第72話:成長

 学院のダンジョン第5階層。

 2週間前にバーンがシルヴァンデーモンに敗退した階層だ。


 だけど今回のバーンは装備からして違う。前回はオーソドックスな幅広の長剣と盾のスタイルだった。


 今回も基本的なスタイルは変わってないけど、盾が大きくなって全身をカバーするタワーシールドになった。

 今回の盾にもグランブレイド帝国の紋章が入っているけどな。


「バーン、ジャンとガトウに鍛えて貰ったみたいだな。じゃあ、お手並み拝見と行こうか」


「ああ、アリウス。任せてくれ」


「前衛はバーンと俺。ミリアには悪いけど、今回も初めは治療役ヒーラーメインで。状況に応じて剣と攻撃魔法を使ってくれよ」


「うん。アリウス、問題ないわ」


 今回の俺の装備は、いつもの2本の長剣だ。バスタードソードの使い勝手は前回試して大体解ったからな。普段使いする訳じゃないから十分だろう。

 今回余裕があったら、他の武器を試してみるつもりだ。


 5階層に出現するのはジャイアントにゴーレムにキメラに、ドラゴンというRPG定番の強敵と呼ばれるような魔物モンスターだ。

 シルヴァンデーモンは一応上位悪魔で、悪魔自体は3階層から出現する。だけど上位悪魔になると、強さはキメラやドラゴンに匹敵する。


 バーンの動きは確かに変わった。最初に出現した魔物は4体のブラックドラゴン。ドラゴンと言っても体長4mくらいだけどな。

 前回は迷わずに突っ込んで行ったけど。今回はタワーシールドを正面に構えて、まずはミリアの位置を確認している。


「バーン殿下が避けても大丈夫です。私も自分でブレスを回避しますので」


 ミリアがバーンの意図に気づいて答える。まだ距離があるし、ブラックドラゴンはブレスを直線に放つからな。冷静に対処すれば回避できる。


「ああ。ミリア、そうさせて貰う。あとダンジョンでは殿下も敬語も不要だ。これからは呼び捨てにしろ!」


 バーンはタワーシールドを構えたまま突進して行く。

 そこに4体のブラックドラゴンがドラゴンブレスを一斉に放つが、バーンは横にスライドするように動いてダメージを軽減する。

 完全には避け切れていないけど、受けたダメージは半減した。


「アリウス、2体はおまえに任せるからな」


 ドラゴンブレスをタワーシールドで防ぎながら、バーンは1体のブラックドラゴンの首を切り落とす。だけどあくまでも防御優先で、ミリアの位置も把握している。


「ああ。バーン、任されたよ」


 俺は左右の剣で2体のブラックドラゴンを瞬殺する。バーンはそれを確認すると、目の前の1体に集中する。


 タワーシールドをブラッグドラゴンに押し付けて攻撃を防ぐと、鱗が薄い腹に剣を突き立てて仕留める。

 以前のバーンだったら、一番防御が固いところを狙っていただろうな。


「バーン。今の戦い方は悪くないと思うよ。ミリアの位置も把握していたし、とりあえず前衛として問題ないんじゃないか」


 バーンのことだから、あまり褒めると調子に乗るかも知れない。だから控えめに褒めると。


「まあ、これくらいは当然だろう。なあ、アリウス。今までの俺の戦い方がダメだってことは理解しているぜ。だから、変な気を遣うなよ」


 バーンには悪いけど。殊勝なバーンって、ちょっと気持ち悪いと思ってしまった。まあ、言っていることは真面だけどな。


バーン・・・も、自分を卑下する必要はないわよ。今の動きは客観的に見ても良かったわ」


 物怖じしないミリアが素直な感想を言う。


「そう言われると悪い気はしないな。だが俺は調子に乗る悪い癖があるからな。ミリアも気づいたら、遠慮なく言ってくれ」


「うん。そうさせて貰うわ」


 まあ、バーンが自覚しているなら問題ないだろう。


 あとはシルヴァンデーモンだな。

 シルヴァンデーモンが来ると解っていれば、今のバーンなら対処するのは難しくないだろう。

 だけど本当に対処できるようになったか見極めるには、突然襲い掛かって来る形がベストだな。


 まあ、俺も出現する魔物をコントロールできる訳じゃないからな。


 それから4度目の戦闘。出現した魔物はアイアンゴーレムだ。

 アイアンゴーレムはパワーがあって装甲も堅いけど。単純な近距離攻撃しかないし、動きも遅い。


 バーンもそれが解っているから、タワーシールドを正面に構えて。アイアンゴーレムが攻撃の予備動作で振り被ると、キチンと横に移動して避ける。


 そして大振りの攻撃が空振りして、隙ができたところに剣を叩き込む。教科書に書かれるような完璧な動きだな。


「ミリア、攻撃魔法を頼む!」


 アイアンゴーレムには物理攻撃よりも魔法の方が有効だ。バーンも理解しているから、自分だけで無理に仕留めようとはしない。


「『聖なる槍ホーリーランス』!」


 ミリアが放った第3界層の攻撃魔法は、マルスが魔法実技の授業で使ったモノだ。

 だけどミリアが放つ『聖なる槍』は同時に3本出現して、しかも1本1本の威力が強い。


 白い光の槍はアイアンゴーレムの装甲を貫いて魔石に変えた。だけどそのタイミングで――


「バーン、新手が来るわよ!」


「ああ、ようやくお出ましか!」


 アイアンゴーレムとの戦闘中に、突然玄室に魔法陣が展開する。

 そこから出現したのは、5体の銀色の鱗と翼を持つ悪魔――シルヴァンデーモンだ。


 まるで謀ったようなタイミングだな。だけどバーンの試験としては悪くない。


「アリウス、2体を頼む! ミリア、耐性強化の魔法は使えるよな」


「バーン、勿論よ。『耐性付与エンチャントレジスト』!」


 ミリアの光属性魔法がバーンの特殊効果耐性を強化する。

 シルヴァンデーモンの攻撃を真面に受けたら、そこまで持たないけど。バーンだって、それくらい解っているだろう。


「前衛の俺の役目は、敵を倒すよりも仲間を守ることだからな」


 バーンはタワーシールドに隠れるように身を屈める。


「だがな――仲間を守れば、攻撃しても構わないんだぜ!」


 タワーシールドと共に3体のシルヴァンデーモンに突進する。体重を乗せた突撃でシルヴァンデーモンを弾き飛ばすと、体勢を崩した1体に剣を叩き込む。


 だけど防御を疎かにしたりしない。直ぐにタワーシールドと剣を構え直して、敵の攻撃を待ち構える。

 シルヴァンデーモンが魔法を放つけど、タワーシールドで防いでいるから、それほどダメージはない。


 敵の攻撃を自分に集中させて、防御重視で隙を突いて相手のHPを削る。

 地味だけど悪くないやり方だ。


「ミリア!」


「うん。解っているわよ――『聖なる槍』!」


 光の槍がシルヴァンデーモンに風穴を開ける。

 バーンはミリアとの連携で、3体のシルヴァンデーモンを殲滅した。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:2,221

HP:23,288

MP:35,496


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