繰り返し練習して感覚を掴むしかない。


「解らないことがあったら、遠慮なく質問しろよ。何でも答えるからさ」


「ああ、アリウス。恩に着るぜ。とにかく今は、解らないことばかりだが。気合いを入れて頑張ってみるぜ」


 バーンは根性があるから、頑張れるだろう。


 とりあえず、もう昼飯時だから。飯を食べるために、いったん地上に戻る。

 今回もミリアが弁当を作って来てくれたけど。


「ミリア、悪いな。こいつらを待たせていたから、飯くらい奢ってやらないとな」


 バーンはジャンとガトウを連れて街の方に戻って行く。


「まあ、仕方ないよな。ミリア、今日も2人で食べるか。だけど心配するなよ。バーンの分くらい、俺は余裕で食べられるからな」


「そうよね。アリウスは一杯食べてくれるから」


 何故かミリアが嬉しそうだな。


「いや、ミリアの弁当は美味いからな。いくらでも食べられるよ」


 ミリアの弁当は前回よりも量が多かったけど、俺は全部平らげた。

 別に無理したんじゃなくて。本当に美味いんだよ。


「ねえ、アリウス。さっき言ってたノエルのことだけど。作戦って、何をするつもり?」


 食後の紅茶を飲みながら話をする。


「いや、そんなに大袈裟なことじゃなくて。ノエルは本当に本が好きなんだよ。だからミリアが好きな本の話をしたら、ノエルと打ち解けられると思ってね」


 俺がノエルと友だちになったのも本が切欠だからな。


「私も本は読むけど。好きな本とか言われても、この世界の本って学術書と伝記とか。知識系のモノばかりよね」


 ミリアが言っていることは、一般人の感覚としては間違っていないけど。


「実はそうでもないんだよ。この世界にも物語とか小説が結構あるんだ。そもそも本の値段が高いから、買うのは貴族か金持ちの商人くらいだけど。学院の図書室にはその手の蔵書も、結構あるからな」


「嘘……私も図書室はそれなりに利用しているけど。小説なんて見たことないわよ」


「まあ、学院は権威主義なところがあるからな。学術書っぽいタイトルの本しか、置いてないんだよ。中身は別にしてね」


 書く側も世間体を理解しているみたいで。タイトルは学術書みたいだけど、中身は恋愛小説ってモノもある。


「たとえば『とある魔術士の記録』って本があるんだけど。中身はほとんどラノベだからな」


「え……アリウス、冗談じゃないのよね? だったら、なんでもっと早く教えてくれなかったのよ! この世界でラノベが読めるなんて、夢みたいじゃない!」


 ミリアがここまでラノベに食いつくとは思わなかったな。


「ちなみにノエルが最近ハマっているのは恋愛小説だ。図書室にある恋愛小説のリストなら、たぶん用意できると思うけど」


 恋愛小説は俺の趣味じゃないけど。最近図書室の職員と知り合いになったから、頼めばお勧めの本くらい教えてくれるだろう。


「恋愛小説……ねえ、アリウス。ノエルが好きな恋愛小説って、アリウスも読んだことがあるの?」


「『近衛騎士理論』ってタイトルの本は、ノエルに勧められて読んだな。真面目で地味なヒロインと、派手な貴族女子が主人公の近衛騎士と三角関係になる話で。結局は――」


「アリウス、もう良いわよ。何となく解ったから。私、その小説を読んでみるわ」


 ミリアが何が言いたいのか。イマイチ良く解らないけど。2人が同じ小説を読めば、その話で盛り上がるんじゃないか。


 このタイミングで、バーンたちが帰って来きたから。ダンジョンの攻略を再開する。


 ミリアにも近接戦闘の経験を積ませたいから。午後は前衛に立って貰った。

 代わりに俺が治療役ヒーラーだけど。学院のダンジョンのレベルなら、俺がやっても問題ない。


 ミリアは剣術のレベルとSTRが高くないから、目立たないけど。観察力があるし、堅実に行動するから前衛も無難にこなせるんだよな。

 だけど魔法の才能の方が高いから、中衛か後衛向きだな。


 俺の感想を素直に伝えたら、ミリアは納得していた。


「だけど、アリウス。もしも……万が一よ。私がアリウスの隣に立とうと思ったら、前衛としても、もっと戦えないと駄目よね」


「剣と魔法両方のレベルを上げるって意味なら、微妙なところだな。万能型を目指すと器用貧乏になりがちだし。俺の師匠の1人は魔法だけで前衛もこなすけど、あれは例外だからな」


 セレナはゼロ距離で魔法を撃って敵を殲滅するし。防御魔法だけで前衛以上の防御力がある。

 だけど他人が簡単に真似できることじゃないからな。ミリアには勧められない。


「要するに剣も魔法も使い方次第ってことよね。闇雲にレベルを上げるんじゃなくて、自分のスタイルに合わせて必要な能力を上げろってことでしょ」


「まあ、そういうことだ。俺も一通りの魔法とスキルを覚えたけど。実際に使うものしかレベルを上げてないからな」


「一通りの魔法とスキルって……アリウスは全部使えるの?」


 ミリアが唖然としている。余計なことを言ったな。


「とにかく、ミリアの考え方は正解だと思うよ。あとはミリアも魔力操作の精度を上げれば、剣も魔法も底上げできるからな」


「全部使えることは否定はしないのね……まあ、良いわ。アリウスの話は参考になったわ。ありがとう」


  ミリアも本気で強くなりたいみたいだからな。俺にできることは、してやりたいと思う。


※ ※ ※ ※


 ミリアとバーンと夕方に別れた後。俺は2つ目の最難関トップクラスダンジョン『魔神の牢獄』に直行する。


 今から試験休みが終わる火曜日まで約80時間。食料は十分持って来たからな。これから俺は泊まり込みで『魔神の牢獄』を攻略するつもりだ。


 眠る時間以外は『魔神の牢獄』に挑み続ける――滅茶苦茶充実した時間だよな。


 この世界に魔王アラニスや、他にも俺より強い奴がいることが解ったからな。

 別にそいつらに勝ちたい訳じゃないけど。楽しくなって来たから、やる気が出るのは当然だよな――俺はもっと強くなりたいんだよ。


 どうすれば強くなれるか。そんなことは解っている。命を削るようなギリギリの戦いの中で、延々と戦い続けることだ。


 自分が少しでも強くなれば、強くなった自分にとってギリギリの状況で戦う。それを繰り返せば確実に強くなれる。状況を見誤った瞬間に死ぬけどな。


 俺は80時間を目一杯使って、『魔神の牢獄』に挑み続けた。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:2,315

HP:24,278

MP:36,998

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